週刊READING LIFE vol.234

北海道での劇的すぎる試合《週刊READING LIFE Vol.234 まさかこんなことが!》

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2023/10/2/公開
記事:山田 隆志(週刊READING LIFEライターズ倶楽部)
 
 
久しぶりに家族で夕食を取っているとき、唐突に母はつぶやいた。
 
「今年は家族で旅行に行きたいねえ」
 
最近の両親はなぜか旅行に対してアグレッシブである。父は78歳、母は73歳とれっきとした高齢者となっている。特に最近の父の弱りようはやはり心配になってくる。コロナになる前に、家族全員で台湾旅行に行ったばかりだというのに、体調面に不安はないのか?心配しているのは私と妹だけなのか。
 
「来年には北海道に行こうかしら」
 
「ん? 今なんと仰った?」
 
正直なところ、45歳を過ぎた私が両親と旅行はあまり気が進まない。千葉に住んでいる両親が行きたがる旅行は伊豆か箱根が定番だ。もちろん両方とも旅行スポットとしては申し分ない。しかし、この二つでは私の心は動かない。私が住む静岡県三島市からは1時間もかからない。どうせ私の家に押しかけてくるのだろう。マジで勘弁してくれ。
 
冷めたように見ていた母の旅行の提案でも、北海道というフレーズが出てくるとは正直思わなかった。自分でも目の色が変わるのが分かった。
 
北海道ならどこに行くのだ。札幌の時計台か、旭川の旭山動物園か、それとも函館か。もう何でもよい、どこでも付き合うぞといつの間にか私もかなり前のめりになっている。
 
今年、北海道に行くならどうしても訪れたいスポットがある。日本ハムファイターズの新スタジアム「エスコンフィールド北海道」だ。来年では(日本ハムの監督である)新庄がいるかわからんぞ。今年は何としても北海道に行くぞ!!
 
余生を楽しむ両親の提案のはずがいつの間にか私が前のめりになり、強引にエスコンフィールドで開催される「日本ハムファイターズVSソフトバンクホークス」のチケット4枚入手した。

 

 

 

日本ハムファイターズは昨年新庄剛志を新監督に迎え、「BIGBOSS」として話題をさらった。成績こそ最下位に終わってしまったが、人気も話題性も十分であり、若手中心の日本ハムファイターズも最下位ながらも躍動していた。
 
あの新庄剛志がBIGBOSSとして日本ハムファイターズを率いるのも話題性十分だが、今年になると更なるサプライズが待っていた。完全天然芝の全天候型スタジアム「エスコンフィールド」が北海道北広島市に誕生した。
 
これまでも日本ハムファイターズの本拠地として札幌ドームという立派なスタジアムを持っていた。日本ハムファイターズが2004年に東京ドームから札幌に移転し、3度の日本一に輝く北の強豪球団に生まれ変わり、札幌ドームとの関係は良好に思えた。
 
しかし、日本ハムファイターズにとって札幌ドームで戦い続けることでは将来がないと考えていた。札幌ドームはもともと2002年の日韓ワールドカップのために建設されたサッカーのために作られたスタジアムであり、野球をするには不向きで選手のけがのリスクが潜んでいた。さらに問題となるのは年間の使用料が13億円という決して安くない金額を払い続けていたことだ。
 
日本ハムファイターズが北海道に根差した魅力ある球団に生まれ変わるには、自前でのスタジアムを持つしかない。2023年にエスコンフィールドが誕生し、同年3月30日「日本ハムファイターズVS楽天イーグルス」のパリーグ開幕戦が行われた。
 
日本ハムファイターズの本拠地であるエスコンフィールドは、世界最高峰のスタジアムという触れ込みである。アメリカ大リーグのボールパークでの魅力をふんだんに取り入れ、札幌ドームをはじめとした日本のスタジアムでの「残念なところ」を徹底的に改善したと言われている。
 
実際に日本ハムファイターズの試合をテレビで何度か拝見したが、グラウンドの天然芝が鮮やかであり、日本ハムファイターズの観客の熱気もテレビ越しからビンビンと伝わってくる。
 
遠く離れた北海道にある世界最高峰のスタジアムに訪れるまたとないチャンスがめぐってきたわけだ。

 

 

 

敬老の日を絡めた9月の3連休、父と母、1歳下の妹の4人で北海道の地に降り立った。70歳を超えた両親は間違いなく老人だ。両親を敬うと言いながら、ほぼ強引に北海道旅行を計画し、間違いなく私が一番この日を楽しみにしていただろう。
 
新千歳空港から札幌に向かうちょうど真ん中に北広島市のエスコンフィールドが建っている。9月16日18時試合開始だが12時前には新千歳空港に到着していた。試合開始まで時間はたっぷりあるが、私たち家族は真っ先にエスコンフィールドに向かうことで一致していた。
 
実物で見たエスコンフィールドを目の前にすると、その佇まいに思わず声を失った。神社などの歴史的建造物や雄大な大自然をパワースポットとする人もたくさんいるが、私たち家族はエスコンフィールドをパワースポットとして崇めた。
 
全面ガラス張りで三角屋根の特徴的な建物であり、屋根付きスタジアムと言えば東京ドームや札幌ドームを代表する円形のドームがたスタジアムが常識だと思っていた。それがまさかの三角屋根のスタジアムを実際に目にすると、そのフォルムにくぎ付けになった。
 
エスコンフィールドは試合前でもスタジアムを開放している。フィールドはもちろん天然芝の青さに目を奪われるぐらい素晴らしいのだが、このスタジアムはフィールド以外のファンサービスもかなり充実している。まずはスタジアムグルメという飲食が圧巻であり、ウニ・イクラといった海産物、札幌や旭川といったラーメン、帯広名物である豚丼といった北海道グルメが充実しており、そこにあるものを全部食べたくなるぐらいだ。さらには、その場でバーベキューができるぐらいの肉料理を用意している。日本ハムという大手食品メーカーが本気を出すとここまですごいものが出てくるのかと感心させられた。
 
さらには球場内にはホテルやサウナも併設されており、くつろぎながら野球観戦も可能だ。サウナを楽しみながら生の野球観戦ができるなんてまさにやりたい放題、野球観戦でやりたいことを全て実現させているようだ。
 
到着してから試合開始まで5時間ぐらいあったが、食事をしてグッズを購入してスタジアムを隅から隅まで歩き回っているうちにあっという間に時間が過ぎ去っていった。

 

 

 

18時プレイボール、日本ハムファイターズとソフトバンクホークスの試合が始まった。9月16日時点でオリックスバファローズが3連覇はほぼ間違いないだろう。日本ハムファイターズは残念ながら最下位に沈んでいるが、新庄剛志監督就任後から選手は着実に力をつけている。対するソフトバンクホークスは4位と低迷しているが紛れもない最強チームだ。優勝争いから脱落している両チームだが、間違いなく好ゲームになる予感がした。
 
私たちの座席は1塁側の3階席だ。チケットを予約したのは4月に北海道旅行の話題が出たばかりのころだが、人気のバックネット裏や1階2階席はすでに売り切れていた。なんのけなしに購入した席のはずだが、日本ハムファイターズの私設応援団がいる席だった。3階席にも関わらずフィールドまでの距離が近く、選手の顔までしっかり見ることができた。
 
1回裏日本ハムファイターズの攻撃、先頭バッターは万波中正選手、いきなり先頭打者ホームランが飛び出した。スタジアムにいる9割以上の日本ハムファイターズファンの盛り上がりは最高潮だ。試合開始直後から日本ハムファイターズのファンの熱気に押されて、私たちも声がかれるほどの声援を万波選手に浴びせた。
 
そのあとが続かない。日本ハムファイターズも何度かランナーを塁に進めることができるがとにかく一点が遠い。一方で先発の加藤投手の奮闘でソフトバンクホークスの反撃を許さず0点に抑えた。
 
4回裏日本ハムファイターズの前に、なぜかスタジアム内のボルテージが上がる。ファイターズガールが頭に変な動物の耳をつけて、奇抜な踊りを始めた。それに合わせて観客たちも変な耳をつけて踊りだす。これこそがファイターズ名物の「キツネダンス」だ。
 
しかし、キツネダンスの盛り上がりに反して日本ハムファイターズの打線は沈黙し、続く5回表ソフトバンクホークスの攻撃ついに同点に追いつかれる。
 
その後はお互いの投手陣が奮闘しスコアボードに0が並ぶ。8回裏が始まる前、またしてもファイターズガールが登場する。今度は円盤らしきものを2枚持ってこれまた楽しそうな歌が流れて踊っている。「ウッハーウッハ―(中略)ジンジンジンギスカーン」これは、小学校の時からなぜかよく歌っていた北海道ゆかりの曲である「ジンギスカン」である。ファイターズガールが持っている二つの円盤というは、これまた北海道名物であるジンギスカン鍋をタンバリンのように叩いて楽しそうに踊りあかすのである。その「ジンギスカン鍋」を私も事前に二つ購入しており、周りのファイターズファンと同様に踊りまくっていた。もう45歳だというのに何をやっているのだろうか。オーロラビジョンに映らなくてホントによかった。
 
「ジンギスカンダンス」で球場内が派手に盛り上がった後、日本ハムファイターズが1アウト満塁のチャンスを迎え、スタジアム内のボルテージも最高潮を迎える。チャンスを迎えるたびにジンギスカン鍋を叩き声がかれるまで応援し続けたが、やはり1点が遠い。
 
最終回のソフトバンクの攻撃を無失点で切り抜けた後、日本ハムファイターズの攻撃を迎える。相手は抑えの切り札のオスナ選手を出してきた。この時点で25セーブを挙げており、ソフトバンクの絶対的な守護神だ。同点で出てくるぐらいなので、日本ハムの勝利をあきらめてしまっていた。
 
日本ハムの攻撃はランナーを一人置いて万波選手が打席に立つ。とにかく、周りのファイターズファンの声援につられる形で万波選手に声援を送る。
 
延長戦も覚悟したが、万波選手がセンターに特大のホームランを放ち日本ハムはサヨナラ勝ちを収めた。
 
この瞬間、まるで優勝したかのようなバカ騒ぎとなり、観客は総立ちとなった。
 
このまま余韻に浸りながら、エスコンフィールドを後にした。
 
スタジアムに向かって深々とお辞儀をしながら車に乗り込んだのであった
 
 
 
 

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2023-09-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.234

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