週刊READING LIFE vol.219

陰湿かもしれないストレス発散法《週刊READING LIFE Vol.219 ソーシャルメディアの使い方》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/6/12/公開
記事:川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
夜、なかなか寝付けない時、私はSNSをパトロールする。
 
SNSのパトロールを知ったのは、とあるテレビ番組で、とある芸能人が「やっている」と言っていたからだ。SNSパトロールというのは、SNS上の不適切なコメントや、ステマのコメントのような悪質な投稿をひらすら通報しまくる、というものだ。
 
私は正義感が強いらしい。自分では強くそう思ったことはないのだが、周りからはそう言われたり、「責任感が強い」と言われたりもする。確かに街中で空き缶やタバコの吸い殻をポイ捨てする人に対しては不快感を覚えるし、仕事でも筋が通ってない言い訳ばかりの同僚を見るとイラっとする。時と場合は選ぶようにしているが、間違っていると思ったことはストレートに相手に異を唱えることが多い。自分の言動を思い返すと、確かに正義感や責任感のようなものは強い方なのかもしれない。
 
それもあってか、SNSパトロールは、私のストレスが溜まりに溜まっている時の「ストレス解消ルーティン」になりつつあった。
 
仕事が上手くいかなかった時、嫌味を言われた時、怒られた時、電車で2人分の席を1人ででかでかと使っている人を見た時、駅のホームで順番を抜かされた時、肩がぶつかっても誤りもされなかった時。なかにはイラっとしても数分すれば思い出すこともなく忘れているようなこともある。いや、そういった出来事の方が多いかもしれない。それでも、「それが何か」は思い出せずとも、「イラっとした」という感情は、少なからず私の中に残っているようで、それが日々「なんかわからんけどイライラする」というストレスになってしまっているような気がする。
 
その「なんかわからんけどイライラする」のストレスを解消するのが「SNSパトロール」だ。
 
Instagram、Twitter、Facebook、YouTube、note、TikTokなど、世の中にはたくさんのSNSが溢れている。私もそのうちのいくつかアカウントを持っていて、そのいくつかでパトロールを実施している。
 
私自身はプライベートアカウント、いわゆる鍵付きのアカウントのため、まったく見知らぬ人からは変なコメントはこないようになっている。私がパトロールするのは、芸能人のアカウントだ。フォローしていない芸能人のアカウントにわざわざ飛んでいって、そのアカウントの中から適当に投稿を見て、そのコメント欄を見る。そして、そこから不適切なコメントを丁寧にひとつずつ見つける。パトロールのスタートである。
 
特に炎上していない投稿のコメント欄は、だいたいステマのコメントが多い。「おいしそうな料理ですね!」のような普通のコメントのあとに「私が愛用しているタイツは……」だとか「友人に勧められて飲み始めたサプリが……」というようなステマの文言が入っている。それらを見逃さないように気を付けながらコメントをどんどん読み込んでいき、見つけたら即「不適切なコメント」として通報をする。ステマに限らず、ダイレクトすぎる性的表現や誹謗中傷などの悪質なコメントも、漏れがないようにチェックし、通報する。パトロールと言うだけあって、まるでネット上の警察にでもなった気分で、夜中に次々と不適切なコメントを通報していく。
 
しかし、そういうコメントは想像しているよりもはるかに多く、終わりが見えない。というか、終わりがない。通報しても通報しても、探せば探すほどに出てくるのだ。SNSパトロールには、終わりがない。ゆえに睡眠不足となり、さらにストレスが溜まる、という悪循環を生み出してしまっている。本末転倒だという自覚は、もちろんある。
 
私はSNSパトロールに、一種の快感のようなものを覚えている。
 
それはなぜか。
不適切なコメント、悪質なコメント、そういうものを「この人悪いことしてますよー! 捕まえてくださーい!」とでも言うように、通報できるということに、快感を覚えているのだと思う。それは「正義感」や「責任感」というものが強い、私の性格にも原因があるのかもしれない。「私は正しいことをしている」「間違っている人にNOを突き付けている」という行動に、快感を覚えているのだろう。
 
でも実際、私は見知らぬ人が街中でタバコをポイ捨てしていたとしても「ここに吸い殻捨てちゃダメですよ」とも言わないし、駅で電車に乗り込む際に順番を抜かされたとしても、きっと何も言わない。ちょっとだけその人のことを睨むかもしれないけれど、それもきっと、相手が自分より強そうだったり、怖そうな人だったりすると絶対にしない。自分の身を守るためならそれが普通かもしれないし、それが安全なのだとも思うが、正義感や責任感を主軸に考えた時、それは少々ブレているように感じて、あまり強くないのかもしれない。
 
SNSなら、自分も相手も顔が見えない。この点においては良くも悪くも、ということはわかっているし、実際SNSの「顔が見えない」という点を悪用したものの代表例が、悪質なコメントの数々なのだと思う。それらに傷つけられ、最悪の場合は命を落とす人もいる。広い意味で考えると、私や、私がパトロールをするきっかけとなった芸能人のやっていることは警察官のような、正義のヒーローのような、弱い誰かを守るための行動なのかもしれない。私においては、それが寝つきが悪い時のスキマ時間でやっていたり、ストレス発散の一環でやっていることなので、一石二鳥なのかもしれない。絶滅はしないが、SNS上に溢れる悪質コメントの少しは減らせているし、それを見て不快になる人も減らせているかもしれないし、それを見て傷つく誰かも減らせているかもしれない。
 
こう書くと、いかにも正しいことをしているような気分になる。
しかし、どこかで「顔出しをしていない」ということに、後ろめたさを感じるのだ。
 
だからと言って顔を出して「悪質コメント絶滅宣言! 見つけたら私が全部潰していってやるんだから!!!」なんてことをする気もないのだが、悪質コメントをする側が、顔出ししていないから大きく出られるのと同じで、悪質コメントを通報する側も、顔が出ていないから次々と通報を挙げられるのだと思う。顔が出ていると、今のように気軽に通報できないと思うし、いざ通報するにしても「これは本当に通報するべき案件なのだろうか」とか「通報してしまうことによってこの人の何かが変わってしまうのではないか」とか、正しいことをしているはずなのに少し躊躇するような考えが浮かんでしまうような気がする。
 
「顔が出ていない」ということで、誰しも、自分が発信することに対する責任感が薄れているところがあるのかもしれない。少なくとも、通報に値するような投稿やコメントをしている人はそうだし、それを次々と通報している私のような人もそうなのだと思う。自分という存在を切り離した、無責任な状態になっているような気がしている。
 
芸能人のように、一般人でも顔出しをしてSNSを利用している人もいる。しかし、顔や身分を明かさずとも情報を発信できるところがSNSの魅力のひとつでもある。
顔が見えないことで、気軽に発信できるし、実際に顔出しせずとも本を出版したり、企業とのコラボ商品を発売しているようなインフルエンサーもいる。間違った使い方をしなければ、楽しく使える現代のツールなのだ。
 
今日もパトロールしようとしていた自分の手を止める。
不適切なコメントや悪質なコメントを通報するという、間違ってはいない行動だけれども……。
 
ストレスは違う方法で発散してもいいのかもしれない。
願わくば、私のようにパトロールするような人間がいなくてすむようなSNSの世界であってほしい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。大阪府在住。
大阪府内のメーカーで営業職として働く。コロナ禍で当時付き合っていた彼氏に振られ、見返すために自分磨きを開始し、その一環で2021年10月開講のライティング・ゼミに参加。2022年1月からライターズ倶楽部に参加。WEB READING LIFEにて『こじらせ女子図鑑』連載中。

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2023-06-07 | Posted in 週刊READING LIFE vol.219

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