週刊READING LIFE vol.223

これからやってくるAIの時代に必要な「身体性」について《週刊READING LIFE Vol.223 AI時代に、私たちは何を書く?》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/7/10/公開
記事:大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「これからはAIの時代だ」
最近よく聞く話かもしれない。2023年の11月にchatGPTが公開されてから、その流れは一気に加速し、多くの雑誌で取り上げられ、NHKでもchatGPTの番組が放送されたくらいだ。今までは「AIの時代だ」と言われてもそこまで大きな変化はないだろうと呑気に構えていたが、今回のこのインパクトはこれまでのそれとは段違いにすごい。
 
まず何よりその知識の広さだ。AIはデータセットと言われるAIが学習した元ネタがある。そのデータセットが想像以上に膨大で、世界中の知識人の脳みそを一つにしても追いつかないくらいの知識がある。僕は理学療法士として病院で入院している人のリハビリを担当していたことがある。その時によく聞いていた新人の理学療法士の悩みが「リハビリのプログラムを組み立てられない」というものだった。リハビリのプログラムはただ歩いたり
、筋肉をつけたりというだけでなく、患者さんそれぞれの病気の状況や、身体機能の違い、精神状態や、自宅環境など様々な要素をもとに一人一人オーダーメイドで作成してくいく。もちろんある程度はフォーマット化されているが、細かい調整は多くの知識が必要でさらにこれまでの経験が必要となる。だから新人療法士には難しいのだ。
 
しかし、このchatGPTというAIに
 
「〇〇という病気で、現状はこうで、退院してからの目標はこれで、3ヶ月で退院するためのリハビリプログラムを立案してください」
 
と聞いてみると見事なプログラムを立案してくれる。これで新人とベテランの知識の差はほぼ埋まってしまう。さらにAIのいいところは作成されたプログラムに偏りがないのだ。ベテランになるとその人がそれまで学んできたことが人によって様々なので、どうしても学んだ部分を強く反映させたプログラムになる。AIはほぼ全てを学んでいるので偏りがなくなる。
しかもこのAIの優れた部分は足りない情報があると「プログラムを立案するのにこれと、これの情報をください」と聞いてくるのだ。ほぼ人と対話しているような感じになるので、言うなれば隣にベテラン療法士がいてくれながら臨床ができるということになる。これは新人療法士にとっても患者さんにとってもいいことでしかない。
 
ただそれでもベテラン療法士の優位性はおそらく変わらないだろう。AIの登場によって知識的には差がなくなってくる。しかし、その知識を実際に目の前の患者さんに生かすのはAIではなく、療法士自身だ。知識を活かすには自身の身体を使って実行しなければならない。その身体を使って実行する経験が新人とベテランでは段違いなのだ。実はこの身体を使って実行する、要は「身体性」がこれからのAI時代にとても重要なことだ。
 
AIは身体で例えるならやはり「脳」だろう。多くの情報を蓄へ、それをもとに考え、戦略を立てる。では蓄えるための情報を収集する、立てた戦略を実行するのはどこだろう。情報を収集するのは目や耳、鼻、口、皮膚などの身体だ。そして実行するのも関節や筋肉、内臓などの身体だ。AIが考え出したものは確かに素晴らしいのだが、その考えに至るために必要な情報収集や作成された戦略を実行するのに身体性が必要なのだ。
 
そしてこの身体性は実践経験が必要だ。新人療法士とベテラン療法士では同じように関節を曲げ伸ばししているだけでもそこから得られる情報は全く違う。例えば膝の関節を曲げ伸ばしした時に、新人の療法士なら曲がる角度や抵抗感を感じる程度なのに対し、ベテランの療法士はまず関節を曲げるために持つ手の位置から考え、どの方向に動かすことでより関節の生理的な動きの方向かを吟味し、その上で関節の動きに制限があった場合、その制限の因子が関節自体なのか、筋肉なのか、関節を包んでいる関節包なのか、関節を繋いでいる靭帯なのか、そもそも身体自体を包んでいる皮膚の影響なのかを感じ取っていく。
 
同じ関節を動かすということ一つでもこれだけ違う、そしてその感じた情報をもとにまた脳で戦略を立てて、身体で実行する。
これが身体性の本質であり、それを経験として蓄積していくことが理学療法士としての成熟につながる。これがまさに、僕たちの職業で求められるスキルの一つなのだ。
 
では、AI全盛の時代に身体性がなぜ必要なのかというと、僕ら人間が生活する世界はAIが想定できる範囲を遥かに超えて複雑であるからだ。身体性を持つことで、その複雑さを直感的に理解し、そこで起きる問題に対応できるようになる。たとえば、僕ら理学療法士は、患者さんの身体を触れ、視覚的な情報を収集するだけでなく、筋肉の緊張や関節の動きといった微細な変化を感じ取ることができる。これは文字や数値で表せる情報とは違い、直接身体を通じて得られる情報で、その全てをAIに伝えることは不可能である。
 
さらに、私たちは患者さんの感情や精神的な状態も観察し、それを治療に取り入れる。例えば、患者さんが痛みを感じているとき、その痛みは単なる物理的な刺激だけでなく、不安や恐怖といった感情が関連している場合もある。そうした微妙な感情の変化を読み取り、それに応じた適切な対応をするためには、僕ら自身が身体性を持つことが不可欠なのだ。
 
そして、最も重要なことは、この身体性を通じて得られる情報や経験が自分自身の学びや成長につながるという点だ。知識を身につけ、それを実行する過程で、僕らは自分自身の身体をより深く理解し、それを自己成長につなげることができる。僕らが自分の身体を自分でコントロールする能力を持つことは、自己啓発、自己理解、そして自己実現に直結している。
 
AIが急速に進化し、僕らの生活に深く浸透していく中で、身体性という人間固有の要素は、これからも重要な役割を果たし続けるだろう。僕らは、AIが持つ広大な知識を活用しつつ、自身の身体性を理解し、それを使って実世界で活動する能力を高めていくことが求められる。AIは道具であり、その使い方を決めるのは僕たち自身だ。そしてその使い方を決める上で最も重要なのは、自分自身の身体を理解し、それをコントロールする力、つまり身体性なのだ。これからのAI時代に向けて、僕らは自己の身体性を深く理解し、それを磨き続けることが求められる。
 
身体性は、自分自身がどのように世界を認識し、その中でどのように行動するかに大きな影響を与える。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚は、外界を理解するための情報を取得し、知識や経験と結びついて、行動や意思決定を導いている。また、身体がどのように動くか、どのように感じるかは、自分自身をどのように認識し、その中でどのように自己を定義するかに大きく関わっている。そしてこの自分自身をどう認識しているかを定義することで、自分以外、つまり他者をどう認識しているかも決定されてくる。
 
これからの時代には、僕ら一人ひとりが自身の身体性を深く理解し、それを活かしてより良い社会を形成していくことが求められる。私たちは自身の身体性を使って実世界で行動し、AIを活用して知識と技術を拡張し、それらを通じて自己を理解し、他者と共感し、共により良い社会を形成していく。これが、AI時代の私たちが求められる姿かもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
大塚久(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

神奈川県藤沢市出身。理学療法士。2002年に理学療法士免許を取得後、一般病院に3年、整形外科クリニックに7年勤務する。その傍ら、介護保険施設、デイサービス、訪問看護ステーションなどのリハビリに従事。下は3歳から上は107歳まで、のべ40,000人のリハビリを担当する。その後2015年に起業し、整体、パーソナルトレーニング、ワークショップ、ウォーキングレッスンを提供。1日平均10,000歩以上歩くことを継続し、リハビリで得た知識と、実際に自分が歩いて得た実践を融合して、「100歳まで歩けるカラダ習慣」をコンセプトに「歩くことで人生が変わるクリエイティブウォーキング」を提供している。

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2023-07-05 | Posted in 週刊READING LIFE vol.223

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