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老舗料亭3代目が伝える 50までに覚えておきたい味

第20章 食べない楽しみ《老舗料亭3代目が伝える50までに覚えておきたい味》


2022/03/28/公開
記事:ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
食べることが大事、というのであればそれと同様に、食べないことも大事なのです。
 
朝起きてお腹が空いているから朝ごはんが美味しく食べられます。お腹が空いているからこそ食事は美味しくいただけるわけで、お腹が空いていない時に食べるのは、どんなご馳走であれ拷問でしかない。それほどまでに空腹は、食の美味しさ、有り難さを土台から支えてくれているものであります。
 
しかし同時に、忙しくて食べられない時間が続いて空腹になると、元気がなくなるばかりかやる気もなくなります。度が過ぎると不機嫌になって、周りの人たちに嫌なエネルギーを撒き散らしてしまいます。日本ではさすがに空腹や飢餓で死んでしまうとはあまり考えられないことですが、アフリカやアジアの国ではそんなことも日常茶飯事に起こっています。(ちなみに日本でも7人に1人の子供が貧困と言われています(日本経済新聞オンライン2020年7月17日版より))
 
そんなことに想いを馳せると、いかに毎日食べられることが当たり前のことではないのか、そして私たちがものすごく運がよく、恵まれているのかということに気付かされます。毎日食べられることは決して当然のことではなく、普通に食べることができる社会を作ってくださる政治や経済にも感謝したくなりますし、また食の生産の現場に携わる方たちにも頭が下がります。
 
当たり前のことですが、食は楽しみ、心を潤すものであると同時に、命を繋ぐ最大最強のツールでもあります。
食べられることに感謝し、そしてより楽しむためにも、食べない時間にちょっと想いを馳せてみたいと思います。
 
 

朝ご飯食べる派?食べない派?


「朝ごはんを食べないと一日の活力が出ない」と、朝からたくさん召し上がる方がいらっしゃいます。また反対に「朝はなんとなく食欲がないので、食べない」とおっしゃる方も多い。どちらが良い、悪い、を論じたい訳ではなく、そもそもなんで朝ごはんなのか、ということをちょっと考えたい。
 
ちなみに私は朝ごはんは「食べない派」。別にダイエットをしているわけでもなんでもありませんが、気がついたらそういうルーティンになっていました。我が家は料理屋の家でしたので、とにかく食べてなんぼ、食べさせてなんぼ。朝ごはんを食べながら昼ごはんの話をし、昼ごはんを食べながら晩ごはんの話をし、晩ごはんを食べながら翌日の朝ごはんについての話をするような家でしたから、常に食べることが当たり前、食べない、なんていう選択肢は1ミリもありませんでした。
 
食べ方を大きく変えたのは、自分自身の体調不良に向き合った時です。私の場合は不妊でしたが、その時本格的に体質を変えようと、これまでに食べてきた食べ物だけでなく、食べ方も一切合切変えることとなりました。
一般的に病気、それも慢性病、生活習慣病、アレルギー、原因不明の何か、みたいな病気のときは、何かを自分に知らせてくれるサインであるといいます。つまり、これまでにやってきた習慣や思考が、間違った方向にいっていますよ、それを正しい方向にもっていきなさいね、という、天からの声だといいます。そこで私はこれまで全く疑うことのなかった食べ物、食べ方を根底から見直し、覆す機会を得たのでした。
 
 

食べ方の当たり前を変える


それまで食事は「時間がきたら食べるもの」でした。
お腹が空いていようといまいと、時間がきたら食べる。
一般常識のある社会人が、例えば会社のデスクで、朝の10時にお弁当を食べていたらおかしいですし、また夜の3時4時にステーキを食べていたらびっくりします。人が社会で生きていく上で、食べる時間というのは社会性を保つためにとても大事な要素です。そのため人は、時間がきたらとりあえず食べるということを、全く疑うことなく行っているのです。
 
 
私たちはとてもたくさんの固定概念や、一般社会通念に縛られています。
例えば、一日三食食べることについて。これが当たり前とされている社会ではありますが、本当にこれは当たり前で、万人に当てはまることなのでしょうか。人によって少食の人もいれば、大食漢の人もいる。生活リズムが昼型、夜型、いろいろあります。食べたくても食べ物へのアクセスが容易な人もいれば、難しい人もいる。なのに誰しもが一日三食食べることをよしとする事自体、そもそも無理があると思いませんか。
 
お腹が空いていなければ、食べなくていい。
 
こう言ってみれば当たり前のことですが、食べなきゃいいんです、お腹が空いていなければ。私たちはよく、お腹が空いていなくても食べることがあります。「今食べておかないと、あとでお腹が空いたらいけないから」「せっかく作ってくれているのに、食べないと申し訳ない」「残したら勿体無いから、ちょっと無理して食べておこう」「上司の手前、食べないわけにいかない」などなど。人はいろんな理由をこねくり回し食べたくないのに食べることを選びます。
 
いやいや、食べたくないなら、食べなくていいんです。
 
お腹が空いていないのであれば、本来食べる必要はありません。動物としてごく当たり前のことではありますが、私たちは往々にして無理をし、なんとなく食べ続けてしまうのです。なんとなく食べ続けてしまっているからそれが惰性となり、当たり前になってしまう。その結果何が起こっているかというと、スポーツジムが大流行り。空前の筋トレブームと食べすぎている日本人は、あながち無関係ではありません。
 
また、よくある当たり前として、「バランス良く食べる」です。お肉もお魚もお野菜も、豆腐も豆も海藻も、いろんなものをバランス良くとることによって、人は健康になれる、という当たり前です。
確かに、毎日お肉しか食べなかったら。毎日野菜しか食べなかったら。考えただけで難しそうではありますが、それは偏っているな、と誰もが思います。以前イギリスで、生まれてから毎日お砂糖のついたコーンフレークしか食べない、と言う子が病気で倒れた、というようなニュースがありましたが、確かに単一のものを食べ続けるのはパンダやコアラでもない限り、不健康になりそうです。
 
とはいえ、その反面、どのぐらいのバラエティが必要なのでしょう?
 
日本人は食に貪欲で、なんでも食べる国民です。
朝ごはんはパンとコーヒー、昼ごはんにスパゲティ、晩ごはんに酢豚定食、と聞いて、別段変わったところはない、普通の食の日常に聞こえますが、これは世界的に考えるとものすごくレアなことです。
 
そもそも朝ごはんにパンかご飯か、という和洋の選択肢があるのも、世界ひろしといえども日本だけ。ホテルや特別な場所では提供されることはありますが、家庭のご飯という観点からいえば、中国の方は中華料理だし、インドの方はインド料理。イギリス人も英国料理を朝昼晩に召し上がります。
 
しかし日本人はどうでしょう。
そば、寿司、天ぷら、和食も充実していて、イタリアン、フレンチ、アメリカンと西洋の食べ物も身近です。また中華やタイ、韓国など、アジアの食も当たり前にあります。いろいろなバリエーションがあることが当たり前すぎて、もはや疑問にも思わないほど。しかしこれは国際的に見ても、かなり異常な状態です。
 
これほどのバラエティで食べることが当たり前になっている日本人ですから、「バランス良くいろいろ食べる」となったときに、大袈裟に考えすぎてしまいます。今の自分の食べ方では足りない、栄養が足りない、だからもっと食べなければならないと、なぜか思ってしまうのです。
 
その結果何が起こっているかというと、サプリメントや健康食品が大流行り。足りていないから補わなきゃ、と、簡単に栄養がとれそうなものに、手を出していくのです。
 
これらが悪いとは、もちろん申し上げません。
健康上、必要な方もたくさんいらっしゃるかと思います。
しかし、そもそものところで考えたい。私たちは本当に「足りていない」のでしょうか。
 
毎年、75%の食糧を海外から輸入していて、かつ、1/3の食べ物を廃棄しているのが日本の現状です。食は飽和し、余っているという現状があるのに、個人ベースでは何かが足りないことになっているのか、そこにはいろんな事情があるのでしょうけれど、私には不思議にうつるのです。
 
私たちは、足りてます。それも、余るほど。
 
それをまず自覚した上で、本当は何が多いのか、もしくは何か足りないものがあるのかを、自分が感じられるようでありたいと思います。
 
 

積極的ファスティングのススメ


断食のことを、ファスティングといいます。文字通り食を断つこと、つまり食べないことをさしています。朝ごはんを英語ではBREAKFASTといいます。このFASTというのがまさに断食のことで、断食を破る食事だからこそ、ブレックファーストと呼ばれています。
 
ファスティングを取り入れている宗教は多いです。一番有名なのはイスラム教徒のラマダンでしょうか。一年のうちの約1ヶ月ほどが、ラマダンの期間とされています。
この期間、完全に何も食べないわけではなく、日没から日の出までの間に必要なものを食べ、後の時間は食べないようにする、というものです。
ラマダンを行うことによって、飢えた人たちへの共感を育み、また苦しい体験を仲間と分かち合うことによって、民族同士の連帯感を強くする役割もあります。空腹という体験を通して、感謝や愛の気持ちを養う大切な機会となっているのです。
 
日本でも古くから仏教徒は、断食をすることがありました。あくまで修行の一貫ですが、食べないことで精神統一を促し、また自分の霊性を高めるというような、宗教的な効果があるとされています。
 
人はファスティングを行うことで、何やら大きな、精神的価値を手に入れることができるのかもしれません。
 
さすがに現代社会で修行としてのファスティングを行う人は少数派ですが、反対にダイエット目的でファスティングをする人たちが増えました。その方法はいろいろで、酵素ドリンクを飲んだり、味噌汁だけでやったり、葛練りをつかったりするものもあれば、全く食べずに水だけにしたりと、期間も方法もいろいろで、お試ししやすくなっています。
 
私もつい先日、1ヶ月かけてファスティングを行いました。いわゆる酵素ドリンクを飲む方法です。1ヶ月間毎日ドリンクだけというものではなく、日によっては通常食を食べることもできるし、半断食の日、ヘルシーメニューの日といろいろな食べ方の組み合わせを1ヶ月続けることによって、無理なくリバウンドすることなくファスティングを行うというものでした。正しい指導のもと安全に、かつ順調に行うことができたのですが、大きな気づきがいくつもありました。
 
まず、一つ目。
 
「何を食べよう?」と考える時間が、とにかく豊かであるということです。
 
この期間、全く食べることを考えずに過ごしました。食べたいものを思い描いたりすること自体が拷問ですので、なるべく考えないようにしていたのですが、それが何よりつまらなく、辛い体験となりました。
人はいかに、食べ物のことを考えてワクワクできるのか!という、大きな気づきとなりました。たしかに食べかた研究家である私が食べ物のことを考えないのですから、それは商売道具をもぎ取られた商人のようです。食べられないことの辛さより、食べることを考えられられないことの辛さを死ぬほど体験させられました。
 
そして二つ目、食と人とはセットでやってくるということです。
 
誰かとご飯を食べにいくということが、これほどまでに貴重で有難いことかと大きく気付かされることとなりました。食べなくても人と会うことはできますが、それだけではやはり、なんとなく、つまらない。人は人と食べる時間を共有することにより、交流してお互いを理解しあうのです。期間中数日キープしていた通常食の日は全て、人とご飯を食べにいく予定の日でした。おかげさまでその数日の会食は、これまでの人生のなかでも歴史に残る、感動的な時間となりました。
 
そして三つ目。美味しいことは、素晴らしい。
 
野菜でもお肉でもお魚でも、それぞれが持つ素材の味はもちろん、作り手のエスプリが加わって「料理」として供されたとき、その味が与える感動の大きさに、改めて心が震えました。こんなに美味しいものを食べさせていただいてありがとう。こんな食材に出会わせてくれてありがとう、と、感謝の気持ちが溢れ出ます。
人は生きているからこそ食べられる。食べられるからこそ、生きている。
当たり前のことではありますが、日々食べることができる今の自分の環境に、とにかく感謝の気持ちしか湧きません。
 
食べない時間は、食べる時間を何倍にも豊かにします。
食べる時間を豊かにするだけでなく、自分自身の心までをもしっかり満たしてくれるのです。
 
数キロの体重と引き換えにそれらが得られるのだとしたら、安い買い物ではないでしょうか。
 
グルメグルメに食べることだけを追い求めるのは40代まで。これからは食べない時間もぜひ、慈しんでおくれやす。
 
 
《第21章につづく》
 
 

□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

READING LIFE編集部公認ライター、経営軍師、食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。一般社団法人食べるトレーニングキッズアカデミー協会の創始者。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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