週刊READING LIFE vol.215

寝転んだ状態で日本の伝統文化に触れてみたら、朝まで寝られなくなった件〜500年も人を魅了させるエンターテイメント「講談」の魅力〜《週刊READING LIFE Vol.215 日本文化と伝統芸能》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/5/15/公開
記事:すじこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「あんな動画を見るんではなかった……」
 
スマホ一つで、映画や動画が見放題な時代の最大の敵は時間だ。
見たい時に動画を好きな時間に好きな分だけ見ることができるため、
ついつい時間を忘れて動画に没頭してしまう。これを俗に”沼る”というらしい。
現代人のほとんどの人がハマった経験を持つであろうエンターテイメントの沼。
 
「あんな動画を見るんではなかった……」
私も先日その沼に見事ハマってしまい、気づいたら朝を迎えていた。
 
「ついつい、あの映画が面白いから見てしまう」
「あのアニメの続きが気になるから見てしまう」などハマった沼の種類と沼の数は人それぞれだが誰しも何かしらの沼にはハマったことがあるはずだ。
私もドラマやアニメの沼に何度もハマった。
しかし今回ハマってしまった沼がそれらの沼と一味違うのだ。
奥が心底深い沼なのだ。もちろんアニメや映画もかなり奥が深い沼だ。
しかし、それ以上、いや、別の意味で深いと言ったほうがいいかもしれない。
なにしろ、その沼の歴史は500年以上。
江戸時代、いや、戦国時代から脈々と洞れた歴史が長い沼である。(諸説あり)
語り継がれる日本の話芸が掘った至極の沼。
その沼の名は、講談だ。
 
講談というと和服の人が舞台の上でハリセンのようなものをはたきながら、話芸を披露するアレである。と言われてもどういうもの分からない人が多いと思う。
落語なら、最近マンガで話題になっているし、日本人ならほとんど見たことがある笑点があるから、なんとなくその形や、そのシステムはわかる人が多いと思う。
しかし、講談は馴染みがある人は少ないのではないだろうか。
 
そもそも講談って何? 講談と落語ってどう違うの? ぶっちゃけ面白いの?
そういう人がほとんどだろう。私もそのレベルだった。
特別私も古典芸能とやらに興味がある人間ではない。アニメ好きで、ドラマや映画もその時代旬なものを見るという言ってみれば普通のアラサーで、講談はおろか、落語もろくに見たことがない人間だった。そんな人間を500年以上の歴史をもった沼に引きずり込んだきっかけ。
それはある1つの動画だった。
たまたまyoutubeのおすすめに講談風景を捉えた動画上がってきたのだ。
 
「え、まって!? 講談ってyoutubeで見れるの?」と驚いたと思う。
私もその一人だ。勝手なイメージだが、「浅草などにある格式が高い劇場でおじさんに紛れながら見る」というのが落語や講談の見方かと思っていた。
それがまさかyoutubeで見られるとは。
パジャマ姿で、ベットに横たわっている状態で、講談を見る。これ以上敷居が低い見方はない。
ワンクリックしただけ。流れてきた動画をワンクリックだけで500年以上の歴史をもった沼にハマったのだ。
 
流れるストーリーに飽きさせない語り部の語り口。
時にコミカルに、時に緊迫感があるその語り口は映像や効果音はなく、ただ着物姿の語り部が物語を語るだけ。
物語を語るだけの見世物だ。
そこに、圧巻の映像も、心を震わせる音楽も、舞台を盛り上げる照明もない。
ただ、語り部がいて物語を話すだけ。
たったそれだけで500年以上人を魅了させる日本が誇るエンターテイメントの沼。
今回はその底知れぬ沼にあなたをご案内していこうと思う。
 
■そもそも講談とは?
そもそも、「講談」とは主に物語や歴史などを講談師という語り部が舞台上に座って読み聞かせる話芸だ。演芸だから笑いの要素ももちろんあるが、それよりも情景や描写を民衆に伝えるということに長けている。
その特性から、企業から「社長の自伝を講談で披露してほしい」と依頼されることもしばしばあるのだとか。
 
伝えることに話術を使う講談。それに対し娯楽に特化したのが落語。
テレビでいうところのニュースとドラマ。というところだろうか。
ただ講談の場合、ニュースを面白く飽きさせないように語るのが魅力で、イメージ的にはyoutube 大学の中田敦彦さんのような感じだろうか。
もしかしたらニュースや時事を娯楽に昇華したのが最初の話芸が講談の原型なのかもしれない。
 
ほかにも講談と落語の違いとして、よく「1人称」か「3人称」かというのが上げられる。
小説でも「私は〇〇と言った」のような自分視点から始まる1人称型と「主人公は〇〇と言った」のようなストーリーテラーが物語を語る3人称型がある。
講談と落語もそれがあり、講談は3人称、落語は1人称と分かれている。
落語の場合、登場人物になりきり演じきるが講談の場合あくまでも講談師はストーリーテラーでそのストーリー内で必要とあればそのシーンや登場人物を演じきる程度だ。
これがざっくりとした講談と落語の違いだ。
 
■伯山ティービーと神田伯山
 
今YouTube内では多くの専門チャンネルが乱立している。
料理のことなら料理の専門チャンネルがあり、旅行のことなら旅行の専門チャンネルがあるように講談にも講談の専門チャンネルなるものが存在する。
それが、今回ご紹介する伯山ティービーだ。
このチャンネルは、テレビでも人気なあの神田伯山が立ち上げた登録者20万人を超えるチャンネルで、伯山の講談や、楽屋の様子、講談師同士の対談などを定期的に配信している。
まさに講談をゼロから見るにはオススメなチャンネルで、私もこのチャンネルがきっかけで講談という沼にハマった。
そもそも、神田伯山という名前は知っていたが、「テレビに出てきた毒舌タレント」という認識で、それまで講談は愚かこの人がどういう人物かもわからかった。
しかし、調べれば調べるほどこの人が単なる毒舌タレントではないことがわかりその魅力に引き込まれていった。
 
神田伯山
1983年6月8日生まれ。三代目神田松鯉(しょうり)に入門後怒涛の勢いで 真打に昇進。
長く継ぐ者のいなかった大名跡「神田伯山」を襲名した。
日本一チケットの取れない講談師で マルチに活躍中。
 
 
落語や講談に限らず、日本芸能というのは「名前を継ぐ」という風習がある。
その芸名に相応しい功績を残したものが「名を継ぐ」という他の芸の世界でもあまり見かけない習わしだ。その芸名に相応しい人が出てこない限りは名が継がれることがないことも多いようで神田伯山はまさに40年襲名されることがなかった名前らしい。
素人目には名前の重みはわからないがそれだけ継ぐものが現れなかった名前を襲名するのは並大抵の出来事ではないことだけは想像がつく。
それでは、何がすごいのだろうか?
それは実際に講談を見ればわかる。
 
■素人でも楽しめる神田伯山の講談2選!
 
①グレーゾーン
最初に紹介するのはグレーゾーンという新作講談だ。
講談は江戸時代から脈々と続く話を披露する「古典」と現代の話を織り交ぜて作り出す「新作」というものがある。講談や落語が古臭いと感じる人は「古典」の部分しか見ていないかもしれない。神田伯山も主に「古典」に特化した講談師ではあるが、YouTubeでは新作講談が上がっている。「新作」は、「古典」よりも親しみがあるため初心者にはかなりオススメな講談だ。
 
グレーゾーン
物語はヨシダマコトとカキモトチカラという2人のプロレス好きな中学生の会話から物語が始まる。プロレスファンというには「プロレスなんて八百長じゃないか」と穿った目で見られること多いらしく、プロレストークを楽しんでいる2人の前にも「八百長スポーツ」と揶揄するやつが幾度も現れる。その度に2人は「八百長ではない!」と固く言い張るが、ある時プロレスは八百長という内部告白が日本全国を駆け巡ることになる。
プロレスが八百長だということが分かり、意気消沈するヨシダはヒョンなことから落語家になることを心出す。時が経ち落語かとしての評価が上がるヨシダにある日、笑点新メンバーのオファーが舞い込む。ガチンコで笑いを競い合う笑点の出演に心を踊らせるヨシダ。
しかし、その舞台裏でヨシダはある真実を目撃することになる・・・。
 
神田伯山の毒舌キャラと笑点という馴染みある舞台がマッチした至極の新作講談。
ぜひ続きはYouTubeで見ていただきたい。
一応この講談はフィクションであることを付け加えておく。
 
②中村仲蔵
続いては神田伯山のお家芸である「古典」だ。
古典と聞くと、時代背景が分かりづらく、使っている言葉も難しいため敬遠しがちだが、この中村仲蔵はそれらの心配を凌駕するほど面白い。ストーリー展開はまさに少年漫画を見てるような爽快感と感動があり、多くの人の心動かすのではないかと思う講談だ。
そんな完璧なストーリーを神田伯山の迫真の語りで語る講談は本当に心を踊らせる。
 
中村仲蔵
のちに名役者と呼ばれる中村仲蔵の若き日の話。
若い時からその演技の実力を親方に認められつつも役者の家柄のものではないとの理由で大きな役がもらえず苦しんでいた中村仲蔵。
役者の子は役者。お家柄を重要視する時代において中村仲蔵の役者としての実力はそれほど高く評価するものではなかったのだ。
そんな不遇の時代を実力と機転が利いた役の工夫で切り開く一人の役者の物語。
 
この話は落語としても有名だが講談で聞くとまた別の面白さがある一幕。
是非ご覧いただき講談で心を震わしてほしい。
 
いかがだろうか?
この他にも様々な話や、いままで見られなかった楽屋の光景までをYouTubeで見られる。
少しでも興味を持った人はいますぐYouTubeで検索していただきたい。
行動力ゼロでも、時間がなくても沼れる日本芸能、講談はあなたを病みつきにさせるに違いない。いざ、500年の日本芸能の世界へ。その入り口はいつでもスマホの中にある。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
すじこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

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2023-05-10 | Posted in 週刊READING LIFE vol.215

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