週刊READING LIFE vol.202

「結婚して幸せになりたい」と言い続ける独身女が結婚したい理由《週刊READING LIFE Vol.202 結婚》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/1/30/公開
記事:川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
最近の私の口癖は「結婚して幸せになる」である。最近、というか、ここ2年くらいの口癖である。相手もいないのにそう言い続けている私を見て、会社の先輩は、最初のうちは「おお、そっかー」と言っていたものの、最近は「はいはい」と適当にあしらっている。
 
子どもの頃は、27歳くらいになったら大人はみんな結婚しているものだと思っていた。女性は寿退社して専業主婦になるのだと思っていた。家庭に入って、子どもを産んで、子どもや夫が家に帰ってくるのを家で待つものだと思っていた。考え方が古いというわけではなく、自分の母親がそうだったから、それが普通なのだと思っていた。大きくなるにつれて、結婚しても働く女性がいることを知ったし、結婚していない女性がいることも知った。結婚していても、子どもがいない女性がいることも知った。いろんな女性がいることを知った。その上で、それでも自分は27歳くらいで結婚するのだと思っていた。
 
2023年現在、私はもうすぐ31歳になろうとしている。未だ結婚せずに独身である。ちなみに結婚の予定は皆無だし、付き合っている相手もいない。おかしい。こんなはずじゃなかった。
 
「27歳くらいで結婚する」は、当時も相手がいなかったことから「30歳には結婚する」に変わり、28歳で彼氏はできたが、結婚前提で付き合ったはずなのに「逆にこの短期間で私何かやらかしたか?」と思うほどの短期間で振られてしまった。父からは「どんどん結婚するって言いよる年齢ズレ込んでいってないか?」とするどいツッコミを受けてしまった。「うるさい黙れ」しか言えない私は、現在「32歳までに結婚する」に目標を修正している。
 
私の数少ない友人たちも、数年前までは私と同じように「彼氏欲しい」とか「結婚したい」とか言っていたのに、見渡すと独身はほとんどいなくなっていた。独身の友人にも、だいたい彼氏がいる。正真正銘の独り身なのは、私が知っている限り私だけだ。
 
周りに「何年同じこと言うとるねん」と呆れられながらも、私はやっぱり、結婚して幸せになりたいと思っている。
「結婚なんて、そんな良いことばかりじゃないよ」という諸先輩方のお声が聞こえてきそうだが、そんなことはわかっているし、「結婚したい~」と私が言う度に既婚者勢にそういうことは腐るほど言われ続けてきたので正直聞き飽きた。なんなら「うるせえ、マウント取ってんのか? あ?」くらいに思ってしまう。こんなんだから彼氏もできないのだろうか。
 
結婚というものが楽しいことばかりじゃないということくらいは、結婚に夢見る年頃を過ぎたので重々わかっているつもりだが、それでも私は結婚がしたい。それじゃあ、私はなんでこんなに結婚したいと思っているのだろうか。挨拶のように何年も言い続けているから、口癖のようになってしまっているのだろうか? いや、そんなことはないはずだ。だって、「なんで結婚したいの?」と聞かれたら、自分の思い描く結婚を語ることができる。
 
5年前、転職するタイミングで実家を出て一人暮らしを始めた。一人暮らし自体は学生の時もしていたので、家事ができない! などの不安はなかったのだが、やはり学生と社会人の一人暮らしは全然違った。学生は学生で勉強やバイトで疲れてはいたのだが、社会人はそれの比にならないことを知った。上司や取引先に理不尽なことを言われたり怒られたり、大きい失敗をしたり、でも責任は自分でちゃんと取らなければいけないし、その状態で帰宅して、自分のためだけに料理を作って、作るのがしんどい時はコンビニやファストフードで適当に食事を済ませる。仕事が忙しければ忙しいほど部屋は荒れ、洗濯物や洗い物は溜まり、それに比例してストレスもどんどん溜まり、心も疲弊して荒んでゆく。非常によろしくないサイクルがくるくると回ってゆく。
それもこれも、全部自分のため。独身は自分が生きていくためだけに働き、生活を続けていく。でもそれって、なんだかしんどい。自分のためだけに生きていくのって、わかんないけど、たぶんきっと、限界があるような気がした。
 
そして、ふと、誰かのために生きたいと思った。
これが、私が結婚したい理由の最たるものだ。
 
その時、私が学生時代に一人旅をした時に感じたことを思い出した。
約10年前、私が大学生だった時、バックパッカーや一人旅が流行っていた。海外に興味のあった私は、「女一人旅」を異常にかっこいいと思い、すぐさま真似をした。アメリカ留学時に各学期の間の休暇を使って、ニューヨークやカリフォルニアなどに一人旅に行ったし、4回生の夏にはバックパックを背負って台湾へ行った。団体行動が苦手だった私は、一人で自由に、赴くままに行動できるということに、非常に魅力を感じていた。人見知りな性格なので、バックパッカーたちが口を揃えて言う「現地で出会う人と仲良くなって一緒に行動した!」という醍醐味のようなものはまったく経験できなかったが、私は私なりに一人旅を満喫していたつもりだった。
 
食べることが好きな私は、現地でも美味しそうなお店に入ってご飯を食べたり、カフェで休憩したりした。食べた料理はどれも美味しかった。でも、「美味しい!」と思っても、その感想は口には出せなかった。なぜなら、私は一人だったから。「美味しいね」と言いたくても、私は一人で入店しているし、他のお客さんに話しかけるほどのコミュ力は残念ながら持ち合わせていないし、言いたい言葉は飲み込むしかない。とりあえず写真は撮るけれど、帰国した時に家族や友人にその時の思い出話はするけれど、SNSにその写真をアップして「美味しかったー!」とコメントも載せるけど、でもそういうのって、「美味しい!」と感じた瞬間に口から吐き出したいし、誰かに聞いてもらいたいし、その誰かも「美味しいね」と言ってくれて共感できたらもっと嬉しいし、それって一人で食べるよりきっと美味しくなるし、そして、その誰かは私の好きな人が良い。
 
帰省して一人暮らしの祖母の家に行った時、みんなでご飯を食べている私に向かって「みんなで食べたら美味しいやろ」と祖母は言った。昔は一人で食べてもみんなで食べてもご飯の味は一緒やろ、と思っていたけど、今なら祖母の言っていることがよくわかる。美味しいものは一人で食べても美味しいけれど、好きな人に囲まれて食べるともっと美味しくなる。一人暮らしで疲れていても、こうやってみんなで食卓を囲むと、状況は何も変わらないのに、それだけで心が満たされた気持ちになる。ただ一緒にご飯を食べているだけなのに幸せな気持ちになって「ああ、また頑張ろう」「この人たちとまたこうやってご飯を食べるために、それを楽しみに頑張ろう」と、自然と思えるのだ。
 
今そう思うのは帰省した時や友人と食事に出かけた時くらいだが、それが日常にあればいいなと思った。好きな人と毎日ご飯が食べられたら幸せだろうな、と思った。そのためにだったらきっと、少々しんどいことも乗り越えられるし、早く定時にならないかなと思っている仕事中も、もう少し頑張れるかもしれない。そう思うのだ。好きな人のために生きたい。好きな人と美味しいご飯を食べるために生きたいと思うのだ。
 
こんなことを既婚者の先輩たちに話すと「夢見てんじゃねーよ、現実そんな甘くねーよ」「結婚は楽しいことばかりじゃないのわかってるとか言いながら、やっぱわかってねーじゃねーかよ」とか罵声が飛んできそうだが、別にいいじゃないか。夢くらい見させてくれよ。
 
とにかく、私は以上の理由で結婚がしたい。そして幸せになりたい。
 
まもなく31歳になる。
修正目標は「32歳までに結婚をする」だ。もう1年しかない。
 
1年後、この目標を達成しているか、はたまた再度修正をかけるのか。それは私自身も知る由はない。知る由はないが、修正した際には、再び父から疑問の声が上がることは避けられない。
 
さて、私は目標達成できるのだろうか。
自分で自分に、検討を祈る。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。大阪府在住。
大阪府内のメーカーで営業職として働く。コロナ禍で当時付き合っていた彼氏に振られ、見返すために自分磨きを開始し、その一環で2021年10月開講の天狼院書店のライティング・ゼミに参加。2022年1月からライターズ倶楽部に参加。文章を書く楽しさを知り、振られた頃には想像もしていなかった方向に進もうとしている。

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2023-01-25 | Posted in 週刊READING LIFE vol.202

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