週刊READING LIFE vol.215

盆踊りと昔の友《週刊READING LIFE Vol.215 日本文化と伝統芸能》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/5/15/公開
記事:山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
ゴールデンウィークが終わると、長期の休みはお盆までない。
 
なんたることだ!
われらにもっと休みを!!
 
あぁ、お盆休みが待ち遠しくてたまらない。
通常、お盆は8月13日を盆の入りと呼び、8月16日を盆の明けと言う。
この4日間を夏季休暇とする企業は多い。
今はまだ5月なので、お盆休みまで、あと3カ月はあるのだ。
そして、ふと、在りし日のお盆休みを思い出した。
 
あれは、10年ぐらい前になるだろうか。
偶然、懐かしい友人とお盆休みに再会した。
その友人とは、20代の頃、ほぼ毎日のように飲みに行ってはくだらない話をしていた。
頭の回転が早く、言葉選びのセンスが抜群の彼女の話は、いつ聞いても笑わずにはいられなかった。
 
そして、なぜかいつもわたしは鋭く突っ込まれ、お互い笑い転げていた気がする。
彼女はひとつの場所に留まることなく常に進化し続け、日本を飛び出してアメリカへ行ったりもしていた。
 
そんな彼女と偶然再会したのが、30歳も過ぎたあるお盆休みのことだった。
名古屋に来ているということで、突然会うことになった。
偶然、彼女と共通の友人と遊んでいたので、彼女も合流し、3人で会うことになったのだ。
 
時計をみると、夕方の4時頃。
飲もうと思えば飲めるけれど……。
 
ここでわたしたちは考えた。
なにか、面白いことはないか。
そして、楽しそうなものを発見した。
 
「名古屋城夏祭りで盆踊りがやってるらしい。これ、楽しいんじゃない?」
「行ったことないかも!」
「祭りなら外でビールが飲めるな」
 
どうやら名古屋城が開園時間を延長して、夏のお城を楽しめるイベントを開催しているという情報をゲットしたわれら3人は、ビールを美味しく楽しく飲むために、大規模な盆踊りへ参加することにした。
 
そもそもお盆というのは、あの世の祖先たちの霊が、現世のわたしたちの様子を見に帰ってくる期間である。
胡瓜や茄子に割りばしを刺し、まるで動物の形のようにしている飾り物を目にしたことはないだろうか。
これは「精霊馬」と言って、行きは胡瓜に見立てた馬で早く、あの世への帰りは牛に見立てた茄子でゆっくりと帰ってもらうために飾っているもので、ちゃんと意味がある。
不思議に思う子どもたちも多いだろう。
 
茄子なんかはぷくっとして、乗っている姿を想像するとちょっと可愛い。
乗ったらひんやりとしてそうだ。
牛と言われると、確かに、あの背中のカーブ具合は茄子と似ているのかも……なんて、実際に乗ったことがないのに、まるで乗ったかのように想像を掻き立てる。
 
そして、現世に帰っている間は、できるだけ楽しくしてもらおうと、最後に一緒に楽しく盆踊りをして送り出すというのが盆踊りだ。
楽しすぎるとあの世に帰りたくなくなって、現世でウヨウヨするなんてことはないのか? なんて心配してしまうが……。
 
お盆は正式には「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と言う。
サンスクリット語の「ウランバナ」からきているそうだ。
ちなみに、「逆さに吊るす」という意味。
逆さまに吊り下げられているような苦しみにあっている人の魂を救うための行事なのだ。
 
お釈迦様の弟子である目連が、亡くなった母親が、餓鬼道に堕ちて逆さ吊りにされていると知り、母親を救うために供物を捧げて供養したという説話が由来だそうだ。
逆さ吊りとは恐ろしい。
そんな由来があることを知らないことが多いが、先祖が帰ってくる日ということで、家族や親せきが一同に介して先祖を思う期間なのだ。
 
盆踊りというと子どもの頃は夏の一大イベントだった。
誰でも参加できて、浴衣姿の踊りの先生たちがやぐらを囲み、それを真似して音頭に合わせて手や足の簡単な動きで踊る。
わたしが子どもの頃は、近所の小さな公園で毎年催されていて、規模は小さくても屋台が並び、令和になった今でもその公園で盆踊りは開催されている。
 
子どもの頃は、夏の宵に近所の幼なじみたちと出かけ、黄色やピンク、緑などの色とりどりのシロップがかかったキンキンに冷えた安いかき氷を頬張ったものだ。
かき氷の他によく買ったのがせんべいだ。
自分の顔よりも大きいせんべい。
小学生でも買える値段設定が嬉しい。
どうやら「らくがきせんべい」と言うらしい。
 
地域差があり、筆にシロップをつけて落書きをして、グラニュー糖をかける地域もあれば、わたしが育った名古屋では、確か、しょうゆかソースで適当に落書きして、その上に青のりをかけていた。
もう一度食べて思い出してみたいものだ。
子どもの頃の盆踊りを思い出すとき、このせんべいを思い出さずにはいられない。
また、卵を焼いてせんべいの上にたっぷりとソースを塗り、焼いた卵をのせて、マヨネーズをかけてせんべいを折りたたんだ「たません」というものもある。
「らくがきせんべい」でも地域の差が出るので、他の地域の話をきくのも楽しいだろう。
 
そして、盆踊りはみんなで手ぶり足ぶりをそろえて踊る。
簡単な踊りなので誰でも踊ることができる。
宗教的であり、海外からやってきた人たちも日本文化に触れやすい。
普段着で踊ってももちろんよいが、浴衣を着るとさらに日本文化に触れあうことがきる。
浴衣を着て、屋台で食べ物を食べて、そしてみんなで輪になって踊る。
花火なんてあがると、もう、テンションあがりまくりだろう。
盆踊りは日本の伝統文化のため、海外からの観光客にも人気があるというのも納得だ。
 
子どもから大人、海外の人まで簡単に踊ることができ、誰でも参加できる祭り、それが「盆踊り」なのだ。
 
盆踊りはいつから始まったかというと、平安時代中期に活躍した僧侶である「空也」が起源と言われている。
人々に念仏を覚えてもらうために、歌うように念仏を唱えることで、堅苦しくなく覚えてもらう工夫をしたそうだ。
これが、念仏に合わせて踊るようになり、「念仏踊り」として知られるようになったというわけだ。
 
子どもの頃は近所の公園の盆踊りしか参加したことがなかったが、久しぶりの友との再会で、急遽、名古屋城で催される盆踊りに参加することになり、ご機嫌で会場へ向かった。
 
会場に着くと、久しぶりの祭りの賑やかな雰囲気にワクワクした。
まだ夕方だったので、何がやっているか、歩きながら観察すると、「武将の甲冑、着れます」的なものがやっていた。
 
着れるの? 甲冑を?
 
ええ、着てしまいました。
われら、侍になりました。
 
子どもたちが並んでいたら、微笑ましく見ていただけだと思うが、偶然にも人がいなかった。
これはチャンスでしょう。
 
このとき30代、大人。
10年ぶりに会った友と、はしゃいだ。
 
そして、屋台でビールやつまみを買って、備え付けの椅子に座って夏の夜を楽しむ。
夜空を見上げながら友と飲むお酒は格別だった。
まわりは家族連れが多い。
祭りで不機嫌になっている人はいない。
普段の嫌なことも忘れて、ただただ楽しむ。
 
そして、盆踊りへの参加だ。
昔、踊ったことのある踊りではなかった。
それでも見様見真似で踊ることができた。
3人並んで、笑いながら手や足を動かして踊る。
名古屋城の夜空の下、大人も子どもも国籍も関係なく踊る。
 
有名な盆踊りといえば、
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」
で有名な、徳島県の「阿波踊り」があるが、確かに、踊らにゃ損損だ。
 
そうやって、久しぶりの再会は笑ってばかりで終わった。
賑やかな祭りのあとは、寂しさを感じることもなく、なぜかすっきりとした気持ちになっていた。
次に会う約束はしていない。
 
きっと、また10年後ぐらいに会うことになるだろう。
そんな気がする。
 
もうそろそろ会う頃かもしれない。
 
あれから10年。
 
会ったときにはあの頃と変わらず、笑っていたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年12月ライティング・ゼミに参加。2022年4月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
1000冊の漫画を持つ漫画好きな会社員。

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2023-05-10 | Posted in 週刊READING LIFE vol.215

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