週刊READING LIFE vol.209

グレーであることの良さ《週刊READING LIFE Vol.209 白と黒のあいだ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/3/20/公開
記事:大池牧子(READING LFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私は、曖昧の状態が好きではない。
できれば、とっとと、はっきり白黒つけたいタイプだ。
 
パートナーと話していて、家族で旅行に行こうと言う話になった。
「いいねー。行こうか」とパートナー
「どこにする?」と私
「そうだねー。どこがいいかな?」(だいたいオウム返し)
「こことかどう?」インターネット検索して見せる
「うーん。ここあまり見るところ無いよ」(パートナーは観光関係の仕事をしているので意外に詳しい)
「それならここは?」他の候補を見せる私。
「うーん。いまいちかなぁ」
「……」(決める気あるんかい!)
こうして、決まらないまま、グレーの状態で終わる。
 
1週間ほど経って、そういえば旅行はどうなったか? と聞かれ、
いや、あなだが、あーだこーだ言うから、決まってないし。とイラっとしてしまう。
 
そうして、私がやる気をなくすと、結局決まらず、流れてしまう。
 
毎日毎日慌ただしくて、タスクリストに追われている。消しても消してもまた現れてくるタスク。仕事、家のこと、子供のこと、やることでいっぱいだ。
テレワークで移動時間もなくなり、空き時間が多くなり、余裕が出るのではないかと思いきや、時間はどこへ行った? と言わんばかりに時間がない。
時間ができたと錯覚し、これまでやりたくてもできなかったことに手を伸ばして、やることも増えているのだろう。更にSNSからはどんどん情報が流れてきて、あっちこっちと興味が分散し、色々始めてしまったりして、時間が足りない。
だからこそ、何か決めるべき議題になったときは、とっとと決めて、その作業は終わらせてしまいたい。そんな思いから、その場で決めてしまいたくなる。それなのに、色々決まらないことが世の中多い。
 
白黒はっきりつけたくて、どんどんバシバシ決めていけばいいのだが、そうしていると、罠に陥ることもある。
深く検討せずに決めてしまうため、後からもっとよい条件が現れたり、すぐに決めてしまったがために、考慮不足で失敗する……なんていうこともあることは否めない。
 
例えば、先程の旅行問題。
自分だけで決めて、失敗したことが多々ある。
速攻で、宿を予約したものの別のサイトでもっと安くて良い宿泊先が見つかる。早々に予約してしまったので、キャンセルができず、もっと色々調べていれば……と、悔しい思いをしたこともあった。深く考えることなく行き先を決めてしまったので、時期が悪くて観光地で楽しむコンテンツがなく、なぜこの時期にこの土地を選んでしまったんだろうかと後悔したこともある。
でも、なかなか決めないパートナーとグレーの状態に耐え、議論をして時間もかけて検討すると満足度が意外と高い。なかなか決まらない状態を我慢して意見を出し合ったからこその結果だ。
 
その他にも、こんなグレー状態がある。何かを研究する。なんて言うときはグレーの塊だ。
 
数年前に経営大学院に通っていたころ、研究プロジェクトという大学で言うゼミのような授業を選択していた。
「弱い紐帯の強さ」というテーマで「人的ネットワークが人生に与える影響」について研究をしていた。半年かけて、インタビューやアンケート、過去の文献を読み自分たちなりの仮説を作り検証をする。
最後には研究成果報告会があるが、それに向けて、週2回のペースで議論を重ね、よなよなレポートを仕上げた。研究の初期段階は、グレーこの上ない状態で、悶々としていた。あーでもない、こーでもないと議論を重ね、回り道もし、ムダに時間も消費した。
でも、だからこそ、納得できる研究成果にたどり着くことができた。すぐに白黒出さずにグレーに耐え忍んだからからこそのゴールだ。
 
白黒つけてスパッと決めたいと思い、判断するのではなく、一晩置いてさらに吟味をした方が、いい案が浮かんだり。ちょっと置いておいたら思わぬ解決策が向こうから歩いてくることもある。
 
だから、白でもなく黒でもない、グレーの状態を保持する忍耐力は意外と大事で、曖昧な状態だからこそ生まれる何かもあるのではないかという気さえする。
一般的に、白黒はっきりつけない状態というのは、曖昧でよくない印象の方が強いかもしれない。白黒はっきりした方が、思い切りがよくて、決断力があるという感じがある。
 
でも、グレーの状態で悶々とすることが、予想さえしない、ピンクや黄色とくような、意外な展開に発展するのかもしれない。
 
白黒はっきりしない状態が、味わい深いというシーンもある。
 
例えば、恋愛。
付き合っているときのことより、付き合うまでの出来事の方がときめいていて鮮明に思い出せる。そんなことはないだろうか。
 
学生の頃の記憶を呼び起こしてみる。素敵な人だな~。かっこいい! と思ってから、友達とワーキャー言っている時のほうが記憶が濃い。付き合うことになったとうハッピーな状態ももちろん、幸せなのだが、それまでのキュンキュンする感じの方が印象深く記憶に残っている。
まさに白と黒の間のグレーゾーンだ。その時期だからこその醍醐味的な感覚だ。
 
恋愛ドラマなんかは、もっと顕著である。予想が付く展開だが、白黒はっきり付く前の状態にワクワクし、ハッピーな方向性が見えるととたんにつまらなくなってしまう。
この二人きっと、結ばれるのだろうなと予想しているが、その過程には、ライバルが現れたり、素直になれなかったり、どうしても離れ離れにならないといけない状況になったりと、様々な壁が立ちはだかり、ヤキモキする。じらされるが、更に目が離せなくなり、楽しんでしまう。
 
人生は白黒はっきりつけられるものばかりではない。
でもそのグレーの空間を過ごすことが人生そのものなのかもしれない。
 
白黒はっきりついていない、グレーだからこそ見える景色。
白と黒の曖昧なグレーでもよいではないか。すぐに結論を出さず、焦らず味わってみる。
予想外の色が見えるかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
大池 牧子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

岐阜県生まれ。横浜市立大学卒。
DTPオペレーター、社内SE、Webディレクター、RPAツールの営業とIT畑でキャリアを積む。
2022年天狼院書店のライティングゼミにて、ライティングの楽しさに目覚める。
グロービス経営大学院『「人的ネットワーク」づくりの教科書』東洋経済新報社、2022年の一部の執筆を務める。

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2023-03-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.209

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