私を待っている間に観て欲しい映画三作《週刊READING LIFE Vol.211 お気に入り〇〇ベスト3》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/4/4/公開
記事:山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
「余り映画を観無いのですが、何を観たらいいですか」
歳を重ねるにつれて、よく投げ掛けられる質問だ。
私が、無類の映画フリークと認められている様で嬉しい質問である反面、どこか年寄りの烙印を押された気がしてしまうのも事実だ。
何故なら、『映画のことなら山田に訊け』と思われているのだから、嬉しいに決まっている。
しかし、具体的に、
「『○○』を観ようかどうか迷っています」
と、訊かれたのではなく、質問が抽象的だからだ。
これは自分の経験則だが、抽象的な質問は年長者、正確には、年寄に訊いてきた傾向が有る。御年寄は、トレンドが反映される具体的例に乗り遅れがちだと思われるからだ。
もっとも、来年に為れば“高齢者”のカテゴリーに私は入って仕舞う。もう直ぐ、年金はどうするのかと、年金機構から矢の様な催促状が届く筈だ。
よくよく考えれば、私の映画師匠・映画解説者の淀川長治先生は、当時、日本中で『映画を楽しく神戸弁で教えてくれる御爺さん』と認識されていた。
私が生で、淀川先生と御逢い出来た時、先生は未だギリギリ60代だった。
私も、先生と同世代に追い付いた訳だ。
それから約20年、私は淀川先生から、色々な映画、特にオールド・ムービーに付いて教えて頂いた。とても幸運で、幸せだったと思う。
淀川先生曰く、
「映画は、映像(写真)・脚本(物語)・音楽・キャメラ(画角)・演技(芝居)・セット(美術)・ロケーション(旅)と、全てが詰まったアート(げいじゅつ)です。エンターテイメント(娯楽)です」
と、私は教えを受けた。
加えて、
「私(淀川先生)は、映画館に座って居て、映画が終わっても立ち上がらないので、スタッフが起こしに来たら『あっ! 淀川先生、亡くなっています!!』という死に方がしたい」
と、仰っていた。
私もいつしか、映画館で死ぬことは無いと思うが、せめて、火葬場で焼かれている間、参列して下さった皆さんに、映画を観ながら御待ち頂きたいと考える様に為っていた。
実現するかどうかは不明だが、出来れば私の好きな映画を観ながら。
私が好きだった映画を通じで、私を想い出して欲しいのだ。
その際にもしかしたら、初めて映画を観る方も居るかも知れない。
全く別の趣味で繋がった友人も居たりするからだ。
そうなると、私を待つ間に御覧頂く映画は、初めて映画を観る方も想定して決めたい。言い換えると、“初めて観ても楽しめる映画”といったところだ。
出来る限り、明るい映画にしておこう。
湿っぽい御別れは、私らしくないと思うから。
では、年代順に挙げていこう。
《私を待つ間に観て欲しい映画①》
『第三の男』(THE THIRD MAN)1949年・英国のサスペンス映画。
英国の文豪グレアム・グリーンの同名小説を、自身が脚色した。
監督は、英国出身のキャロル・リード。
この『第三の男』は、映画ファンなら必ず一度は観賞する映画だ。映画史上のベスト映画として挙げる方も多い。
私も同じ気持ちだが、特に強調したいのが、モノクロ映像の美しさだ。
光と影の強調で、終戦直後のウィーン(オーストリア)の雰囲気を醸し出している。
当時ウィーンは、アメリカ・英国・フランス・ソ連の四地区に分けられていた。壁が在った時代のベルリン程ではないが、その閉塞感を、名キャメラマンのロバート・クラスカーは、影の濃淡で表現した(この部分は、淀川先生の受け売り)。
物語は、三文文士のアメリカ人ホリー・マーティンス(ジョセフ・コットン演)が、旧友のハリー・ライム(オーソン・ウェルズの名演)からの声掛けで、ウィーンに遣って来るところから始まる。
ところが、御目当てのハリーは、恋人のアンナ(アリダ・ヴァリ演)を残し死亡していた。友人の死に疑問を持ったホリーは、作家の心理なのか独自の捜査を開始する。
その過程でホリーは、ハリーが無く為る際に別の男(第三の男)の存在を知る。
果たして、第三の男とは。
そこは、私が仕立て上がるのを待ちながら確認して欲しい。
『第三の男』で、最も有名なシーンといえば、ウィーンに今でも在るプラター公園の観覧車だ。この観覧車は、現在も同じホイールで現役だ。
私は未だ、ウィーンに行ったことが無い。
しかも、私は極度の高所恐怖症だ。当然、観覧車には乗ることが出来ない。
もし、ウィーンに行った際は、意を決して気絶する覚悟でこの観覧車に乗ってみようと思う。
この映画で、驚くことが有る。
それは、戦争の傷痕が残るウィーンには、既に立派な下水道が完備されていたことだ。多分戦争(オーストリアは、ドイツが併合していたので枢軸国)中は、市民の防空壕と為っていたことだろう。
『第三の男』の有名な、枯葉が舞う一本道のラストシーン。
これは、自身の物語が思う通りに行かない三文文士らしいと印象付けている。
多くの日本人は、『第三の男』を観ていなくとも、テーマ曲は必ず耳にしたことが有る筈だ。
“チター”という、オーストリアの民族楽器の独特な音色を。
何故なら、『第三の男』のテーマをビール会社が自社製品のCMに使っているからだ。
それが縁で、JR恵比寿駅の発車音楽は『第三の男』のテーマが流れるのだ。
《私を待つ間に観て欲しい映画②》
『スティング』(THE STING)1973年・アメリカの犯罪コメディ映画。
1973年度のアカデミー作品賞・監督賞・脚本賞に輝いた名作。
ジョージ・ロイ・ヒル監督、脚本家のデヴィット・S・ウォード、主演のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードにとって、代表作と言い切ることが出来る作品。
禁酒法時代の1936年のシカゴが舞台。
これは私の持論だが、禁酒法時代を描いた映画に、ハズレは少ない。
駆け出しの詐欺師ジョニー(レッドフォード演)が、或る事からギャングの大物に狙われる。
そこで、伝説の詐欺師ヘンリー(ニューマン演)を頼り、大物ギャングに復讐するという物語。
作品の性格上、ネタバレを避ける為に多くを語ることは避けなければならない。
しかし、安心して欲しい。ギャングは登場するものの、基本はコメディなので初めて映画を観る方も子供も、安心してご覧いただける筈だ。
一つだけ、競馬に詳しくない方の為に。
勝ち馬投票券(馬券)にはいくつもの種類がある。この作品に登場する馬券は、一位を当てる“単勝”(WIN)と、3位迄の入賞を当てる“複勝”(PLACE)であることだけは覚えて置いて欲しい。
主演の二人以外にも、達者な演技陣が脇を固めている。
特に、ギャングの大物ドイル・ロネガンに扮した名脇役ロバート・ショウの、怒りを噛み殺しながら落ち着こうとする演技は、ふつふつと笑いを誘い一見の価値が有る。
また、物量に勝る当時のアメリカ映画界は、綿密な時代考証をすることでも知られていた。セットや衣装は勿論、ちょいとした小道具迄も、40年程前を再現していた。
時代考証がやや緩い(予算が桁違いなので仕方が無いが)日本映画と比べて、別世界の様でもあった。
ヘンリーとジョニーが謀った復讐は、大規模の詐欺計画と為る。そこに、謎の殺し屋が登場したり、果てはFBI(アメリカ連邦捜査局)迄もが絡んでくる。
二転三転するストーリの中で、最後に騙されるのは誰か。
『スティング』の日本公開は1974年初夏だった。
当時15歳の私は、公開初日の土曜日、学校を抜け出して新宿の映画館へ駆け込んだ。
余りの面白さに席を立つことが出来ず、夜の回迄映画館に居座った(当時は可能だった)記憶がある。確か、初日に4回観返した。
特に印象に残ったのは、ポール・ニューマンの恰好良さだ。
『スティング』を観てから半世紀、彼に憧れ続けた私は、形だけでも真似しようと考え続けた。
気が付くと、所持しているスーツ・ジャケット・シャツの殆どは、ポール・ニューマン御用達のブランドで固められた。
兎に角、誰が観ても公開しない作品だと自信を持って御勧め出来る。
《私を待つ間に観て欲しい映画③》
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(BACK TO THE FUTURE)1985年・アメリカのSFコメディ映画。
ボブ・ゲイルと自身の共作であるオリジナル脚本を、ロバート・ゼメキスが監督した。主演は、当時、高校生がはまり役だったマイケル・J・フォックス。
何度もリバイバル上映された作品なので、御覧に為った方も多いかも知れない。
高校生のマーティ(マイケル演)が、知り合いの科学者ドクター・エメット・L・ブラウン(通称・ドク)が造ったタイムマシンに乗り、30年前の世界に迷い込む物語。
30年前というと、丁度、マーティの両親が出逢った頃の時代だ。
タイムマシン物の映画は、当たり外れが大きいものだ。何故なら、未来が変わってしまうと、現代も変わらなければ為らないという、タイムパラドクスに陥るからだ。
ところが二人の脚本はとても綿密で、両親の恋の行方が、マーティ自身の誕生に関わってくるという面白さに変換している。
加えて、ドクのタイムマシンが、デロリアンという珍しいアメリカン・スポーツカーであることが、何とも時代を象徴していると言えよう。
そうえいば、1985年マーティが着用しているダウンベストが、30年前の人には“救命胴衣”にしか見えないこと等、同じ時代に若者をしていた私には、堪らなく嬉しかったりする。
一つ、淀川先生の生徒らしい蘊蓄を一つ。
ハラハラ・ドキドキのクライマックス。何とかマーティを30年後に送り返そうとするドクが、必死に時計台の針にしがみ付くシーンが有る。
このシーンで、淀川先生の様にサイレント時代を知る方々は、きっと膝を叩いて喜んだ筈だ。
何故なら、そのシーンは、サイレント喜劇の傑作『用心無用』のオマージュだと考えられるからだ。『用心無用』の監督・主演は、サイレント時代にチャーリー・チャップリン、バスター・キートンと共に三大喜劇王と称された、ハロルド・ロイド(丸メガネがトレードマーク)だったからだ。
そして、ドクを演じたのがクリストファー・ロイドだったので、御納得頂けるだろう。
タイムマシンを扱うので、伏線が複雑と為って仕舞うが、この作品ではきちんと回収されている。
特に回収の極みは、映画の冒頭に出て来る。ショッピングモールの看板がヒントだ。
モールの看板を注視して、その伏線回収の謎を考えて欲しい。
そこは、私が仕立て上がるのを待ちながら。
『第三の男』『スティング』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の三作品は、誰でも楽しめる映画だ。
老人予備軍と為って仕舞った、長年の映画フリークである私が、自信を持って御勧め出来るエンターテイメントだ。
これから先の人生で、きっと何かに繋がるアートだ。
もし運悪く、『第三の男』『スティング』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観ても感性に響かなかった場合が生じるかも知れない。
その場合は、誠に残念ながら映画というコンテンツから離れて下さい。
惨いと御感じかも知れませんが、そういった方々は、映画を観ると時間の無駄と為ります。
これは、そうした方々が悪いのではなく、相性が悪いだけなのですから。
どうか気にしないで下さい。
でも私は、『第三の男』『スティング』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の三作を観て、面白いと感じない方とは友達には為りたくないなぁ。
その点は大丈夫か。
だって、友達でも無い人は、私の葬儀には来ないだろうから。
□ライターズプロフィール
山田THX将治(天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター)
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数17,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeasonChampion
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