週刊READING LIFE vol.218

“泣いてもだいじょうぶ”な映画がおしえてくれたこと~シナぷしゅTHEMOVIE~《週刊READING LIFE Vol.218》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/6/6/公開
記事:小田恵理香(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
私が母になってしばらくできないなと諦めたこと。
朝まで時間を気にせずにはしご酒をしながらお酒を飲むこと。
USJのフライングダイナソーに乗ること。
夜のイベントに参加すること。
謎解きゲームに参加すること。
B’zのライブに行く事。
映画館で映画を見ること。
寂しい気もするし、その時は軽く絶望に近しいものもあったけれど。
いざその立場になってみると案外できなくても支障をきたすことはなかったし、意外とベビーシッターなどの託児を使えば楽しめてしまうものだ。
ただ違うのは、気になるものがあること。
そう息子のことだ。
何度か近所のショッピングモールの託児に預けマッサージに行ったことがある。
心身ともに良い気分転換にもなるのだが、なんとなく後ろ髪をひかれるような気がしていた。
ふとした瞬間に
「今お昼寝してるだろうか?」
「預ける時泣いてたけど大丈夫だろうか?」
ついつい考えてしまう。
“ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密”だけはと。
私の推し俳優でもあるエディ・レッドメインを大画面で見たくて、息子を託児に預けて夫と見に行った時のことだ。
普段保育園に行っている息子はまさか休みなのに預けられると思っていなかったからか大暴れしてかなり罪悪感があった。
強行して一緒に連れて行ってもいいのかもしれないが、乳児が3時間近くもジーっと座っているのは苦行に近いものもあるし、暗い空間に大音量。
泣いてしまって他の人に迷惑をかけてしまう。
致し方ない。
だがやはり映画館で見る映画はやはり格別だった。
映像、迫力、音。
映画館でしか味わうことができないこの体験。
息子にも体感してもらいたいなと思ってはいたものの、できるようになるのはまだまだ先だろうなと思った。
 
『シナぷしゅが映画になります!』
ある日の朝、そんな告知に私は飛びついた。
“シナぷしゅ”は2歳の息子が朝見ている子供番組だ。
TV東京が作った0歳から2歳児向けのもの。
私がその存在を知ったのは、入院していた産科だった。
朝食を食べ終わり、TVをつけてぼーっとしながら息子が運ばれてくるのを待っていた。
よくある体験記では入院中はご飯を食べる間もなく、寝る暇もなく……と聞いていたが、私がお世話になった病院はとにもかくにも産後の1週間はゆっくり休みましょうというコンセプトだった。
基本的に夜は預かってくれたし、食事中も
「預かるから温かいうちにゆっくり食べて」
と至れり尽くせりな環境だった。
 
「はーい、赤ちゃん連れてきましたよー」
「ありがとうございます」
さて、今日も頑張るかと気合を入れる。
「そうそう。朝のこの時間にね、赤ちゃん向けの番組やってるのよ」
「赤ちゃん向けですか?」
「確か、テレビ東京だったかな……、ちょっとリモコン借りてもいい?」
「どうぞ」
そしてかけてくれたのが“シナぷしゅ”だった。
「TV見せちゃだめだとか、動画はダメだとか色々あるけど、私はこういうのどんどん頼ったらいいと思う」
「こんな番組あるんですね。知りませんでした」
シナぷしゅとの出会いはこんな感じだった。
この世に出てきたばかりの息子には内容を理解するのは難しい。
だが0歳の赤ちゃんも楽しめるように作られていることもあってか、流れてくる歌を聴いていると泣いていても泣き止むということが度々あった。
そこから平日の朝はほぼ毎日この番組にはお世話になった。
ありがたいことにシナぷしゅはYoutubeでも24時間無限ライブというものをやってくれていて夜泣きが収まらずお世話になったことがある。
その時には自分だけではなく、他にも見ている人もいて
「あぁ。同志がいる」
と励まされた経験がある。
2歳を過ぎたあたりから他に興味が出てきたのか、シナぷしゅは卒業モードに入りつつあったが朝放送を見てから保育園の登園準備をするのがルーティンのようになっていた。
実際にご近所の同級生の女の子は興味が薄れてしまい、もう見なくなってしまっていた。
 
そんな番組が映画になる?
どういうこと?
私はそのまま、息子より画面に食い入った。
まず、子供が怖がらないように照明を明るくしているということ。
確かに、急に真っ暗になると子供は泣く。
昨年ジブリパークの映像展示室に行った時も、暗くなった瞬間は泣く子も多く。
泣きはしなかったものの息子も最初は怖がっていた。
そのことを思うと、なんとありがたいことだろう。
さらに音で驚かないよう、優しい音量にしているとのこと。
料金は0歳から大人まで一律で1人1000円。
家族3人で3000円と言う良心的な値段。
極めつけに響いたキャッチコピーがこれだった。
 
“泣いてもだいじょうぶ”
安心できる環境でのびのび観よう。
映画デビューにはちょうどいいのかもしれない。
こうして“泣いてもだいじょうぶ”な映画を見に行くことにしたのだ。
 
チケットを確保し、迎えた当日。
映画館には今まで見たことのない光景が拡がっていた。
そう、ベビーカーを押した家族連れがたくさんいたのだ。
「これ、みんなシナぷしゅやんな?」
「絶対そうやと思う」
夏休みや冬休みは子供が多い時期ではあるが、映画館でこんな数のベビーカーを見た経験は初めてだ。
入場特典として、1家族に1つタンバリンをもらった。
鳴らしても大丈夫とのこと。
実際子供たちは終始嬉しそうに鳴らしていた。
おそらくいつもより多めに用意しているであろうキッズ用の座布団を持ち、いざ館内へ入る。
「わー! おっきーね―!」
初めての光景に興奮する息子。
息子だけではなく、その部屋にいた子供たちみんなが
「これから何が始まるんだろう?」
とワクワクしている様子がとても微笑ましかった。
そして本編が始まる。
 
ほんの少しだけ暗くはなったものの、暗闇のような暗さではなく夕日が沈む時のような温かい明るさ。
そして大きすぎず、かといって小さすぎない音量。
そんな優しい雰囲気の中で映画は始まった。
「あ!ぷしゅぷしゅ!」
普段TVでみているシナぷしゅのキャラクター、ぷしゅぷしゅが大きな画面で映し出され、嬉しくなったのか息子もそうだったが周りの子たちも同様だった。
普通の映画であれば
「お子さん静かにさせて下さい」
って注意されるところだろう。
だが、そんなこともなく温かい雰囲気。
そして映画は進んでいく。
途中で息子は映画館特有の座席シートが気になって遊びだし、正面のスクリーンよりも映写室から映し出される画像の方が気になってしまったが、最後の方は席に座りじーっとスクリーンを見ていた。
“泣いても大丈夫”というコンセプトもあるからか、誰かが泣いていても全く気にすることもなかった。
そして、最後には写真タイムが5分間設けられている。
なんと座席から記念撮影が出来てしまうのだ。
 
“映画館デビューおめでとう”
写真にはそんなことが書かれていた。
記念撮影を終え、席を離れるための準備をしていると
「よかったね」
「ん?」
「ぷしゅぷしゅ、よかったね」
と息子が言った。
他にも
「よかったね」
「たのしかったね」
と感想を言っている子供もいた。
40分という短い時間。
小さな息子は何を感じたかは私にはわからない。
ただ言えるのは初めての映画館。
親とだけではなく、似たような世代の仲間と一つのものを共有するという経験をした。
つまらなかったと思った子もいるかもしれない。
中には寝てしまった子もいるかもしれない。
記憶に残るかはわからないし、息子が大人になった時に話したところで
「そんな記憶無いわ」
と一蹴されてしまうかもしれない。
それでも良い。
映画館が怖い所ではなく楽しい所だと思ってくれればそれでいい。
“泣いてもだいじょうぶ”な映画はそんなことを教えてくれたんだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
小田恵理香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

大阪生まれ大阪育ち。
2022年4月人生を変えるライティングゼミ受講。
2022年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
病院で臨床検査技師として働く傍ら、CBLコーチングスクールでコーチングを学び、コーチとして独立。日々クライアントに寄り添っている。
CBLコーチングスクール認定コーチ。
7つの習慣セルフコーチング認定コーチ。
スノーボードとB‘zをこよなく愛する一児の母でもある。

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2023-05-31 | Posted in 週刊READING LIFE vol.218

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