週刊READING LIFE vol.213

お母さんはあなたの踊りが一番好き《週刊READING LIFE Vol.213 他人の人生》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/5/1/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 
 
「〇〇さんの踊りって、すっごく綺麗のよね~。それに比べてさぁ……」
 
娘は4歳の4月から、クラシックバレエのお稽古を始めた。
本人もとても気に入って、ずっとお稽古を続けて来た。
高校、大学と少し休んだ時期はあったものの、これまで20年近くはクラシックバレエに触れている。
クラシックバレエは、きちんと決まったパ(型)があって、それを地道にお稽古して身に着け、さらに高度な技も習得してゆく、スポーツではないが、かなり運動量が多く、奥の深い芸術だ。
それに、身体的な特徴にも左右され、見た目も大切になってくる。
娘は今でもそのお稽古は楽しく続けているが、上達してゆくにつれて、周りの人を意識するようになっていったようだ。
 
ちなみに、娘がクラシックバレエを習い始めた時、そのお教室の先生が素晴らしい方だったので、約20年振りに私もクラシックバレエのお稽古を再開した。
今では、同じ先生のレッスンを受けているが、当たり前だが20代の娘は技術力や表現力も高く、親のひいき目抜きにも素敵に踊っている。
他のことにも増して、クラシックバレエに関しては、目に見えてその日の調子が周りにもわかるものなので、善し悪しがすぐにわかり気持ち的にもアップダウンが激しいのだろう。
 
どこまでも私たちは、周りと、他者と自分を比べる生き物のようだ。
かく言う私自身も思いっ切り他者と比べていて時があった。
1996年3月14日、暖かい春の日に娘は誕生した。
初めての子育て。
当時、ちょうど子育ての雑誌が発売されていて、妊娠中に出産準備も含めてその雑誌をよく読んでいた。
さらには、訳の分からない子育て、当時有名な先生が書かれた育児書も手に入れて出産に備えていた。
 
ありがたいことに、元気に生まれてきてくれた娘。
毎日、慣れない育児と家事に追われ、大変ではあったものの、娘の成長が楽しみで充実した時間でもあった。
赤ちゃんというのは、その月齢によって、身体の変化、行動の進化などがあるということを育児書によって初めて知ることになった。
 
例えば、何か月くらいで首が座るとか、寝返りが出来る、ハイハイをし始める、つかまり立ちが出来るようになる、などがおおよその月齢で紹介されていた。
毎日、育児書とにらめっこしていた私は、ある時から、そこに書かれている月齢でその行動が出来ないと不安になっていったのだ。
 
さらには、育児書で表現されているようなカタチでないと、「ウチの子はおかしいのかな」と、不安になってしまうこともあったのだ。
赤ちゃんが最初に移動する手段である、ハイハイ。
娘は、膝を床につけてするのではなく、手と足だけでハイハイをしていた。
高這いと言うそうだ。
それは、まるで、猿が動物園の檻の中を移動しているようなスタイルだった。
先輩ママから、ハイハイをしたときに膝が痛くならないように、ニーパッドももらっていたのだが、膝を床につけることがなかったのだ。
もう、それだけで「なんで、育児書のようにしないんだろう」「なぜ、他のお子さんとウチの子のやることは違うんだろうか」
そんなことも全部悩みとなっていったのだ。
私の精神がもう少し繊細だったら、きっと病んでしまったかもしれないくらい、当時の私は娘の成長と育児書の内容を比べていたのだ。
 
でも、ある日ふと気づいたのだ。
目の前にいる娘は、この育児書の中の例としてあげられているどこのだれかもわからない赤ちゃんとは別人なのだ。
今、目の前で毎日おっぱいを飲み、大きな声で泣き、無邪気に笑うわが愛すべき娘を見て育てていったらいいんだ
あまりにも育児書通りではない娘だったけれど、いつも満面の笑顔で笑いかけてくれ、何でも美味しそうに食べ、元気に動き回っている姿を見て、これまで張りつめていた糸が優しく切れたような、そんな感じになったのだ。
何が問題があるんだろうか。
目の前にいる子の娘の姿が答えじゃないか、そう思えたのだ。
 
「そうよね、当たり前よね。育児書に書かれているのは、ある標準的なモデル例なのよね。それはあくまでも目安なはず。この通りに発育している子どもなんてどこにもいないわよね」
そんな、当たり前のことにようやく気づけたのだ。
育児書通りの子どもがいないのと同じように、周りのお子さんたちにもそれぞれの成長があるのだ。
 
そんな思いに陥ってしまったのは、元々、マニュアル通りに動くことを得意としていたからだ。
会社員時代、周りの同僚はルーティングワークなんて面白くない、嫌いだと言っていた中、私自身は大好きだった。
だって、その通りやればいいのだから、間違いも失敗もないのだ。
自分で考えてやるのではなく、すでに決まったことなのだから何の問題も起こらないし。
そんな言われたことをそのままやることが得意だった人間なので、育児書とにらめっこするのも無理なかったのだ。
 
それでも、目の前で元気に動き回る娘を見ていて、この子にはこの子だけの個性や特性があるのだから、それを見ていこう、そう思ったのだ。
周りのお子さんたちと時には違うことをしたがるかもしれないし、違う道を選ぶかもしれない。
それでも、人間にアベレージなどはそもそもなくて、個性のみなのだ。
それを側で見ているのは、時に危なっかしく見えたり、親として不安を抱いたりするかもしれないけれど、それが生きて行くということなのかもしれない。
育児書通り、マニュアル通りの人生ではなく、その人それぞれの人生があっていいのだから。
多くの経験をすることが人生の中の学びであり、喜びだと思うのだ。
 
育児書の中の赤ちゃんの通りや、誰かに言われた通りの人生は、まるで他人の人生を歩んでいるようなものだ。
失敗もして、何度も転んで、それでもまた立ち上がって、自分の足で歩んでゆくことが生きることなんだと思えるようになった。
育児書の中のかなり優秀な発育の赤ちゃんと比べなくてもいいのだ。
そう思えるようになってから、肩の力を抜いて子育てが出来るようになっていった。
 
その娘も今年で27歳になった。
日々、様々なことに悩みながらも楽しくその人生を歩んでいる。
そう、だからあなたは、とっても素敵にバレエを踊っているように見える先輩と自分を比べなくていいのよ。
あなたは、あなたの今をぞんぶんに楽しんでいたら、それでいいのよ。
お母さんは、今のあなたの踊りが一番好き。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2023-04-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.213

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