仕事って、楽しい!!《週刊READING LIFE Vol.207 仕事って、楽しい!》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2023/3/6/公開
記事:笹尾 和代子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
仕事とは、一所懸命頑張ってするものだと思っていた。
少なくとも最近までの私はそう思い込んでいた。
一所懸命するとは、辛くても苦しくても最後まで成し遂げることだとも思っていた。
ということは、仕事は辛くて苦しいものだと考えていたことになる。
なぜそんな風に思っていたのだろう?
私が幼少の頃、バブルがはじけ、世の中は一気に不景気の階段を下り始めた。
生活も、少しずつ少しずつ質素になっていくのが感じられた。
父親のワイシャツを毎回クリーニング屋さんで綺麗にアイロンがけしてもらっていたのが、2回に1回になり、3回に1回、ついには自宅で洗濯してアイロンがけするようになった。
子供の頃は何となく、なんでだろうぐらいに思っていたのだが、今となっては、母親も少しずつ節約をしていたのだなと分かる。
その時、母親は専業主婦だった。
世の中の不景気の波に打ち勝つ術は持ち合わせていなかったと思う。
それでも、いつも美味しいご飯やおやつを作って私たち兄妹を楽しませてくれていた。
父親も休みの日には私たち兄妹の相手をしてくれ、楽しませてくれた。
そんな両親の姿を見ながら、私たち兄妹は何の不安もなく過ごしていたと思う。
でも、朝のニュース番組で映る通勤途中の大人たちの表情はどことなく疲れていて、都会の大人たちは大変だなと思っていた。
そんな無邪気だった子供も、成長するにつれ、少しずつ家庭の経済事情が分かってくる。
小学高学年になると、母親が働きに出るようになった。
母親が働きに行かなければ我が家の経済は回らなくなっていたのだ。
それまで家にいて、美味しいご飯を作って待っていてくれた母親がいなくなるのはとても寂しかった。
その反抗からか、私は家事の手伝いをほとんどしなかった。
今思えば、何とわがままな子供だったのだろうと思う。
働きに出た母親はそれまでのように常に笑っていることも減り、イライラして父親と喧嘩をすることも増えた。
働きに出ることは大変なんだろうなと思ったが、それでも反抗期の私は母親を手伝う気にはなれなかった。
自分から働きに出たんだから、しょうがないじゃん。
そんな風に思っていた。
何と子憎たらしい子供だったのだろう。
そんな日々が続くにつれ、働くことは大変なこと辛いことだと思うようになっていった。
そして、自分がやりたいことをするには苦労しなければいけないと思うようにもなった。
私がもう少し家事に協力的でいれば、母親の負担は減り、働くことをもう少し楽しめたかもしれないのにと気づいたのは私が働き始めてからのことだった。
私は母親から働く楽しみを感じる機会を奪ってしまったのだろうか?
そう感じたこともあったが、母親は母親なりに仕事を楽しんでいた。
保険の代理店をしているのだが、周囲の男性社員に負けないぐらいに契約をとり、何度も優秀者で表彰されていたのだ。
表彰されると少し報奨金も出たらしい。
それで、それまで我慢していた自分の洋服や私たち兄妹の洋服も買ってくれていたようだ。
何より、仕事で成果を得られることが嬉しく楽しかったようだ。
そのことを最近になって嬉しそうに話す母親の姿を見て、必ずしも働くことは大変で辛いことばかりではないのかもしれないと感じた。
専業主婦でいた頃よりもいきいきと輝いている母親の姿が想像できた。
今の自分はどうなんだろう?
いきいき働けているかな?
まだ現役で働いている母親の姿を見ながら、ふと思った。
子供の頃から憧れだった仕事について、世間的には夢を叶えている環境にいる。
でも、心から仕事が楽しいと感じたことはあっただろうか?
日々の忙しさに忙殺されて、あまり本気で考えたことはなかったかもしれない。
就職したての頃は、将来への希望にあふれていた。
こんな風に仕事をしたい。
憧れの先輩に早く近づきたい。
それがいつしか、頑張って働いて、その対価であるお給料をもらう。
それが働くことなのだと思うようになってしまっていた。
その頑張って得たお給料で自分の楽しみを見つけることが当たり前になり、仕事の中に楽しみを見出すことはなかった。
それは、私の怠惰なのか、思い込みからきたものなのかは分からない。
ただ、仕事を楽しみながらお給料をもらうことは悪いことのような気もしていた。
仕事は大変で辛くて苦しいものでなければならないと頑なに思っていたからなのかもしれない。
子供の頃から、私は頑固だった。
一度こうと思ったらなかなか考えを変えようとしない。
意志が強いのか、ただただ石頭なだけなのか……。
どのように働くかは、どのように生きていくかにつながっていると思う。
どのように生きていくか。
一所懸命に生きるしかないでしょ、と思ってしまう。
そう、一所懸命するとは辛くて苦しくても最後まで成し遂げること。
だから、何かを楽しみながら成し遂げても思ったような成果は得られないのではないかと感じてしまうのだ。
「楽しむこと=悪いこと」だと思っていたのである。
悪いことはしてはいけません! と教えられて育ってきた。
だから、仕事は楽しんではいけません! と頑なに思っていたのかもしれない。
そんなガチガチの石頭だったから、悪いことはしてはいけません! と教えていた母親自身が仕事を楽しんでいる姿は結構な衝撃だったのである。
こんな風に仕事を楽しめたらいいな。
働くことを楽しめたら、生きることをもっともっと楽しめるのかもしれない。
でも、今の職場で働くことを楽しめるのだろうか?
そもそも私が楽しいと思う瞬間はどんなときなんだろう?
楽しいと思うとき、目の前の誰かが、友達や家族や飼い猫が嬉しそうな様子をしているのを見るときかもしれないと思った。
もちろん、一人で読書をしている時間も楽しいし、推しのDVDをみているときも楽しい。
でも、自分以外の誰かと時間を共有して嬉しい感情を共有できるとき、とても嬉しくて楽しくて幸せな気持ちになるような気がする。
今の職場でその気持ちを感じることができるだろうか?
できるような気がする。いや、もうできているような気がする。
患者さんが苦痛なく手術を終えて安心した表情で病室に帰るとき、手術が無事に終わって医師たちが安心するとき、滞りなく手術を進行できるように調整することができたとき。
自分が頑張ったことが表に出なくても、誰かの安心に貢献することができたなら、それは自分の楽しさであり幸せになっているのかもしれない。
なんだ、自分も仕事を楽しんでたんだ!
最近、そのことに気づいたのである。
同時に、もっとたくさんの患者さんやスタッフを幸せにしたいなぁと思うようになった。
今はスタッフの一人にすぎない。
私と同じように考えているスタッフもいるかもしれないが、個人の力だけではできることも限られている。
だけど、もし私が管理者になれれば、私の思いや考えをより多くのスタッフに伝えていくことができるし、スタッフ自身も幸せにしてあげることができるかもしれない。
ケアする側が幸せでなければ、より良い看護はできないと常々思っている。
心が波立っていたり、尖っていると、どんなに自分の中で抑え込んでも、言葉や態度の端々にその波や棘が出てしまうことがある。
それは相手にも伝わってしまい、幸せとは反対の状態になってしまうのだ。
だから、自分やスタッフが楽しみながら幸せでいられることが大切なのだと気づいた。
何かを楽しむということは、自分や相手を幸せにする一歩だ。
「楽しむこと=悪いこと」なのではなく、「楽しむこと=良いこと」なのだ。
ただし、何を楽しむかはよく考えなければいけない。
何を楽しんでよくて、何を楽しんだらよくないのか。
それを考えるときに大切なのは、子供の時に親から教わったこと。
弱いものいじめをしてはいけません。
誰かの悪口をいったらいけません。
誰かの物をとったり、壊したり、なくしたりしてはいけません。
ひとや物に暴力をふるってはいけません。
約束は破ってはいけません。
お金の貸し借りはしてはいけません。
などなど……
道徳の授業でも学んだことである。
小学生の時は、道徳の授業はつまらなかった。
いつも親から言われているようなことをまた言われるのだから。
いつも言われているから分かってるよ! と言いたくなった。
いつも言われすぎて分かっていた気になっていたが、ちゃんと実践することはなかなか難しい。
イライラするとつい物にあたってしまうこともあるし、仕事のことで愚痴も言いたくなるときもある。
ただ、教えてもらって知っているのと知らないのとでは大きく違う。
してはいけないことだと知っているから、反省もするし改めようと思う。
やはり、親の小言も道徳の授業も必要なことだった。
今、道徳の授業の必要性が見直されてきている。
以前は、成績に直接関係しないから他の教科に置き換えられることもあったが、近年は道徳の時間を確保することが求められているという。
成績を上げていい学校に入っていい会社に就職するためには、一見必要ない授業のように思えるかもしれないが、やっぱり必要な授業なのだ。
いい会社に就職して、たくさんのお給料をもらえたとしても本当に幸せになれるとは限らない。
その人の人生は何を楽しむかで変わってくると思うから。
何かを通して誰かを幸せにしながら、自分も楽しみを得て幸せになる。
自分にとってそれができるような何かを見つけることが大切だ。
そんな何かが、今の自分にとっては、仕事なのかもしれない。
父親にはなかった出世欲をムクムクと起こして、たくさんの人を幸せにできるようになりたい。
やっぱり、私は母親に似たのだなと痛感する。
今の私に専業主婦は務まらないだろう。
だって、生きていく世界が狭くなってしまうから。
そう思うと、母親が専業主婦だった時、母親も息苦しかったのだろうか。
結婚するまでは私と同じように看護婦として働いていたから、結婚とともに家庭という狭い世界で生きるのは大変だったかもしれない。
働きに出だして大変だっただろうなと苦労の面ばかり考えていたが、案外、働くことは母親にとっては幸せなことだったのかもしれない。
私も仕事を楽しみながら、自分や周りを幸せにしていきたい。
だから、今なら胸を張って言える。
仕事って、楽しい!!
□ライターズプロフィール
笹尾 和代子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
福岡県福岡市生まれ
2022年8月ライティング・ゼミに出会い、ライティングの楽しさを知り、現在に至る。
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