芸能と子供の守り神に見守られて《週刊READING LIFE Vol.215 日本文化と伝統芸能》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/5/15/公開
記事:小田恵理香(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
久しぶりに実家に帰省した。
「しばらく見ないうちにほんまに大きくなったな」
「子供の半年ってほんま早いよな」
元旦に新型コロナウイルス罹ってしまったこともあり、実の両親に対面で合うのは半年ぶりだった。
「そういえば、あんた七五三どうすんの?」
「あぁ、そういえばそうか」
息子は今2歳半。
いや、待てよ。
私のイメージは女の子が、3歳と7歳。
男の子は5歳だった。
「男の子って5歳だけのイメージなんやけどさ」
「それがさ、こないだ美容室に言った時に男の子でも3歳でやったりするよって聞いてんけど」
「そうなん?」
そうして母とスマホで調べてみる。
七五三の由来には諸説あるが、平安時代の頃から宮中で行われた3つの儀式が元になっているとのことだった。
現代に比べると衛生環境もよろしくなく、医療技術も発展していなかった昔は子供の死亡率が特に高く「7歳までは神のうち(神の子)」として扱われていたそうだ。
子供が無事に育つことは大きな喜びであり、健やかに成長することを願わずにはいられないもの。
暦が中国から伝わった時に奇数は縁起がいいこととされていたこと。
3歳で言葉を理解し、5歳で知恵がつき、7歳で乳歯が生え変わるという成長の節目。
それ故に3歳、5歳、7歳の節目の年に成長を神に感謝してお祝いしたことが由来となり、江戸時代に武家や商人の間に広まったとされている。
明治時代には今でいう“七五三”と呼ばれて庶民に広がり、大正時代以降に現在のようなスタイルになってきたという説が有力なんだとか。
現代社会では完全にその家のスタイルに合わせているようだ。
なんならどの年齢でお祝いしても問題ないらしい。
男女ともに3・5・7歳ともお祝いするところもあるようで、調べれば調べていくほど
“この年にしか見られない姿です!”
“貴重な一瞬をぜひお写真に!”
となんだか写真屋さんの戦略に乗せられているような気もしてしまったのだが。
「3歳は写真だけでいいかな……」
「まぁ好きにやったらいいんじゃない?」
「そもそも、イヤイヤ期なのに着物をちゃんと着れるか心配やわ」
「そうねぇ。そういえばお宮参りの時のあれ変わってたよね」
「あぁ、おしろい?」
「そうそう」
「確かにあれは驚きやった」
お宮参りは赤ちゃんの誕生を祝い、健やかに成長するように願う伝統的な行事。
生まれた土地の守り神や、住んでいる土地の氏神様にお参りをして赤ちゃんが無事に誕生したことを感謝し、成長を祈願する。
元々は出産した後に参拝する“産土詣”という風習が起源となっている。
産後1か月まだ若干ふらふらになりつつも神社に参拝したのを覚えている。
これは関西地方だけなのかもしれないが、お宮参りのあと赤ちゃんのおでこに“×”、“犬”、“大”、“小”の文字を書くという風習がある。
平安時代の宮中で始まったと言われているこの風習は悪魔除けのおまじないになると信じられていた。
当時は赤ちゃんが無事に育つことが難しいのは悪霊に取りつかれたことが原因と考えられていたからである。
2本の線が交わる“×”には魔除けを、犬はお産が軽く、子犬は元気にすくすく育つことから元気に育つようにと“犬”の字を、男の子には大きく元気に育つように“大”、女の子には優しく健やかに育つように“小”を。
それぞれ意味を込めて書かれるもの。
なんとなく、友達の子供のお宮参りの写真なんかを見て
「うちは男の子だから“大”って書かれんのかなぁ……」
なんて思いながら迎えた当日。
お宮参りは毎年1月福男選びで全国に放映される西宮神社で行った。
拝殿で祈祷を受け、巫女さんに案内され小さな末社へと案内された。
そしてそこで息子のおでこに、白い白粉をちょこん。
私の両親もそうだったが、関西出身である夫の両親も驚いていた。
この小さなお社は“百太夫神社”と言うもの。
商売繁盛の神様で有名なえびす様。
関西地方だけかとこれまた思っていたのだが、えびす様を祀っている神社は割と全国にある。
地名となっているとこともあれば、名字にもなっている。
なぜこれが全国に広まったのか。
それは室町時代以降に西宮神社の近くに住んでいた傀儡師。
いわゆる人形遣いたちの存在だった。
彼らはえびす信仰を、人形を使って広め、人々を楽しませお守りや札を売りながら日本全国諸国を巡った。
えびすと言う言葉が広まったのもこれが大いに関係しているらしい。
最終的にこの人形操りたちは西宮を離れ江戸時代に淡路島や大阪へと移り住んだ。
その先で生まれたのが国の重要無形民俗文化財に指定されている淡路島の人形浄瑠璃や、大阪の文楽となったと言われている。
文楽は小学生の頃、夏休みの子供招待イベントで見たことがある。
まるで人形が生きているような。
何とも言えない魅力があった。
そんな人形遣いたちが始祖として崇めていたのが“百太夫神社”。
芸能の神様として祀られているのだがもう一つの顔がある。
疱瘡、いわゆる天然痘に霊験のある神様だというのだ。
それゆえ、子供の病気予防のためにご神体の顔の白粉を子供のおでこに付けて病気にかからないようにしたそうだ。
つまり芸能の神様でもあり、子供の守り神でもあるのだ。
というわけで、西宮神社でお宮参りをするとこの“百太夫神社”を参拝し、赤ちゃんのおでこに白粉を塗って健康を祈願していると案内の板に書いていた。
思わぬところで、そんな日本の伝統芸能に繋がるとは。
子供の頃は特にあまり行事のことなど意識してこない生活を送ってきた。
なんとなく、ひな祭りはちらし寿司とケーキを食べられる日。
こどもの日は祖父母がおもちゃを買ってくれる日とインプットされていた。
今はある意味恵まれた時代だ。
衣食住に困ることもそうそうないし、選択肢だっていっぱいある。
だがかつてはそうではなかった。
毎日生きるか死ぬかの時代もあった。
だからこそ、成長の節目を盛大に祝ってきたのだろう。
そして、後世に残すために書物だったり、絵画だったり、人形だったり。
先人たちはそうやって、いろんな形で紡いできたのだ。
今年のゴールデンウィークは色々規制がなくなった久しぶりの連休。
かつては出歩く人も少なく、公園に行くと人がいないという時期もあった。
外に出歩くのはまるで悪人というような雰囲気もあった。
だが今年の街並みは、家族連れで賑わっている。
迎える側もどこか嬉しそうだ。
「ぎゃははは!」
あの日そんな神様の白粉の恩恵を受けた息子は、笑いながら私の父が新聞紙で折ってくれた兜をかぶり走り回っている。
成長の節目を祝う七五三。
盛大に祝うかどうかはまだ決めてはいないが、お宮参りで参拝した芸能と子供の守り神様である百太夫神社には顔を出そうか。
おかげさまで、あの赤子はすくすくと育っておりますと感謝を込めて。
□ライターズプロフィール
小田恵理香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
大阪生まれ大阪育ち。
2022年4月人生を変えるライティングゼミ受講。
2022年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
病院で臨床検査技師として働く傍ら、CBLコーチングスクールでコーチングを学び、コーチとして独立。日々クライアントに寄り添っている。
スノーボードとB‘zをこよなく愛する一児の母でもある。
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