週刊READING LIFE vol.220

失恋女子に捧ぐ! 失恋したらとりあえず読んでほしい小説ベスト5《週刊READING LIFE Vol.220 オールタイムベスト小説5》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/6/19/公開
記事:川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 
 
社会人になってからの失恋は、まぁまぁ痛い。
特に、結婚しているかどうか、または彼氏がいるかいないかが周りに気を使わせる要素となるアラサーにとっては心理的なダメージは計り知れない。かく言う私も、28歳で失恋をした経験者である。「別れよう」と言われた時の、目の前が真っ暗になる感じは、今思い出しても胸がギューッとなる。これでもかというくらい。
 
だからと言って立ち止まるわけにもいかない。私が振られようがどうしようが、なんなら失恋のショックから食欲を始めとするあらゆる物事に関して意欲を失い、一人暮らしの部屋でぶっ倒れたとしても地球は回るし、世界の人々の日常はいつも通り流れていく。私がいくらベコベコのぺしゃんこになったところで、何も変わらないのだ。
 
となると、この失恋の傷といかに向き合い、時にはあえてさらにダメージを与え、落ちるところまで落ちてしまい、その後いかに這い上がるのか、という点に重きを置いて日々の行動を見つめ直すことだ。
そう思い、私は「もしも元彼と街中でばったり鉢合わせた時に『嗚呼、俺はなんて良い女を振ってしまったんだろう』と後悔させてやる大作戦」を決行することにした。端的に言うと、ダイエットをしてメイクや髪型を変えて、見た目を垢抜けさせるというものだ。
 
そんなことをしていると、取引先の女性に「見た目ばっかり磨いてないで本読め!」とピシャリと言われてしまった。見た目も大事だが、中身もしっかり磨きなさい。歳を重ねると、内面が目つきや表情に出てくるし、教養が言葉遣いに出てくるのよ、と。人生の先輩に言われると、言葉の重みが違う。私は素直に言うことを聞くことにした。その週末に書店へ行き、気になる本を手当たり次第に購入した。
 
選書をするというのは、自分と向き合うことと似ている。その時に気になっている本を直感的に手に取るようにしているが、自分の精神状態を測ることもできると思っている。
私の場合、ストレスが溜まっている時はサスペンスやホラー系の小説を手に取り(本来苦手なので、読了時に激しく後悔する)、仕事のやる気がある時はビジネス書を多く手に取る。
 
では、失恋の傷が癒えていない時は何を手に取るのか。
そう、お察しの通り、失恋した女性が主人公の小説である。
失恋した主人公にひたすら感情移入し、それと同時に自分が振られた瞬間も思い出し「うお……」と呻きながらクッションに顔を埋める。自分をひたすらに痛めつけ、落とせるところまで落とすのだ。荒療法かもしれないが、痛みに慣れて麻痺させる、というのもアリだと思うのだ。
 
今回は、私が失恋時、自分を落とすために選書し、読んだ小説を紹介する。
 
 
 
『独立記念日』著・原田マハ
さまざまな年代の女性が恋愛やキャリアに悩みながらも前を向いて進んでいく、という話がたくさん詰まった短編集である。
文庫本の裏に書いてあるあらすじと、タイトルの力強さに惹かれ、「これを読めば私も強くなれるのかもしれない……」と思わされ購入に至った。
 
短編集ということで失恋女性だけが主人公の話ではないのだが、それぞれの話に出てくる女性がとても強かで、自分の意志で道をどんどん拓いていく様にとても勇気をもらった。取引先の女性に「本を読め」と言われてすぐの週末に購入した小説だったが、これを読んで、とりあえず今は仕事に打ち込んでやろうと思えたし、ダイエットにもさらに励もうと決意した。この小説に出てくる女性たちのように、私も強かな女性になりたいと思ったのだった。
 
 
『出会いなおし』著・森絵都
正直に言おう。
これはタイトル買いした1冊である。
 
思い出してほしい。私を振った元彼に対して銘打った大作戦を。その名も「もしも元彼と街中でばったり鉢合わせた時に『嗚呼、俺はなんて良い女を振ってしまったんだろう』と後悔させてやる大作戦」である。この大作戦を思いついた時点で、私は将来いつか、この元彼に再会したいと心のどこかで思っていたのかもしれない。いや、そうだ。もし一生会わないつもりだったら、垢抜けるとしても、こんな名前をつけなくて良いのである。私は未練がタラタラだったのだ。
 
この小説はタイトル通り、人と人との再会をテーマにした短編集である。
 
31年生きてきていろんな人と出会ったけれども、会いたくて定期的にお互い連絡を取り合う人もいれば、会いたくてもなあなか会えない人もいれば、昔あれだけ仲が良かったのに心境や環境やらの変化で会わなくなる人もいて、でもまた新しく出会う人がいて、誰と出会って誰と関わるか、関わっていく中で生まれるものや感情とか、そういうものの積み重ねで人は形成されていくのだろうな、と思った。もちろん私も。
 
そういった意味では、今の私も元彼がいたおかげで、そして振ってくれたおかげであるのだと思える。でないと、ダイエットをしようなんて思わなかったし、自分がスキニーデニムを履ける日がくるなんて思わなかった。髪色をピンク系にしようなんて一切思わなかっただろう。
 
失恋女性が主人公の物語ではないが、元彼と過ごした時間も、振られたことも無駄にしたくないし、してはいけないと思わせられた1冊である。
 
 
『消えていく日に』著・加藤千恵
失恋をするまで、加藤千恵さんという小説家を知らなかった。なぜ知ったか。ネットで「失恋 小説 アラサー」と調べたからである。そこに書いてあった中で「加藤千恵さんの小説は失恋に沁みる」と書いてあり、そのレビューを見た数分後にはネットでこの小説をポチっとしていた。失恋の傷を癒したいのか深めたいのかわからないが、とにかく失恋した私に合いそうなものは何でも試してみたかったのだ。
 
こちらも短編集で、しかも「好きで仕方のなかった人からの連絡」がテーマになっている話もある。私が心のどこかで無意識に願っていた元彼との再会の妄想には打ってつけの話じゃないか。未練タラタラ具合が自分でもよくわかる。どの話も心に沁みる話ばかりで、通勤電車で読むこともあったのだが、当時のマスク社会に感謝した。感情移入しすぎて泣かないように、というのと、苦い思い出が蘇ってきて、というのでずっと眉間に皺が寄っていたような気がする。小さい声で「うお……」と呻くことが多いくらいには、心にずしっと響く小説だった。でも、読了後は清々しい気持ちになれる、失恋女性にとっては非常に質の良い小説だ。心に沁みる度でいうと、間違いなく星5つである。
 
手っ取り早く自分を最底辺まで落としたい方は、この小説を1発目に読んでもいいかもしれない。
 
 
『点をつなぐ』著・加藤千恵
同じく加藤千恵さんの小説。『消えていく日に』があまりにも良かったので、読了した数分後にまたもやネットでポチっと購入した1冊だ。
 
この小説の主人公は、失恋当時の私と同じ28歳という、その設定だけでもはや胸に沁みる何かがあった。こちらは短編集ではないので、28歳主人公が恋愛にキャリアに悩む心境が丁寧に描かれている。特に「私、これでいいのか?」「自分で選んだはずなのになんか違う気がする……満たされない……」と日頃から思いがちな、どちらかというとネガティブな女性には響くものが多いと思う。
現在私は31歳である。今でも「こんなんでいいのだろうか……」などと思い悩むことは絶えないが、だいたい27歳から30歳になるまでの期間というのは、女性が恋愛や仕事に悩みまくり、少々情緒が不安定になる時期だと思う。そんな時期に読むと、どこか「私だけじゃないんだ」と安心さえするような小説だ。
アラサー女性、どちらかというとネガティブ気味な女性には、ぜひ読んでいただきたい1冊。
 
 
『本日は、お日柄もよく』著・原田マハ
原田マハさんに始まり、原田マハさんで締める。
この小説はあまりにも有名なので、読んだことがある方は多いと思う。しかし、その上で提案したい。ぜひ、この小説を失恋した後に読んでいただきたい。
 
主人公は27歳と、これまたアラサー世代は感情移入しやすい設定になっている。そんな主人公が、密かに想いを寄せていた幼なじみの結婚式に出席しなければならなくなったのだ。片思い相手に彼女ができたどころか、結婚してしまうという、ほとんどの失恋女性からすると「自分よりはマシかも……」と思える展開からスタートする。もう、この冒頭だけで救われる人は多いと思う。少なくとも私は救われた。
 
そこで出会った祝辞に感動し、そのスピーチライターに弟子入りする。ライバルが現れたり、いろんな壁にぶつかったり、未経験で飛び込んだ世界でさまざまな困難にぶつかるが、折れそうになりながらも前に進む主人公に心打たれる話だ。メインは仕事の話だが、恋愛要素も散りばめられており、失恋した女性が仕事に打ち込むリアルな様子が描かれている。その様子から、私も今は他のことを考える余地がないくらい仕事にのめり込もうと思えたのだった。そして最後の展開からは、頑張っていれば見てくれている人はいる、と励まされるような気持ちにもなれた。仕事にすべてを捧げるつもりはないが、頑張っていれば良い人に巡り合えるんじゃないか、というような錯覚にも陥った。
 
 
以上、失恋した女性に捧げたい小説ベスト5である。
 
その後、なんやかんやとあり、私はこれらの小説を読むきっかけとなった元彼から連絡がきて、再会をした。髪色や髪の長さが変わったことにはさすがに気付いたが、ダイエットをして痩せたことにはまったく気づかれなかった(ちなみに10㎏痩せた)。
 
「別に付き合ってた時も太ってなかったし、別に太ってても痩せてても可愛かったし、今も可愛いし」
 
……不覚にも、ときめいてしまったじゃないか。
 
 
次はどの小説を読めばいいだろうか。
また忘れるのに時間がかかりそうだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。大阪府在住。
大阪府内のメーカーで営業職として働く。コロナ禍で当時付き合っていた彼氏に振られ、見返すために自分磨きを開始し、その一環で2021年10月開講のライティング・ゼミに参加。2022年1月からライターズ倶楽部に参加。WEB READING LIFEにて『こじらせ女子図鑑』連載中。

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2023-06-14 | Posted in 週刊READING LIFE vol.220

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