「山から降りてきてセラピスト始めました!」~同じ仕事がなかなか続かないと悩んでいる人へ~《週刊READING LIFE Vol.199 あなたの話を聞かせて》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2022/12/26/公開
記事:陣(Jin)(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
彼女は、福岡県在住の某もみほぐし店で10年以上も働いているセラピストだ。コロナの影響で全国的に店舗数が減少し、縮小傾向にあるこの業界で、月に指名を30本以上も得ている。
だが、最初からセラピストという仕事を目指していたわけではなく、「面白そう」という理由で始めた。そしてセラピストは接客業の一つであるが、彼女はなんと、人と関わることが苦手だという。
そんな彼女が、一体どのようにして一つの仕事を長く続け、また、もともと人とコミュニケーションをとるのが苦手だった彼女が、どのようにして長くお客様から選ばれるセラピストになっていったのか、取材した。
『ここで辞めたら、他の仕事でも辞めそうな気がする……』
大学を卒業して始めた仕事がもみほぐしだった。求人を見たときに、自分の知らない世界に胸を高鳴らせたという。当時のことを彼女は、「『自分の普通』とは違う世界があることを知り、ドキドキした」と語った。
人を癒やしたいという人が多く集まる職場ならば、その職場で働く人々はきっと優しい人が多いだろうと思い、応募したという。
もともともみほぐしの仕事は候補に挙がっておらず、大学では芸術を専攻していた。だが、ちょうど就職氷河期にあたってしまい、芸術系の職場の面接を受けてもなかなか採用に至らなかった。
そんなときに見つけたもみほぐしの求人。想像のつかない世界に魅力を感じて応募し、見事内定をもらうことができた。
思っていた通り、配属された店舗のセラピストたちは良い人ばかりだったそうだ。
そんな環境で学んだからだろう。彼女と会うと自分も優しくなるような感覚になる。
研修を経て店舗で働くようになり、辞めたいと思ったことは何度もあったが、
「ここで辞めたら、たとえ転職したとしても、そこの職場でもまた同じ理由で辞めそうな気がする……」と思い、踏みとどまっていたという。
転職した先でも同じようなことがあったら、その度に自分は辞めてしまうのではないか? という思いがあったのだそうだ。
『しゃーないか』
彼女が働いている店では、接客から施術までお客様と一対一で行われる。そのため、技術面だけでなく接客面も重要視される。
今でこそ、月に多い時は45本以上指名を取ることもあるという彼女も、入りたての頃は先輩やお客様から接客面、技術面共に叱られていたという経験を持っている。
その度に「きついなぁ~」と思いつつも、「よくよく考えたら自分が悪かったなって思うし、食べて。寝て。起きて。……。というのを繰り返しているうちに回復する」と。
叱られたことに関しても、自分を責めていくのではなく、『しゃーないか』で気にしすぎず、乗り切ってきたという。
ミスをしてしまった時に、とことん自分を追い詰めてしまう筆者にとっては、「それでいいんだ!」と、インタビュー中にもかかわらず心が軽くなった。インタビュー中にも癒してくるとは。流石である。
『ぶっちゃけると……タイミングが……』
「とは言っても、実は辞めるタイミングを逃しまくったんだよね」と苦笑しながら彼女は語った。
この会社では、昇進のための試験が用意されており、その条件をクリアすると時間給が上がっていくというシステムになっている。
彼女も何度も昇給しているが、もし、いざ今の仕事をやめて新しく職を探すとなると、おそらく今もらっているよりも手取りが少なくなってしまうかもしれないと思ったのだそう。
「この年齢で、他に何もない自分が、他のところで転職しても、今ほどもらえないからね。それに今まで積み上げてきたものもあるし……。それに辞める勇気もなかったしね」
そういった様々な理由から、「今辞めてもなぁ」という結論に至ったのだそうだ。
10年以上も続いた理由
「基本、自信ないからね……」
大学が山の中で、限られた人と関わることが多かったことから、人とコミュニケーションをとることが苦手なのだと彼女は話した。
人と関わることが苦手で、さらに自分に自信がなかったことから、自分からお客様にガンガンいくような接客は自分には出来ないという。
接客を生業とする人の中には、お客様ごとに自分のキャラクターを変えて接客するという人もいる中、彼女はこの10年間、「接客にほとんど変化をつけたりしたことがない」のだそうだ!
先輩や先生の接客を見よう見まねで学んだり、試験の際の講師からのフィードバックなどで、見た目や表情、話す時の声色など工夫したりすることで、意識的には接客面も入社当時と比べれば変化しているが、全体的にはあまり変わっていないという。
彼女は学生の頃に、派遣の仕事をしていたことがある。
テレビを購入した人に、月額の映像サービスを薦めるという仕事だった。
自分に自信がなかったことから、他の人がしていた、ガンガン売り込むような文句はお客様に対して言えなかった。
そこで彼女はお客様に対して、「もしこういった番組をよく見られるなら、あると良いかもしれませんね~。あでも、無理につけなくても良いと思います」というような言葉をかけていた。
すると、「じゃぁ、つけてみようかな」と契約される方が出てきた。そしてその柔らかな物腰が功を成し、その当時の派遣社員の中でも彼女の契約率はずば抜けて良かったという。
本人はなんでかなぁ。何もしてないんだけどねぇ。と言っていたが、無理に売り込まない姿勢がお客様にとって、絵本『北風と太陽』の太陽のように感じられたのかもしれない。
お客様によっては、ガンガン来られたほうが買いやすいという方もいらっしゃると思うが、意思決定が自分にあると感じさせることが、結果としてお客様の信頼と売上につながったのではないか? と思う。
「私は違うと思った」
もし本当にやめようと思った時も、今一度立ち止まって考えてみてほしい。
彼女は、人には色々なタイプがあり、続ける方が楽な人と、環境を変えた方が楽な人がいるということも話してくれた。
最近見たテレビで、環境を変えることでオキシトシンが分泌され、脳の前頭前野の中にある、背面前頭前野という場所が活発になり、ストレスを感じにくくなるという事を言っていたのだそう。
その中では、ストレスを感じている人は、背面前頭前野を刺激するために環境を変えた方が良いという内容だったが、彼女と一緒にその番組を見ていた人は、「わかる!」という反応だったが、彼女は違ったという。
彼女は、「環境が変わること自体がストレスに感じる」のだと。
部屋の模様替えをしたり、職場を変えたりする方がストレスを感じるので、ルーティーン化していたほうが楽なのだそうだ。
ちなみに筆者は仕事の転職歴が2回ほどある。一番長いもので5年間、後は2年ちょっとしか続いていない。
ずっと同じ環境にいる方が、ストレスに感じるタイプなのだが、それを彼女に伝えると、「すごい」と言ってくれた。
そして彼女は、同じ仕事を続けることで「どんどん他のことに挑戦できるチャンスを逃している」とも話していた。環境が変わることにストレスを感じているため、続けるという選択をしたことで、他の経験をする機会を逃しているかもしれないと。
どちらを選択してもメリット・デメリットがある。
同じ環境で仕事を続けていく方が楽なのであれば続けたらいいし、同じ環境にいるのがストレスと感じるのであれば変えた方がいい。
自分がどちらの方がストレスを感じないのかを考えてみるのも良いかもしれない。
彼女の強さ《自分をよく知る》
筆者が感じた彼女の強さは、『自分のことをよく知っている』という強さだ。
インタビュー中にもよく、「私はこういう人だ」という言葉が多く聞かれた。
自分がどんな人間で、どんなことにストレスを感じ、どんなことが好きで、何が苦手なのか……など、今の自分のあらゆることを認識しているからこそ、「この方法は合う」「これは違うな」と判断することができているのだと思う。
そして最近彼女は自分のことについてさらに学んだことがあるという。
それは、「余力を残して仕事をする」ということだ。
仕事の日は、体力気力がゼロになるまで働き、仕事から帰ると一歩も動けなくなると話していた。それがみんなの当たり前と思っていたそうだ。
仕事の特性上、頑張ったら頑張った分だけ稼ぎにつながるという構造も影響しているからだと思うが、「働き過ぎかもしれない」と知ったきっかけは、人と同居する機会があり、仕事から帰ってきた彼女を見た同居人が「普通はそうじゃない」と教えてくれたからだという。
それを聞いて当時の彼女は「普通の人って、こうなるまで働かないんだね」と思ったのだそうだ。
他の人と話してみることも、自分を知る一つのきっかけになるかもしれない。
最後に
「セラピストはね、誰でもなれる職業だと思う」と最後に彼女は語ってくれた。
彼女のいるもみほぐし店には様々なセラピストがいる。
ジャニーズオタク、アニメオタク、中途採用、新社会人、おしゃれに興味がある人、副業をしている人、一人暮らし、実家暮らし、運動部、そして芸術系等様々なセラピストが在籍している。そしてお客様も様々いらっしゃるので、どんなジャンルの人も、始めやすい職場だという。
もしかしたら、どんなジャンルの人でも始めやすい仕事だったからこそ、続いたのかもしれない。
彼女の口ぶりからそんなふうに感じた。
また、人から直接「ありがとう」を貰える仕事だとも言っていた。
もみほぐし店の商品はまさに「自分自身」だ。自分がした接客、施術がお客様が出したお金の対価となる。その時お客様に自分のしたことすべてに対して、即刻評価される。「ありがとう」を貰える場合もあるし、極論を言ってしまえば、お客様が嫌だったと感じれば、最悪の場合、上に報告されて首を切られることもある。
しかし、セラピストも本気でお客様と関わっているため、よく聞かれるのは「ありがとう」「気持ちよかった!」などという感謝の言葉が多い。
お客様から自分がしたことに対して「ありがとう」と言ってもらえる仕事はそうそうないんじゃないかなぁと彼女は語っていた。
まとめ
彼女を取材して学んだ事。それは、
●環境の変化で《ストレス発散できるタイプ》なのか《ストレスを感じるタイプ》なのか、自分がどちらのタイプか知ること
●《ストレスを感じるタイプ》なのであれば、仕事を長く続けるために《自分を責めすぎない》《しゃーないか》という考えを取り入れてみる
●《自信がない》は強みになる
この3つのことを学ぶことが出来た。
そして最後に彼女にこれだけは言っておきたいことなどないかと聞いてみると、少し考えて「身体に気をつけて」と言ってくれた。
こういう細かな気遣いが自然にできるのが、セラピストを11年間続けてきて、彼女が得たものの1つなのかもしれない。
番外編! 接客が苦手な人のための《ためになるかもしれない》ポイント
彼女のインタビューをしている中で、お客様と対面した時、彼女が気をつけているポイントがいくつかあった。
それをこの場でお伝えしようと思う。
彼女は接客中に気をつけていること、それは、お客様に「一生懸命あなたを見とりますよ!」というのを表情や声色などで伝えるということだ。
彼女はよく、友人や家族、試験のフィードバックの講師、その他あらゆる人から「真顔が怖い」と言われていたそう。
気を抜くとつい真顔になってしまい、《お客様の前では絶対にしてはいけない顔》になってしまうそう。
対面して施術をすることもあるこの職場では、よろしくない。
ということで、彼女は顔が怖くならないように「一生懸命あなたを見とりますよ!」という気持ちを込めて施術をしているのだそう。そう思うことで自然と真顔を回避できるのだという。
仕事に慣れ始めるとつい素が出てしまう。
人と関わる仕事ならば、接客業でなくても気をつけていきたいポイントだと感じた。
以上です。この記事が、なにかのきっかけになれば幸いです。
□ライターズプロフィール
陣(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
福岡県生まれ。名探偵コナン歴は25年になる。コナン検定1級保持者
名探偵コナンで出てくるセリフで何度も命をつないでいる。
ライターとして活動する傍ら子どもと関わる仕事を10年以上している
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