週刊READING LIFE vol.195

好きなことに忠実な友人に出会えた日《週刊READING LIFE Vol.195 人生で一番長かった日》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/11/28/公開
記事:山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「やりたいことを見つけなさい」それができたらどれだけ人生が華やいだものになることだろう。一方でそんなことは幻想であり、それを口にするものは少なからず幼稚だと軽蔑のまなざしで見ていた。さらには周りを見渡す限りでは多少の苦労を我慢しながら必死で生きていくことが幸せだと思っていた。
 
自分の人生を振り返ってみても、良い大学を出て良い会社に入社して、目の前の仕事に一生懸命取り組みながら順調に出世していくことが幸せへの近道だと考えていた。
 
ところがいろいろあった30代も終わりに差し掛かるころ、仕事中心の価値観に疑問を感じるようになっていた。
 
5年前に「好きなことして生きていく」を体現している友人に出会うことで、完全に価値観が変わってしまったようだ。

 

 

 

私はもともと旅行することが趣味であったが、なにぶん一人で行動することが多くいくところと言えば、東京や名古屋へのショッピングが多く、遠く足を延ばしたとしても大阪の飲み屋がいいところであり、随分と味気ないワンパターンな旅行となっていた。
 
一人で旅行を企画するのが苦手な私は旅行会社のパックツアーを眺めているが、どうにも心が動かない。何か面白いものはないのか?
 
そんなことを考えながら地元の一風変わった本屋で一つの本が目に留まった。
 
『死ぬまでに東京でやりたい50のこと』なんてことのない旅行のガイド本の一つだが、なぜかタイトルに引き寄せられるように手に取ってしまった。
 
東京での旅行で真っ先に思いつくものといえば、東京ディズニーランド、東京スカイツリーが定番スポットだろうか。あとは渋谷に新宿にきれいな女性を連れてデートすることが真っ先に思いつく。しかし、そんなものは誰でも思いつくし一人でもフラフラと出かけるからなんも面白くはない。東京への旅行はそんな風に考えていた。
 
しかし、その本をパラパラとめくってみると、私では考えもつかない面白い場所がいくつも紹介されている。
 
例をあげれば、スープが毒々しい水色のラーメンを提供しているとか、100種類の焼酎を取り揃えており、「キムチ味」とか「ミートソース味」とか明らかにおかしいものを取り揃えているような変な居酒屋を取り上げており、こんな調子で東京にある50個の珍スポットを面白おかしく取り上げており、いつの間にか購入して夢中になって読み進めており、50個ある珍スポットのうちの、5個ぐらいは実際に足を運んでしまった。
 
私の読書習慣の一つで何かしらの影響を受けた本や著者をとりあえず検索している。その本の著者を例にもれず検索したら、なんと日本全国の「珍スポット」を詳細に取り上げていたブログを運営していた。
 
ブログの開設者のプロフィールを見ると10年間で日本全国にあるいわゆる珍スポットを1000か所以上めぐっており、それを一つ一つ面白おかしく紹介しており、日本各地の珍スポットはもとより、日本全国実際に足を運んでいる事実に圧倒されてしまった。
 
その時から、パソコンのブックマークに彼のブログが加わっており、更新されるのをいつも心待ちにしていた。
 
彼の凄さを思い知らされるようになるのは、本やブログでいくつもの珍スポットを紹介するパワーだけではなく、なんと紹介されている珍スポットだけピックアップしたパックツアーを組んで、旅行業を立ち上げてしまっている。
 
わたしも参加したことあるツアーを一つ上げると、栃木と群馬にある定番の観光スポットをすべて無視して、「秘宝館」に代表されるアダルト系の珍スポットばかりを3か所巡るようなツアーがある。ここで詳細を語るのは憚れるが、日本全国にある珍しいアダルトグッズを集めて館長が観光客に昔のアダルトビデオを見せる博物館や、「命と性にまつわる」研究を真面目に行ってお披露目したら、とんでもなく怪しい博物館になってしまった場所を観光ツアーとして売り出していた。
 
他にも、山手線を歩いて1周しながら沿線にある面白いものを紹介したり、1週間かけて東京から歩いて富士山に登ろうとしているようなブログを残しているぐらいなので、今度は何をしてくれるのだろうかと日々ブログの記事の更新を楽しみにしていた。

 

 

 

2017年の10月ごろ、ブログの記事から私の予想と期待を超える記事がアップされた。
 
「猪苗代に1か月住みます!!」
 
福島県の猪苗代湖ことを指すのだろうがこんなところに一か月も何をするのだろうか?サラリーマンしかやってこなかった私にとって、全然知らない土地に1か月だけ住むという感覚は全く予想できない。
 
実体は「地域おこし協力隊」の活動の一環で1か月猪苗代に住み、福島県の「珍スポット」をとにかく巡り倒して、ブログで紹介していくという活動だった。とはいえ、私にはとても理解のできない行動であり、更新されたブログの記事を常に読んでいる毎日だった。
 
福島の珍スポットには、35年かけて一人で「自分の手で」作った30mの観音様やUFOが降り立った疑惑があることから「UFOふれあい広場」などがある。福島にも大小かき集めればいろいろと興味深い場所もあるものだと夢中になって読んでいた。
 
そんななか、「猪苗代1か月住みます会社」の打ち上げとしてバーベキューを盛大に行うと書かれており、大々的に募集していた。もはや、そのブログに虜になっていた私は、迷うことなく申し込みのボタンを押していた。

 

 

 

2017年10月8日(日):猪苗代1か月住みます会社打ち上げバーベキュー参加者募集
 
この投稿に秒で反応した私は金曜日の夜に静岡から宇都宮まで移動した。
 
10月7日の早朝、宇都宮から猪苗代に向かうことになる。バーベキューに参加するのは楽しみでいっぱいであったものの、不安要素もないことはない。そもそも福島の地に降り立ったのはこの時がはじめてだ。珍スポットのブログの投稿者とは主宰しているバスツアーに一度参加したことがあるものの、直接話をしたわけではない。勢いで申し込んでしまったけど、初対面の人間にフランクに話ができるほど社交的ではなく、どの面下げでコミュニケーションをとるのかも皆目見当がつかなかった。言っちゃ悪いけど、私が偶然見つけたマイナーなブログの一記事を見つけて、単身で福島に行くような人間もさすがにいないだろう。
 
とはいえ、全く訪れることのない猪苗代の地であっても宇都宮から新幹線で郡山まで行ってしまえば造作もないことだ。しかし、あえてそれをしなかった。この旅には別の目的も兼ねていたからだ。
 
唐突な話ではあるが、この時私は「ステーションメモリーズ」というデジタルスタンプラリーにはまり始めていた。原理は簡単で日本中にある駅に停車するごとにスタンプラリーのようにボタンをタップすると、駅を「取得できる」というアプリだ。
 
バーベキューの本番は翌日であり時間はたっぷりとある。新幹線に乗るなんてとんでもない話だ。初めての福島県駅をとりまくるぞ。
 
こうして、宇都宮から日光、鬼怒川温泉経由で会津若松まで向かった。普通に考えれば東北本線で郡山に行くのだが、さらにマニアックなルートで6時間ほど電車に乗っていた。
 
会津若松に到着したころそろそろ宿泊する場所を探さなくてはならない。じゃらんを使えば泊まる場所なんて簡単に見つかるだろうと簡単に考えていた。
 
ところが、今いる会津若松はもちろん福島や郡山に足を延ばしたとしても見事に満室ばかりだ。せっかくここまで来たのに宿でつまずいてしまうとは……
 
知らない土地でファミレスやカラオケボックスで寝泊まりはさすがに勘弁してほしい。必死になってスマホを片手に宿を探した。
 
奇跡的に猪苗代湖の近くのゴルフ場に併設されているホテルに5000円で空きがあった。
 
良かった。助かった。知らない土地でのファミレス泊はどうにか免れた。
 
しかし、安心するのはまだ早い。最寄りの磐梯町という駅から10キロも離れたところにあるという。磐梯町に到着するころには18時を回っておりすっかり暗くなっていた。
 
夜の無人駅というのは独特の雰囲気を醸し出している。明かりもない山の中をグーグルマップを便りにゴルフ場へ向かい、そして眠りについた。

 

 

 

10月8日(日)15時猪苗代駅集合となっている。ゴルフ場併設のホテルに前泊していた私は7時に起床した。
 
そこから猪苗代駅までは大体20キロ、タクシーなんか使ったらお金がいくらあっても足りない。幸い時間はたっぷりとある。
 
どうする?
 
集合まで8時間もある。ハーフマラソンでも2時間もあれば走れるだろう。
 
歩くぞ!!
 
こうして猪苗代湖に沿って20キロをひたすら歩き続けた。道中に野口英世記念館なるものがあり、食事をしながら楽しむことができたものの、やっぱり20キロというのはつらい。余裕をもって歩いたつもりだが、結局集合場所についたのは30分前ぐらいのギリギリになってしまった。

 

 

 

15時近くになってくると続々とバーベキューの参加者らしきものが集まりだした。そういやバーベキューに参加する人ってどんな人たちだろう。到着するまで全く考えていなかったけど、こんなマイナーな記事を追いかけてくるような人はよほどの変わり者に違いない。まあ、静岡から新幹線に全く乗らないで、挙句果てにはゴルフ場から猪苗代湖に沿って20キロも歩く私が一番の変わり者だろうけどね。
 
そんなことを考えているうちに主催者であるブログの開設者と地域おこし協力隊のメンバーがやってきて、バーベキュー会場に向かった。

 

 

 

一人での長距離移動だけですっかりクタクタになってしまった私だが、ようやくメインイベントであるバーベキューが始まった。
 
主催者側は、ブログの開設者とスタッフと地域おこし協力隊の総勢5名、参加者は10人程度とそれなりに集まっての開催となった。東京の人間に猪苗代でバーベキューをやるからといった雑な告知で10人集まったならかなりの数だろう。
 
バーベキューと言っているが、福島県会津地方では伝統的なお祭りで「芋煮会」といってもてなしている。大きな鍋を囲んでみんなで豚汁を楽しむのだ。もちろん豚汁だけではなく隣で肉を焼いてそれを楽しんでいる。普通に肉を焼いて食べているのは面白くないので、シカや熊の肉も焼いてその日ならではのバーベキューを楽しんだ。
 
二次会に当たるのは私たちが宿泊する旅館で盛大に飲み会を行った。私たちにとってはこれがメインイベントといっていいだろう。1か月もかけてめぐり倒していた福島県の珍スポットの紹介とその時の生活についてのプレゼンを聞いていた。
 
福島県の代表的な珍スポットに「UFOふれあい館」がある。本当にUFOが降り立ったのかはかなり疑わしいのだが、UFOの歴史や実際に存在したとされる宇宙人との交信記録が詳しく説明されている。福島は関係ないはずのロズウェル事件なるものも詳細に語られていた。
 
他にもヘタレガンダムという名前で私と同じぐらいのガンダムが立っている農家の紹介など、よくぞここまで見つけたものだと感心するぐらいの珍スポットを教えてもらった。
 
この日は幸せな気分で一日を終えることができた。

 

 

 

今、振り返っても地元の人間でもないのに猪苗代に1か月も住んで、珍スポットを巡り倒してブログの記事で紹介するなんて正気ではない。記事としてのクオリティーは凄く高く毎回楽しく読ませていただいているものの、マイナーな記事を見つけて実際に足を運ぶ参加者も普通ではないと思う。(他の人たちは東京から普通に新幹線で参加しているが)
 
でも、全員初対面で普通ではない人たちが集まったバーベキューはとても充実していた。
 
初対面の集まりなので最初はもちろん緊張していた。しかし、珍スポットと呼ばれる地域の面白い場所や変わった場所が好きなこと、主催者の日々好きなように楽しく生活しているさまを共通事項として集まったので、すぐに打ち解けることができた。
 
この時までは、「ブログの記事を書いている人」と呼んでいたが、この日を境にお互いが「友達」と呼べるようになった。
 
本を書いたり、ブログで多くの人に記事を読んでもらい人を集めることができる人をきやすく友達と呼ぶのは気恥ずかしい気持ちがあるが、彼が情熱を燃やしていることに賛同して会いに行くことができたからこそ、あえて友達と呼ばせてほしいと思う。
 
「好きなことして生きていたい」と思うことはあっても、それは幻想だと思っていた。そんなことを口にしている周りの人間をどこかで軽蔑していた。
 
彼は「世の中にある面白いものを死ぬまで追いかけていたい。少しでも多くの人に伝えていきたい。それを伝えることができた人は間違いなく仲間である」と力強く語ってくれた。
 
多くの人に見てもらえるブログを書いて本にするだけではなく、彼が1000か所もある珍スポットを厳選してバスツアーとして、私を含めた多くの人を導いてくれた。
 
まぎれもなく「好きなことして生きていく」を体現する様に、ただ圧倒され尊敬のまなざしを向けた。
 
そんなことはほんの一握りの選ばれた人間だけの特権だと今でも思っている節がある。ただ、そんな人間と友人となることができたことを誇りに思いたい。
 
彼とは良き付き合いをさせてもらっていると思っている。あれから、別の形でバスツアーを企画して一風変わった旅行会社として活躍されており、私も何度も参加させてもらっている。
 
そして、バスツアーを通じて面白いものを求めて彼のもとに多くの人間が集まった。「似たような趣味嗜好を持つもの」として私も多くの友人が集まってくれた。
 
2017年10月8日、「好きなこと」に素直になれた一日だったと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年8月の誕生日にライティングゼミ夏季集中講座で天狼院デビューとなりここから天狼院沼にハマって、ハードワークの技術、時間術ゼミNEO、無限ラーニングZ他多くの講座を受講することになる。
2022年1月よりライターズ倶楽部参戦するもあまりのレベルの高さに騒然とし、ライティングゼミNEOでライティングを鍛えなおす。同年10月よりライターズ倶楽部復帰

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2022-11-23 | Posted in 週刊READING LIFE vol.195

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