週刊READING LIFE vol.194

入社3年目に知りたかった、仕事の壁の乗り越え方《週刊READING LIFE Vol.194 仕事で一番辛かったこと》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/21/公開
記事:久田一彰 READING LIFE編集部ライターズ倶楽部
 
 
同じ会社に18年もいると、成功体験もいくつかあるが、いろいろやらかしてしまったことを痛烈に思い出す。特に入社してから3年目から10年目くらいまでは、ここに書くのも恥ずかしいくらいダメ社員だ。
 
毎週の報告書は、決まって最後か最後から2番目に提出していた。督促されてからが本当の勝負だと、訳のわからない勘違いをしていた。発注ミスで、納品日に品物が届かなかったこと。棚卸し前日まで仕事が終わらず、徹夜状態で在庫商品を数えていたこと。請求書を出し忘れて、取引先から怒られてしまったこと。私の言葉遣いが悪くて、取引先の責任者を怒らせてしまい、出禁になってしまったこと。頼まれていた修理にいつまでも手をつけず、そのまま放置してしまい、同僚たちから詰め寄られてしまったこと。取引先へ行くのに連絡なしで遅刻して行ってしまったこと。こちらの手違いでお客様を怒らせてしまい、土下座をして謝りに行ったことも何度かある。
 
じつはこれ以外にもまだあるのだが、こう並べてみると、かなりのダメ社員ぶりだ。
 
私の不手際が多すぎて、先輩や上司へは本当に迷惑をかけっ放しだ。それなのにあろうことか私は、恩を仇で返すようなことばかりしている。報告・連絡・相談の「ホウレンソウ」なんて全くしていなかった。
 
今でも忘れられないのは、別の拠点にいる先輩への日報や、実績報告をサボって出さなかったこと、指示された仕事をいつまでもやらずにそのまま放置し続ける毎日。誰かが困っていてもいずれ対応するからと返事をするだけで、一向に行動に移さなかった。赤べこのように、その場でただ首を縦に振っているだけの存在だった。
 
その先輩の元には、別の先輩経由で私が仕事を放ったらかしにしている様子が伝えられ、その度に、毎日毎日電話先で怒られながらも、「わかりました」とだけしか言わず、督促されてもやらず、提出物も出さずにいたら、とうとう呼び出しを食らった。
 
申し訳ありません、と先輩の前で頭を下げるが、その場を凌ぐだけで、会社を出ればもう忘れてしまう。なんとかしないといけないと分かっているのだが、どうしたらいいか、何を聞いたらいいのか、当時の私は、その壁を乗り越える方法が全く分からなかった。
 
だけどある日、そのまま提出をサボり、指示されたことを無視し続けていたら、「今からそこへ行くから待っとけ」と言われたが、まさか来るなんてそんなはずはないだろうと思い、無視して帰ったのだが、小田急線のホームで首根っこを掴まれて、会社へ連れ戻されてしまった。
 
見つかってしまった気まずさもあるが、もう逃げられないとネコに追い詰められたネズミのようだった。わたしたち2人の他は誰もいない夜の会社で、「お前、いい加減にしろよ」と言われ、そのまま先輩は私をにらみつけながら、「お前やってること分かってんのかよ! お前を何とか一人前に変えたくてやっているのに、なんで俺だけ怒られるんだろうと思ってんだろ。違うからな」と言われた。他にもいろんなことを言われたが、全て私が悪いことだった。でも、悪いとは思いながらも、どうしたらいいか分からず、「申し訳ありません、申し訳ありません」と、ただ泣いて謝っていた。
 
そんな状態だから、とうとう同僚からも上司からも「あいつをどっかへ転勤させてくれ」という話になっていた。今考えると当然そうなるだろうと思うし、よくこの状態でクビにならなかったという気持ちにもなる。
 
今思えば、自分の仕事をする能力がないというよりも、仕事をどう進めていいか分からなかったし、どうすればいいでしょうか? と素直に聞けなかったことが全ての原因だ。入社して2、3年経つ頃には、仕事が分かってくるようになる、ある種の慣れのようなものと、なんとか仕事を回せているという一人前になったような気がする、根拠のない自信だけの存在になっていた。
 
先輩や上司からは、分からないことがあれば聞いてこいよ、と言われていたが、自分の力だけで解決してやろうというあまのじゃくな気持ちになっていた。だけど、一旦仕事がうまくいかなくなると、ドミノ倒しのように他の仕事にも影響が及ぶ。そして、どんどん悪い方向へ雪だるま式に転がり続け、自分ではどうしようもない状態になってから、先輩や上司へ発覚していまい、怒られてしまっていた。
 
今では分からないことがあれば、すぐに先輩や上司へ電話して聞いて解決できるし、相談する前に自分で解決できるようになっているのだが、当時の私はそんな簡単なことすらできなかった。目の前に巨大な壁が立ちはだかり、八方を塞がれ上も下も塞がれるまで、何もできなかった。壁を乗り越えるどころか、壁に埋め込まれて身動きが取れなくなっている状態の毎日だった。
 
どうしてこうなるまで言わないのか? と思うのだが、相談できなかった。こんなことも分からないのか? と言われるのが怖かった。実際にそんなことを言われたことはなかったのだが、自分の中の想像が悪い方に悪い方にどんどんと風船のように膨らんでしまい、どうしようかと悩んでいるうちに、日がどんどん経ってしまっていた。
 
そして、とうとう転勤させられたのだ。神奈川から東京への異動だ。でも、この異動は上司や会社の立場としては当然のことだろうと思う。こんな社員は他のところに異動させないと、職場の状況は改善しないし、チームのモチベーションも上がらない。だとすれば、戦略的な配置転換だ。と格好く分析しているが、私にとっては良くない評価なので、ここは自戒を込めて記しておく。
 
転勤が決まって、会社では私の送別会と新しい方の歓迎会があった。会が始まって何人かの方からは、こんな私でも仕事ぶりを褒めてくれる方もいた。それは素直に嬉しかったし、仕事を腐らずにやっていこうとも思った。先輩たちからは、言われたことを忘れないようにと、大量の付箋を送別にもらった。
 
そして、新しい職場で最初に上司との面談があった。かつての尊敬する上司の1人だったので、一緒に仕事ができることは嬉しかった。しかし、その表情は優しい顔ではなく、厳しい目つきと険しい表情だった。
 
職場の他の人に話が聞こえないよう、別室に上司と2人きりになった。開口一番、「なんで転勤になったのか分かる?」と言われた。
 
今までのことを振り返ると、とんでもない社員だったことは自覚しているので、一瞬戸惑ったが、「私が仕事をしないからでしょうか?」と素直に答えた。
 
「それもある。だけどお前、それだけじゃないだろう。先輩の言った事もやらない。周りにどれだけ迷惑がかかっているのか分かるか? 会社から給料もらっているのに申し訳ないと思わないのか。他の上司連中と話し合った結果、お前がもうどうしようもないから、会社のお荷物だと言われているんだ。だから俺が引き取ったんだ。この意味わかる?」
 
そう言われながら、私は下を向いたまま頷いた。
 
「もうお前に後はないんだぜ。死ぬ気で仕事やれよ。お前このままだと一生ダメなままで終わるぞ。せっかくもらった最後のチャンスなんだから、もがいて一生懸命仕事しろよ。お前は真面目だし、どこか見所があると思ったから、最初の異動の時、俺が育ててやろうと思って俺の所に配属させたんだ。これから先、お前らみたいな若いのがこの会社には必要なんだ。お前は一生懸命商品のことを覚えていたし、接客も悪くない。そしたら俺が逆に異動になったけど、あれから見ない間にどうしたんだよ。いいか、これが最後のチャンスだからな。しっかりやれ」
 
肩を叩かれながら、会社員として死刑宣告を受けたように私は何もできなかった。自分は想像以上にとんでもない社員だった。もうどうしようもないヤツで、手遅れで出来損ない社員なのだ。この人にそんなことを言わせてしまった罪悪感か、自分の不甲斐なさなのか申し訳なさなのか、自分がとても惨めな気持ちになった。
 
それでもまだこんな自分に期待してくれている上司がいる。それを思うとなんて懐の広い人なんだと思う。それなのにどうして自分はこんなにもダメなことに気が付かなかったんだろう。
 
こんな感情は生まれて初めてだった。今思うだけでも痛い。心が痛くて上司のセリフをここに書いているうちに自然と涙が出る。肉体的なものではなく精神的に痛かった。今まで一番辛い瞬間だった。
 
面談が終わり自分の気持ちが周りに悟られないよう、こっそり自分の机に戻った。ここでやれるだけのことをしようと誓い、仕事を真面目に打ち込んだ。
 
分からないことが出てきたら、素直に先輩に方法を聞いた。それも「どうしたらいいですか?」とただ単に聞くだけでなく、「自分はこう思うんですが、どうでしょうか?」と自分のやってみたいこと、やったらいいんじゃないかと思うことを伝えた上で聞いた。
 
これは、かつて先輩が「お前はどうしたいんだよ。ただ聞いてくるだけだと、それはただのお使いだよ。何で自分がここにいるのか、任されている存在意義は何なのか考えてから聞いてきなよ」とよく言っていた。ただ厳しいだけの先輩ではなく、成長させてくれようと思って言ってくれた言葉だったのだ。
 
転勤してからは、先輩や上司が言ってくれたことを、何度も思い返した。そうしていく内に、自ら囲ってしまっていた壁は、自然と乗り越えられるようになっていった。
 
新店舗の開設を任されたときは、自分なりのビジョンを描きながら、上司と何度も話した。それもメールやチャットだけでなく、きちんと電話や直接会って話していった。かつての先輩にも電話してどんなふうにやっているか聞いたし、先輩の成功体験を聞いて、「私もそれをやってみたいんですけど、教えてください」と、臆することなく言えるようになっていた。
 
そして、一応の成果を出すことができ、2年後には次の新店舗開設申請も本社から許可が出た。本社の担当者からは、「あなただから、結果を出してくれるし、全国の中でも評価もいいからね。頑張ってね、応援してるよ」とお墨付きまでもらえたし、最近は、「あなただから間違いないし、やってくれると信じているからね。なんかあったら言ってきて。私もできる限りのサポートはするからね」とまで言ってもらえるようになった。
 
こうしてダメダメ社員だった私だが、18年経ってようやく分かったことがある。もっと新入社員の時から3年目までに気が付きたかったことだ。
 
それは、仕事で大事なことは、壁を乗り越えることなのだが、もっと重要なことはチームで乗り越えることだったのだ。つまり仕事は1人でするのではなく、チームで話をしながら、どうやったら乗り越えられるのかを考えていくことだった。
 
若い頃は、つい1人で猪のように突っ走り、その壁にぶち当たり、乗り越えられないで苦しんでいたが、よくよく見ると、蜘蛛の糸のように先輩や上司は救いを垂らしてくれていた。それに気づかずにただただもがいていた。よくよく見ると糸は1本だけではなく、無数にあったのに自分が気づかなかっただけなのだ。
 
もし、ダメ社員だった時の私に言うことができるなら、「何でも聞いておいで」に付け加えて、「どんな小さいことでもいいからね、話すことで未来が開けるからね」と言いたい。ただただ言ってくれるのを待つだけでなく、こちらからも話を振っていくのだ。もしかしたら、言うタイミングを待っているだけなのかもしれないし、話せなくて困っているのかもしれない。それに一度だけでなく、ことあるごとに何回も話しかける回数を重ねていく。
 
そして、私だけではどうしようもない時は、周りの同僚や先輩と声をかけていこう。時代劇で忍者たちが壁際に追い詰められたときに、力を合わせて手をつかみ乗り越えられたように、みんなで壁を乗り越えるのだ。
 
会社で仕事をするという当たり前のことが、かつての私には分からなかったが、今でははっきりとその意味がわかる。会社という字には、「会う」という文字が入っている。これだけメールやチャットを使う毎日だが、電話や直接会うことを増やしていく。それが、かつて自分が壁を乗り越えられなくて困っている私にできることだから
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
久田一彰(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県生まれ。駒澤大学卒。
会社員でありながら、「気が付けば残業の日々。俺の人生って何なんだろう? そんなあなたが残業0となり好きな事に没頭いつも楽しそうだよね!」となる人を応援するハイブリッドワークシフト・コンサルタント。
また、愛する妻と息子の応援団長でもある。

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2022-11-16 | Posted in 週刊READING LIFE vol.194

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