週刊READING LIFE vol.220

わたしは背中を押してくれる本に弱いのだ《週刊READING LIFE Vol.220 オールタイムベスト小説5》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/6/19/公開
記事:山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
漫画は電子書籍を購入しているが、小説は断然紙派である。
 
「ページをめくる手がとまらない」
 
やはりこの感覚はスマホでは味わえないだろう。
気になるところはすぐにペラペラと戻ることができる。
 
電子書籍で小説を読むのは邪道だわ。
 
なんて思っていた。
だがしかし、こうも覆されるとは思ってもみなかった。
 
ページをタップする指がとまらないじゃないか!
 
紙とか電子書籍とか、続きを早く読ませてくれれば媒体なんてどうでもいい。
あぁ、興味本位でポチっとしただけだったのに……。
 
というわけで、つい数日前にわたしの睡眠時間を奪った本をまずは紹介しよう。
 
1冊目は、中村颯希の『ふつつかな悪女ではございます~雛宮蝶鼠とりかえ伝~』だ。
 
舞台は中国の後宮。
慈悲深く、誰からも愛されるけど身体の弱い黄家の雛女(ひめ)の玲琳(れいりん)が、悪女とののしられ、誰からも嫌われる朱家の雛女の慧月(けいげつ)と入れ替わるストーリー。
コミカライズもされているため、ネットの広告で見た人もいるかもしれない。
 
設定はありがちだ。
でも、中国の後宮が舞台の入れ替わりもの……嫌いじゃない。
 
主人公のキャラクターがなんとも魅力的。
ここまでぶっとんでいるキャラクターはそうはいない。
悪役だった雛女のほうが普通にみえて、いつしか慧月に自分を重ねて玲琳にハラハラさせられる。
 
雛宮(すうぐう)とよばれる次期皇后になる姫君たちの住処が舞台だ。
 
後宮は整理され、雛宮を中心に北領をおさめ水を司る玄家、東領をおさめ木を司る藍家、南領をおさめ火を司る朱家、直轄領をおさめ土を司る黄家、西領をおさめ金を司る金家の五家からのみ妃を受け入れることになっている。
それぞれの家の5人の姫たちが、皇后と四夫人の座を争うというわけだ。
 
家ごとに気質が違うのも面白い。
登場人物の出身によって、気性が違うのも納得だ。
 
北の玄家は冷淡で、非人道的な行為も平然と行うことが多く、武芸に優れる者が多い。
東の藍家は穏やかで学者肌が多いが、腹黒い一面がある。
南の朱家は苛烈な性格で理より情を重んじる。
直轄領の黄家は朴訥で実直、世話好きな人が多く、好奇心旺盛。
西の金家は美や哲学を重視するが、商人肌な部分もある。
 
しっかりとした物語の世界観がある。
本のなかでも書かれているが、主人公である黄家の玲琳は、宝石のような整った容姿、佇まいは優雅、学に優れ才に溢れ、心根も善良という、完璧な女の子なのだが身体が大変弱い。
 
そんな玲琳を貶めようと企む人物がいる。
 
「忌々しい女、消えるがいいわ……!」
 
皆から憎まれている慧月に玲琳は妬まれ、心と身体を入れ替えられてしまう……さて、どうなる?
 
しかし、この玲琳、ぶっとんでる。
身体は弱いが鋼のメンタル。
どんなに嫌味を言ってもポジティブに変換してしまう。
入れ替わって健康な身体を手に入れたので、自分の置かれた環境に涙するところか、喜んでしまう。
そして、自分の味方を傷つけられると恐ろしく復讐する。
そう、悪者をメッタメタのギッタギタにこらしめようとするのだ。
しかし、どんなに悪女の姿になっても品は失わない。
読んでいて痛快。
 
この鋼のメンタルの玲琳に、困らせようとしていた人々がふりまわされ、結果、ただのツンデレキャラになってしまうのもいい。
 
もちろんイケメンもでてきます。
皇太子の尭明(ぎょうめい)や、皇帝の血をひく鷲官長の辰宇(しんう)。
容姿も心もイケメン揃いで、読んでいる側はときめくのに、天然の主人公にありがちだが、玲琳は超がつくほど鈍くて恋愛モードにはならない。
イケメンたちの一方通行の恋心もまたいい!
 
ただ、この本は夜読むと睡眠時間を奪うので、ちゃんと睡眠時間を確保できる状態で読むことをお薦めします。
 
さて、中国つながりで次にお薦めする本はこちらだ
 
2冊目は、小野不由美の『十二国記』だ。
 
いわずと知れたファンタジー小説の代表ともいえる作品。
『十二国記』シリーズは中国風な異世界ファンタジーだ。
シリーズと言ったのは、小説のなかの世界は十二国にわかれていて、その国ごとに話がわかれているからだ。
 
全体を通しての主人公は「慶」という国の女王の陽子だとわたしは思っている。
陽子が主人公のシリーズを読めば、『十二国記』シリーズの主要な人物が登場するので、陽子が主人公のシリーズを読むことをお薦めする。
 
東京に住む大人しい女子高生の陽子が、十二の国家に十二の王が存在し、それぞれの国において、神獣の麒麟が王を選ぶという異世界に飛ばされてしまう。
 
麒麟という神獣が選んだ王は不老不死となり、麒麟が死ななければ死ぬことはない。
高官も不老不死となる。
ただし、王が道を外せば麒麟が病み、麒麟が死ねば王も死ぬ。
日本から異世界に飛ばされ、「慶」という国の王として成長する陽子の物語は途中まで読んでいて苦しい。
しかし、あるネズミが登場してから、人の顔色ばかりをうかがっていた陽子がどんどん成長していく。
 
読み始めるシリーズを間違えると、途中で断念する可能性もある。
エピソードゼロとして位置づけられているのは「戴」の国の麒麟が主人公の「魔性の子」だが、これを最初に読むと、少々ホラー色が強いため、ある程度十二国の世界観を頭に叩き込んでから読んだほうがよいだろう。
なので、まず最初に陽子が主人公の『月の影 影の海』から読み始めるのがいいだろう。
 
陽子が主人公のシリーズはいくつもあるが、わたしが気に入っているのは、陽子が王となってからのエピソードである『風の万里 黎明の空』だ。
 
王となった陽子は、知識不足と若い女王ということもあり、官吏になめられ、唯一の味方である麒麟との関係もうまくいっていない。
陽子は国を自分の目で見ることを決意し、王の身分を隠して市井におりるのだが、圧政に苦しむ慶国のレジスタンスに身を投じることになる。
 
『十二国記』はアニメ化もされており、このアニメがまた秀逸なので、アニメで予習してから読むのもありだと思う。
 
落ち込むといつもこの本を読んでいた時期があった。
繰り返し読んでいたため、ページをめくる際に指の腹があたる本の小口は、自分の手垢でいつのまにか変色してしまった。
 
そして、同じように、前向きになりたいときに手をのばしてしまう本がある。
中国風のファンタジーではなく、紛れもない、中国のお話だ。
 
3冊目は浅田次郎の『蒼穹の昴』を紹介しよう。
 
何度「チュンル~!」と登場人物の名前を叫びたくなったことか!
 
舞台は清王朝末期の中国。
物語は老婆の占いから始まる。
糞拾いの貧しい農民の少年である春児(チュンル)を占っている。
そして老婆は言う。
 
汝は必ずや、あまねく天下の財宝を手中に収むるであろう。
 
どう考えても馬の糞を拾って生計をたて、幼い妹の面倒をみている春児が西太后のお側に仕えるなんて夢物語……。
しかし、春児が生まれて初めて「希望」をもらったことからすべての物語が始まる。
 
「希望」があると、たとえどんなに恐ろしくても、一歩を踏み出す勇気を持てるということを、春児をみて思った。
 
そしてもうひとり、老婆に占われた青年がいる。
春児を弟のようにかわいがってくれる良家の息子である梁文秀(リアンウエンシウ)。変わり者だが、若干20歳で科挙に合格した切れ者だ。
 
彼は天下の政ごとを司ることになるだろうと予言される。
しかし困難な一生だが誇り高く生きよとも言われる。
 
この二人を中心に物語は進んでいく。
 
予言を信じ、糞拾いの少年は宦官になって自らの手で運命を切り開いていく。
もう春児が健気でかわいくて仕方がない。
激動の中国史のなかで、文秀と春児は都でそれぞれの道を行くのだが、清朝末期の中国の複雑な情勢のなか、立場は違うが清王朝の中枢にいる二人にどのような宿命が待っているのか……。
 
読む機会があれば、冒頭の春児の占いをぜひ、覚えていてほしい。
これが後半きいてくる。
 
運命を変えるなら自分で動かなくては!
 
前半は自らの出自に抗って運命を切り開いていく爽快な物語になっており、後半は複雑な歴史が絡み、読みながら緊張して目が離せない。
歴史小説の傑作だと思う。
もし、なにかをしたいと思っていて、あと一歩が踏み出せずに立ち止まっているのであれば、この本をお薦めする。
 
さて、中国ものが3つ続いたので、ちょっとテイストをかえますか。
 
4冊目は原田マハの『楽園のカンヴァス』だ。
 
あり得ないとわかっていても憧れるシチュエーションがある。
凡庸な人物だと思われていた人が、実はすごい才能の持ち主だった……どっきり番組でもよくある設定なのだが、わたしの大好物な設定なのである。
まさしく、この本の主人公がそんな人物だ。
 
美術館の監視員の仕事をしている40代の主婦である早川織絵のもとに、ニューヨーク近代美術館のチーフ・キュレーターから、織絵が交渉の窓口になるのであれば、大手全国紙の文化事業部が企画しているアンリ・ルソー展に、ニューヨーク近代美術館からルソーの代表作である「夢」を貸し出そうという申し出がある。
 
なぜ有名なキュレーターが日本の一介の監視員に?
ですよね!
 
そう、織絵は一介の監視員ではなく、フランスのソルボンヌ大学卒で、26歳で博士号を取得し、流暢なフランス語で次々と論文を発表した、アンリ・ルソーの日本人研究者だったのだ。
 
あー、そのシチュエーション大好きです!
 
自分の妄想がしっかりとした活字となって表現されていたので、わたしは興奮して読み続けた。
 
そして物語は現代から17年前のニューヨークになり、ティム・ブラウンの目線で物語は進むことになる。
主人公が切り替わるのも珍しい。
ティム・ブラウンと織絵が「夢」に酷似した絵が贋作かどうかの依頼を受け、古書を読み解いて7日間後に鑑定対決をすることになる。
 
この古書を読むとピカソやアンリ・ルソーが生きた時代へと物語が移り、またもや時代がかわるのだ。
すごい構成だ。
ミステリー要素があり、設定も大好物なので、やはりページをめくる手がとまらなかった。
 
物語に登場する画家たちは、実際の人物なので、この本を読むと美術館へ行きたくなるはずだ。
アートに触れてみたいと考えているのであれば、この本をお薦めする。
 
そして、最後に紹介するのは、西加奈子著『サラバ!』だ。
 
2022年11月、天狼院カフェSHIBUYAにおいて、世界的なスコッチウィスキーブランドのDewar’sと天狼院書店がコラボした「いつかの、誰かの買った本が読めるブックバー」というコンセプトのイベントが期間限定で実現した。
そのときのキックオフイベントで、お笑い芸人の又吉直樹さんが登壇したときのインタビュー記事を読み、思わず購入してしまった。
 
その記事のなかで、又吉さんが『サラバ!』を読んで、
「誰がなんと言おうと自分がそうしたいと思ったならそうすればいい。これは全ての人の背中を押してくれる本です」
と話している記載があり、背中を押してくれる本に弱いわたしは早速本屋へ買いに行ったというわけだ。
 
文庫で上、中、下巻の構成になっているが、まずは上巻だけ購入したため、次が読みたくてたまらなくなり、読み終わったら本屋へ走っていた。
 
イランで生まれた顔立ちの整った主人公には、まったく逆の容姿で、あまりにもエキセントリックで強烈すぎる姉がいる。
この姉が家族をふりまわし、家族がボロボロになりながらも姉とかかわることでそれぞれが変化していく形が、どの年代の人が読んでも共感できるのではないかと思う。
 
試しに母に貸したところ
「めちゃくちゃ面白かったから、近所の友達にも貸した!」
と喜んでいた。
 
「面白そう」と、好奇心を一瞬でも持っていかれたのなら、媒体に関係なく、読みたいと思ったら読めばいい。
薦められなければ存在を知らなかった本である。
知ったことで、その本との出会いが自分のなかのなにかを変えるきっかけになるかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年12月ライティング・ゼミに参加。2022年4月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
1000冊の漫画を持つ漫画好きな会社員。

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2023-06-14 | Posted in 週刊READING LIFE vol.220

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