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週刊READING LIFE vol.187

姫になりそこなって女房ができあがった話《週刊READING LIFE Vol.187 最近のほっこりエピソード》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/09/26/公開
記事:西條みね子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
うーむ。
思ってたんと違う……。
自分の姿をかえりみながら、私はこの差分はなんなのだろう、と真面目に考え始めた。
 
 
古民家で十二単を着せてくれるらしい、と耳にしたのは、コロナ禍に突入する直前のことだった。
市で保存している古民家の催し物の一つで、定期的に開催しているらしい。昔の日本を舞台にしたテーマパークや、歴史資料館的な所で「十二単体験」をやっているところはあるが、このような少人数で、古民家などを使って体験させてくれるようなところは珍しい。
「いいね! 行こう行こう」
二つ返事で乗り気になったものの、直後にコロナ禍に突入し、あえなく延期となった。着付けという、人と人が密になってしまう行為ゆえ仕方ない。仕方なく再開を心待ちにしていたのだが、また開催されているらしい、と耳にしたのが1ヶ月前。そして今日、満を辞して十二単に臨む運びとなったのである。
 
十二単と言えばもちろん平安時代だ。
それまでの日本は、先進国である中国の文化を積極的に学んでいたため、服装も中国(当時は唐)の影響を受けていた。「天女」や七福神の「弁財天」をイメージするとわかりやすいのだが、着物の上から裙(も)という、足が見えるくらいの丈の布を下半身に巻くスタイルだ。(一見、前掛けのようである……)ちなみに髪も唐風で、後ろに長く伸ばすのではなく、肩の長さまで垂らしてから折り返し、頭頂部で結い上げていたようだ。
それが、唐の国内が乱れ、遣唐使が廃止されたのが894年。白紙に戻そう遣唐使である。この頃から日本独自の文化、いわゆる国風文化が発達した。前掛けの裙(も)はなくなり、袴の上に何枚もの着物を重ね着する、十二単が誕生したのだ。
 
当日の朝、私はわくわくと電車に乗った。
以前、同じく十二単を来たことがある、という後輩から話を聞いたことがあったのだ。彼女は四国にある、十二単を着せてくれる宿に泊まった時のことを話してくれた。その宿は5000坪の広大な敷地に、客室は10室のみ。ナント全室、平安時代の建築である寝殿造りが忠実に再現されており、御簾で仕切られた寝室で眠るという、平安貴族さながらの体験ができる宿らしいのだ。
「大学生のとき友達と行ったんですけど、2人とも十二単着て、『更級日記ごっこ』したんですよ〜〜」
更級日記といえば、菅原孝標の女(むすめ)が少女時代から晩年までを綴った日記だ。彼女は元祖・文学娘である。高校の時、古文の教科書に出てきたエピソードを思い出した。彼女はとにかく物語が好きで、この世の物語を全部読みたい、と願掛けしていたら、知り合いの叔母さんに当時大ブームだった源氏物語を全巻プレゼントされ、狂喜乱舞し朝から晩までご飯も食べずに読みふける、というものだ。
後輩はその真似をして、十二単姿で和綴じの草子を読んだり、和歌を詠んだりして楽しんだらしい。
そんな話を思い出しながら、私はこのわくわくが、単なる珍しい服装をしてみる、ということだけではないと気づいていた。
そう、これはコスプレなのである。衣装も着てみたいが、「なりきり」をやってみたいのだ。しかも、舞台は実物の古民家だ。寝殿造りの御殿とまではいかないが、それっぽい雰囲気を味わうには十分である。
百人一首の絵札の姫たちを思い浮かべながら、誰になろうかなぁ、などとほくそ笑んでいたら、林の中に建てられた古民家に到着した。
 
一緒に申し込んだのは、近くに住む姉と小学5年生の姪である。姪は着物が好きで、同じく日本文化的なものが好きな私と気が合うのだ。
開始時間になり、古民家の中で説明を聞く。「十二単」というものの、着物を十二枚重ねていたわけではないらしい。当時は枚数は決まっておらず、だんだん、華美なものが追求された結果、20枚くらい重ねていたこともあったそうだ。平安時代後期には、とうとう、重ね着する袿(うちぎ。下着の上に着る着物)は5枚まで!! という決まりまでできたらしい。
着物が重いので当時の貴族はほとんど動かなかった、というが、どれくらいの重さなんだろうか。今日はそのあたりもわかるはずだ。
 
順番が来て、待合室になっていた部屋から、着替える部屋に呼ばれる。
6畳ほどの部屋に、着物姿の女性たちが6、7人ほどいて、ごった返していた。この催しは古民家を所蔵している市が企画しているが、有名な着付け学院が協賛になっており、着付けはその学校の先生たちが来てくれているのだ。
私の前と後ろに1人ずつ先生が立ち、2人がかりで着付けが始まった。前の先生はどうやら、院長先生らしかった。
「ハイ、ではまず右手を通してー」
下着の上に、美しい着物が重ねられる。十二枚じゃないみたいだけど、何枚重なるんだろ……と思いつつ、一枚、重ねられるたびに少しずつ重くなっていくのを感じていた。面白いのは、一枚重ねると、胸の下あたりを紐で結んで形を整えるのだが、上の着物を重ねて紐で結ぶと、下の着物の紐は抜き取ってしまうところだ。
「最終的には、1番上の紐しか残らないんですよ」
こんなに重ねているのに、おさえているのは1番上のみ、とは……。それでも着崩れず、首元のかさねの色目が綺麗に維持されているのは、着付ける人の腕前ということだろう。さすがは院長先生だ。
せっかくなので、着付けてもらいながら質問してみる。
「これって、本物の絹ですか??」
「そうですよー。全部、正絹(しょうけん)ですよ」
どうりで色艶が美しいはずだ。こう言っちゃなんだが、いわゆる「十二単体験」的なところで着せてくれる着物は、絹ではなくポリエステルのものが多い。汚れに強く洗えるのは良いが、安っぽさが全面に押し出されてしまうのは否めない。
それが、これだけの枚数が全部、本物の絹なのである。なんという贅沢品……!
「うちの学院で、資料として持っているものなんですよ」
なるほど。着付け学院は、いわゆる現代で着る着物の着付け方を教えるところだが、言ってみれば服飾のプロであり、着物のプロだ。きっと、十二単だけでなく、日常着の小袖とか、江戸時代の武家装束とか、他の種類の着物も資料として持っているに違いない。ポリエステルなど置いているはずがないのである。
「今日はちょっとね、パンフレットの写真も撮りたいとかで、うちで持ってるものの中でも、いいものが来てますよ」
やったやった。全部絹であるだけでも滅多にない経験だが、中でも良いものを着せてもらっているらしい。美しい模様の入った表着(うわぎ)をみながら、私は胸の中で小躍りした。
最終的に、1番上の唐衣(からぎぬ)も含めて、重なった着物は10枚だった。最後に、裳(も)という紐で全ての衣装を結び、いよいよ完成だ。
「少しずつ、歩いてくださいね」
そろそろと歩き出す。袴が長いので、ちゃんと畳を踏めているのか、足取りが危なっかしい。重い……。動けない重さではないが、これで日常を過ごすのは大変だ。屋外に出る気にはならず、それこそ物語でも読みふけるしかない。
檜扇(ひおうぎ)という扇も持たせてもらう。お雛様の女雛が持っているアレである。扇子と同じ形だが、仰ぐためではなく顔を隠すために使われていたため、扇子より2倍は巨大化しており、閉じた形はハリセンそっくりであった。
「おおー」
姉や姪が声をあげる。前後左右からスマホで写真を撮ってもらい、私は気取ってポーズをとった。自分で自分の姿があまり見えないのが残念だ。立ったり座ったり俯いたり、いろんな角度から写真を撮ってから、また、そろそろと歩いて控え室に戻った。
次は姉の番である。スマホを渡してもらい、私はわくわくと写真のフォルダを開いた。
「わー、こんな感じなんだ」
良いもの、と聞いただけあって、遠くから全体を眺めた着物は重なりの色目も美しく、自分で着ている時にみた以上の美しさだ。場所は古民家だが、畳の上には緋色の毛氈もひかれており、そのコントラストも美しい。
「……。」
たくさんの写真を眺めながら、私はうーむと考えていた。何か、思ってたんと違う……。着物は美しいし、立派な十二単姿なのだが……。
一言で言うと、「姫」感がないのである。
そこへ、着付けの終わった姉が、そろそろと表に出てきた。
「わー、きれいきれい」
姉の十二単も素敵だ。姪と一緒に写真を撮りまくったあと、また再び写真鑑賞に戻る。次は姪の番だ。着替えが終わり、戻ってきた姉と一緒に写真をみる。姉も似たような反応だ。
「私、太ったなァ……」
などと、姉がぼやくのを横で聞きながら、ううむと唸っているところに、着付けの終わった姪が登場した。
 
「……姫だ!!」
 
まごうかたなき姫が、そこにいた。
美しい重ねの衣装にやや埋もれるような佇まい、袖はたっぷりと余った布が折り重なり、座ると前後左右に広がる。裾は後ろにつけた裳と一緒に、弧を描いて美しく背後に広がり、まさに、日本画に絵が描かれる「姫」の姿がそこにあった。
対して、我々のいでたちは、着物の中身が大きいため、袖や裾があまりあまらず、全体的になんだかがっしりしているのだ。ついでに、重ねの色目から細い首がのぞく姪と異なり、首も、上にのっている顔も、当然ながらでかいのである。
若さ、と言ってしまえばそれまでかもしれないが、とにかく、姪から漂う姫感とは全然異なるのであった。
姫だ姫だと言い合った後に、姉がうなづきつつ発した言葉に、「それだ!」と膝を打った。
「なんていうかさ、私たちって、『女房』って感じだよね」
 
そうなのである。私たちは完全に、女房、もしくは乳母であった。
袖で顔を隠し、よよ、と涙を拭うポーズなど取っていたが、アテレコするなら「姫さまもこんなにご成長あそばれて……。婆は嬉しゅうございます」などがピッタリである。
年齢を考えるとそりゃそうだ、いい歳して一体何になるつもりだったのだと思うが、体格でこんなにも差が出るとは思わなかった。いわゆる普通の「着物」が、襟を抜き、キッチリ帯をしめるのと異なり、十二単は身体に沿わせて着物を流しかけているようなものである。なで肩で小柄な体型こそ、美しい曲線を描き、着物の重ねの色目を最大限美しく見せることができるのだ。
 
「清少納言も、こんな気持ちだったのかなー」
枕草子で有名な清少納言が、中宮定子に仕えることになったとき、なんと美しい人なのか、白や紅の着物にかかっている黒髪も、袖からチラリと見える薄紅色の手のひらも美しい、と夢見心地になった文章が記されている。その頃、定子はまだ10代、清少納言は定子よりひとまわり上で、30歳前後だったはずだ。
当時は、「姫」は10代のはじめ、12、3歳頃には婚姻していた。その脇を固めていたのが、清少納言たちをはじめとした女房たちである。
11歳の姪が姫感満載になり、我々がまごうかたなき女房然とするのは当然のことなのであった。
 
「ま、いっか。清少納言も紫式部も和泉式部も、みんな女房だしな!」
姫になりそこなった私だったが、満足していた。
後日読んだ、市のHPに掲載されている紹介ページには、小学生の団体による十二単体験の様子が掲載されていた。みんな揃って可愛らしい。「着付けの先生の、『当時はこれくらいで結婚』の話に、母親たちが一寸退いていた」とのコメントにクスリと笑いながら、
「でも、だからこそ、十二単が超絶似合うのは、今だけなんだよ!」
と、心の中でうんうんとうなづいた。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
西條みね子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

小学校時代に「永谷園」のふりかけに入っていた「浮世絵カード」を集め始め、渋い趣味の子供として子供時代を過ごす。
大人になってから日本趣味が加速。マンションの住宅をなんとか、日本建築にけられないか奮闘中。
趣味は盆栽。会社員です。

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2022-09-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.187

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