週刊READING LIFE vol.194

「私は動画じゃない!」からたどりつく授業改善のヒント《週刊READING LIFE Vol.194 仕事で一番辛かったこと》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/21/公開
記事:鈴田峯子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
最近、授業をしていて、よく思うことがある。授業をする者へのハードルが上がったなと。
 
どういうことかというと、生徒たちは、YouTubeの動画を見慣れた結果、生身の先生に対しても、YouTuberの動画のようなクオリティを求めてくるのだ。あとは、YouTubeかテレビを見ているような感覚で、授業に参加しているのではないか、と思うこともしょっちゅうである。
 
YouTubeの場合、目の前に、YouTuberはいない。視聴者は、気に入れば「いいね」を押して、チャンネル登録をする。面白くないと思えば、見ないで、途中で画面を閉じる。そのあたり、かなりシビアに即断即決しているのだと思う。YouTuberは、書かれたコメントや閲覧数、チャンネル登録数を見ながら、どうやったら、視聴されやすいかを試行錯誤して、視聴者受けをする内容を考えていく。
 
では、授業はどうか。目の前には、授業を行っている人が実際に立っている。人気YouTuberのように面白いことを言えて、笑えるお話だけを楽しく話すことが出来るのならば、いいのだろうが、授業は、残念ながら、そういうわけにもいかない。「視聴」している生徒たちが望むような、楽しい話だけをするわけにもいかないのだ。そして、生徒は、YouTube動画のように、話者を選ぶことは出来ない。そうなると、どうなるか? 面白くないな、と思うと、生徒は、聞くのをやめてしまうのだ。まるでYouTube動画を見るのをやめるかのように。
 
もともと、生徒を惹きつけていく授業運営は大切なのだから、生徒の集中力が離れたな、と思ったら、臨機応変に声をかけたりして工夫すればいいのだとは思う。目の前で、リアルタイムに「視聴者」の反応が見えるのだから、よく準備をしておいて、その場に合わせて対応すればいいのだ。その点は、動画を作る人とは異なる有利な点だとは思う。
 
とはいえ、「言うは易く行うは難し」といったところがある。反応は見ているのだけれども、あるYouTube番組に飽きて閉じてしまう場合というのは、基本、もう戻ってはこない。それに似たような現象が起きているような気がしている。そういう時は、「私は、生身の人間だよ。YouTubeやテレビの番組とは違うんだよ! 露骨に聞かない選択をされると、こっちも傷つくんだよ。そんなに面白くないと思わせたのは申し訳ないけども、全部を面白く教えられるわけじゃないし、それに、聞かないで損をするのは、自分の方なんだよ! 『ここ試験に出すよ!』っていう発言も聞いてなかったら、どうするのよ!」と心の中で叫ぶ。
 
このような傾向は、コロナ禍で、動画を視聴しての授業になっていた頃から加速した気がしている。動画視聴でなくて、対面授業に戻っても、生徒たちは、目の前に、生身の人間がいるのだ、ということを忘れがちな気がする。
 
先生も、客商売かも知れないので、ある程度は仕方ないにしても、この、「あなたの授業は面白くなかったのよ」という意思表示は、やられると、こちらもけっこう辛くなる。「ごめんね。みんな……」とは思うものの、「人気YouTuberと比べられてもさ」という気もしてしまったりはする。

 

 

 

他にも、オンデマンドの番組やYouTubeのせいだよな、と思うことはある。最近の若者は、動画を早回しで見る人がとても多いと聞く。実は、そういう私もそうだったりはする。例えば、テレビ番組は、録画をした後で倍速視聴する。見たい番組をためて週末に見ようとすると、けっこうな量になってしまい、許された時間内で見ようと焦るからだ。クイズ番組などだと、考えている時間を早回しして、出題部分と答え部分のみを見てしまう。回答者がもっともらしい意見を言っているのを聞くのも楽しいけれども、正解でなくてそちらが印象に残ってしまうこともあるから、ある意味自衛でもある。コマーシャルも1時間番組だと15分は入っているので、そこを飛ばしてしまうこともある。YouTubeも、「これをすると病気になる7つの習慣」という動画を見ている場合、時間がないがその7つが何かを知りたければ、早回しをしてしまう。YouTuberもよく分かっていて、時間のところどころに小見出しを付けておいたり、「3つ目」と大きく書いた紙を画面に映したりしているので、その画面を探して、そこだけ聞いたりしてしまう。そもそもが、これらは、動画ではなくて、本やブログを早読みしてもいいようなタイプの動画なのだろう。収益化をねらって、ブログの本文などをテロップのように流してBGMを付けただけの動画なども見かけることがあるが、そんな動画にであう度に、飛ばして見るクセがついてしまうと思う。
 
そして、早回しが出来ないタイプの動画だった場合は、画面自体も注視しないと理解出来ない動画かどうかを確認した後、別のことをしながら音声だけを聞いてしまったりする。ようは、ながら勉強である。ながらで聞いている場合は、聞き逃すこともしょっちゅうなので、結局、何度か聞くことになり、必ずしも時間短縮にはならないのだけれども、差し障りのない、例えば、宿題受け取りのはんこや「よく出来ました」などの「見ました」マークを押したりするような時に、ながらで聞いてしまうことはある。
 
自分でも、目の前に話者のいない動画の場合はやってしまっているのだから、そんなに非難は出来ないのだが、生徒は、授業中、話者の目の前でも、悪びれずに内職をしようとするのである。この場合、動画ではなくて、一回きりの話をしていて、聞き逃すと聞き返しは出来ないのに、である。近くに行った時に、内職していることを隠す場合はまだいい。授業以外のことをしてしまっている、という自覚がある。しかし、多分、授業は動画ではない、ということを忘れている感じの人もけっこういるかなと思う。そして、案の定、聞き逃した部分で大事なことを言っていることがよくあって、テストで、何度も同じ間違いを繰り返してしまう。「言ったよね。そういう間違いをするから気を付けましょうって!」と思うが、聞き逃しのため、少なくとも4回は同じ話をすることになる。
 
もちろん、内職は、今の時代に始まったことではない。他の授業の宿題を忘れていたため急いでやってしまうとか、聞いても入試問題には出ないタイプの教科だと、真面目に聞かずに受験勉強をするとか……。ただ、これまた、コロナ禍を通り抜けてきた後の方が、悪びれずにうっかり内職に手を出す生徒が増えているような気がする。そういう時は、「私、生身なんだけどね。テレビではないんだけどね。ちゃんと、内職してるって分かるんだけどね。よく見えてるんだけどね」と思いながら、注意をする。
 
でも、考えてみれば、時々上を見ればいいタイプの授業になっているんだな、とか、人によっては、進みが遅い気がして、暇に感じているのね、ということを示してはいるため、次の授業への改善点にはなる。ただ、残念ながら、生身の授業は、早回しだけはできない。多少遅く感じる人もいるかも知れないが、あまりに早く話すと、理解に支障が出てくる生徒もいる。それぞれのスピードがあるのだろうが、そこにいちいち合わせることは出来ないので、少しゆっくりめに話すことは多い。そこへ持ってきて「暇だ」という露骨な態度を取られるのも、けっこうに辛い。

 

 

 

このような態度を取られるのも、私の不徳の致すところではあるが、授業を聞かない理由が、そもそもが徹夜してゲームをしたために眠くて勉強に身が入らなかったり、勉強に意味を見いだせなくなっている子もいるので、本当に授業運営は難しいなと思う。
 
ただ、それでも授業をして、何とか、話している内容を理解してもらいたい。そして、テストではいい点数をとってほしい。そんな時、どうやって持ち直すようにしているか。
 
YouTuberのむこうをはって、巧みな話術で生徒を引き込む技術を磨くことも大切なのだろうけれども、まずは、動画と比べられるような授業をしないようにすることなのだと思う。授業では、説明する時間も必要なため、なかなか思うようにいかない時もあるが、写真や再現映像などを見せて、上を向かせるようにするし、たくさん質問を発したり、グループワークを設けたりしながら、双方向の授業にすることが大切だと思う。そうでないと、対面の意味がなくなってしまう。ひと頃は、換気が十分ではないかも知れないところで会話をさせることに抵抗もあったのだったが、そんなことを言っていると動画と差が付かない。他の生徒との関わりを持つことを楽しんでいるようなので、許す限りは、双方向タイプの授業を行うのがいいのかなと思う。
 
また、説明がどうしても多くなる時間には、新たな動画を立ち上げたかのような気分にさせる、つまり、気分転換させてから、新たに始める、といったことも、こまめにするようにしている。さっきの「動画」はちょっと面白くなかったかも知れないけれど、今回の「動画」は、またちょっと違いますよ、という感じだ。ただ、よほどのことがないと、またすぐに飽きられる可能性があるので、小見出し的に目先を変えないといけず、こちらは、まだ試行錯誤している。

 

 

 

きっと、人前で話す仕事の方は、似たような経験をされている方もいるのではないかと想像する。動画があふれている昨今、動画と争うようなことはしてはいけないのだと思う。それなら、動画を自分のペースで早回ししながら見ても事足りるからだ。目の前で話しているからには、目の前に話者がいるメリットや、学ぶ仲間がいるメリットがもっと感じられないといけないだろう。「私はテレビじゃない!」「私はYouTubeじゃない!」と叫びたくなる度に、「あー。またやってしまった。ただの『動画』になってしまった。気を付けなければ!」と思う。双方向の授業は、実は、教科によって向き不向きがある場合もあるし、考える授業は時間もかかるので、カリキュラム上難しいこともあるのではあるが、一方通行的にならないように、出来るだけ心がけるようにしている。
 
仕事で辛いと思ったこと(私はテレビじゃない! と思うことなど)は、技術を向上させるヒントでもある。動画が溢れる世の中は、対面授業のハードルをすごく上げたとは思うが、時代に即した工夫が出来るように、柔軟に構えていきたいものだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
鈴田峯子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

日々、授業の出来・不出来に悩んでいる教師。

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2022-11-16 | Posted in 週刊READING LIFE vol.194

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