老舗料亭3代目が伝える 50までに覚えておきたい味

第21章 毎日飲んでいるにもかかわらず無意識で選んでいるお水の選び方《老舗料亭3代目が伝える50までに覚えておきたい味》


2022/05/02/公開
記事:ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
普段意識しているようでしておらず、しかしながら生命維持のためにもっとも大事な食材があります。それは、お水です。
 
人の体は7割が水でできているとも言われます。また料理をする時には必ず水を使いますし、また水を使わないと農業もできません。とにかく何をするにも必ず使われるのが水ですし、日常的にも、一人1日あたり2リットル以上のお水を飲むことが健康的だと推奨されています。
 
それほど大切な食材である水なのですが、そこに注意を払ってこだわりを持つ人は、あまり多くはないのかもしれません。
だからこそ今日は、ちょっとお水について、こだわってみたいのです。
 
 

飲む?飲まない?水道水


世界広しといえど、水道水を安全に飲める国はそう多くはありません。日本は水が比較的綺麗で浄水システムも発達しているので、水道水を安全に飲める貴重な国の一つです。
 
みなさんは、水道水をそのまま飲まれますか。
 
全く気にせず飲まれる方も多いと思います。またそのままでは飲料水にはしないけれど、一度沸かしてカルキ成分を飛ばして飲むという方もいれば、浄水器を取り付けていらっしゃる方も多い。いずれにせよ基本的には、日本のお水は綺麗で飲料水に適していると捉えられています。
 
水道水と一言で言っても、実は水源がエリアによって違うので、お水の味自体は全くの別物になります。
 
例えば熊本県の阿蘇山脈近郊とか、大分県日田市とか、南アルプス付近とか、そもそもの水質がよいといわれるところと、そうではない大都市近郊とかだと味の差は明確です。またエリアによっては貴重な湧水が水道から出ることがあり、とにかく一般的な水道水とは一線を隔する特別感を持つこともあります。
 
さまざまな水道水が存在しますが、唯一同じなのはお水に少量の塩素が添加されているということです。これは消毒目的で行っているので、この匂いや味が気になる方が、水道水を飲まないとおっしゃることは多いです。
 
またアメリカなどの外国諸国では、フッ素が添加されていることもあります。フッ素は虫歯を防ぐ成分として使われており、それを水に添加することで虫歯を減らそうという意図があるといいますが、フッ素の効果についてはまだよくわかっていないのが現状です。
 
また水道水を飲む時に、浄水器を使う家庭も少なくありません。据付タイプ、蛇口取り付けタイプ、ポットタイプといろいろあり、値段や品質もさまざまです。浄水器ではゴミや匂い、重金属などの不要な成分を取り除き、お水が持つ本来の味を引き出してくれるといわれています。また、ただ浄水するだけでなく、炭酸水を作ったり、アルカリイオン水を作ったり、水素水を作ったりと、多岐に渡る機能がついている浄水器もあります。また値段も数万円から数十万円までとバラバラ。浄水器によってはフィルターの交換が必要となるので、その分ランニングコストもかかります。
しかしお水は毎日飲むもの。いくら高額の浄水器でも日割計算したらたいしたことはないと考える方も多く、高額な浄水器の設置も一般的になってきました。
 
 

お水は買うもの


水道水ではなく、ペットボトルやウォーターサーバーのお水を買うという方も多いでしょう。ウォーターサーバーは浄水器ではないのでフィルター交換などの手間や費用がかかることがなく、物によってはサブスク形式で定期的に配達もしてくれるので、買いにいく必要もありません。サーバーマシンが熱湯にも対応しているのなら、お湯を別途沸かす必要もないので、お茶を入れる際の手間暇を減らすことができます。
 
家の中で場所をとるウォーターサーバーは置きたくないけれど、お水は買いたいという方が買うのがペットボトルです。主にスーパーやコンビニ、酒屋やキオスクはもちろん、オンラインでも購入することができます。特にコンビニで気軽に変えてしまう現状から、多くの人が手軽に手に取り、日常的に飲まれているかと思います。
 
しかし水を買うという文化は、日本ではそんなに古いものではありません。日本では水道水のクオリティが高いので、買ってまで飲むものなのかとご年配の世代は感じるかもしれません。反対にヨーロッパ諸国では水道水の質が飲料水にあまり向いていないため、お水を購入することは当たり前になっており、フランスに至ってはお水がワインよりも安い場合もあります。
 
このように手軽なペットボトルのお水ですが、最近ではエコブームも手伝って、敬遠されることも増えてきました。ペットボトルのゴミを膨大に生み出してしまう習慣に対して、世間の目がいくようになってきたので、マイボトルに浄水を入れて持ち歩く人も増えてきました。日本ではこのような人はいわゆる「意識高い系」と見られますが、環境や資源に対しての意識が進んでいる欧米では、むしろ当たり前の傾向として受け入れられています。
 
 
どこでどんなお水を選ぶのかには、その人の嗜好のみならず、その人の、人との関わり方や社会との関わり方をうつすものでもあります。
 
 

朝は一杯のお白湯から


毎日の習慣のなかには、やはり自分を健康に保つためのルーティンを入れておきたい。そこでおすすめしたいのが朝一杯の白湯です。沸かしたお湯を飲むだけ、といわれますが、実は少しこだわりの沸かし方があります。
 
まず土鍋や琺瑯のような鍋に水を入れて、そのまま強火で沸騰させます。
そして沸騰したら蓋を開け、ぐつぐつとお湯が沸騰している状態を15分ほどキープします。これは確実に塩素を抜くために行います。そのため水をお鍋に多めに入れておかないと、出来上がる頃には水が蒸発してなくなってしまいます。
 
15分経ったら火を止め、コップに注いで少しずつちびちびといただきます。
 
そうすることで内臓が温まり、血流もよくなります。するとさらに皮膚も綺麗になるし、デトックスも促進します。
 
たったこれだけなのに得られる効果が多いので、私もかれこれ1年以上習慣として毎朝行うルーティンに入っています。
 
 

和食を食べるなら絶対に関西


私が京都人だからといって関西を贔屓にしているわけではなく、純粋に本格的な和食を楽しみたいのであれば、絶対に関西です。なぜなら料理に使われる水の質が、関西のお水の方が圧倒的に和食に向いているからです。
 
関東の和食は、醤油がしっかり効いた濃いめの味付けが中心で、とくにうどんや蕎麦などの汁物は、その汁の色が濃すぎて関西人にとっては美味しく感じられません。
一方関西の和食は出汁の味をしっかりと利かすのが関西風で、出汁の色が濃くならないように薄口醤油を使うこだわりがあります。そのため醤油味がきつすぎず、ふんわりとした出汁の風味をとことん味わうことができます。
 
なぜこれほどまでに好まれる味が違うのかというと、味付けの好みが違うからというわけではなく、単純に水が違うからです。
 
関西のお水は関東のお水に比べて軟水(ミネラル成分が少なめ)なので、とにかくお出汁がよく出ます。ふんわりと旨味を引き出すので、味付けがデリケートな和食に向いているのです。
 
とある京都の料理屋で、東京に支店を出しているお店では、水を毎日京都から東京まで運んできているといいます。そうしないと微妙な味が出せないわけで、このこだわりぶりには頭が下がります。
 
プロの料理人はもちろん味の差を感じやすいかもしれませんが、そう感じるのはプロだけでなく、素人でも同じです。
同じように料理をしても、関西で作るのと関東で作るのでは、関西で作るときのほうが美味しく仕上がります。関西で作るとそれだけで、料理の腕が2割増ししてしまうのです。
 
そこには水という、影の主役の存在があります。
 
水、とだけ材料に書いてあれば、その水がどんな水かはあまり気にされることがありませんが、料理に使うと一目瞭然です。イタリアンやフレンチなどの洋風の調理法や、また韓国料理やアジア料理などさまざまな素材や調味料の混ぜ合わせを楽しむのであれば、さほど水の違いは気になりませんが、薄味で繊細な素材の、微妙な味を楽しみたいのであれば、とにかくミネラルの少ない軟水がおすすめです。これは関東では水道から出る水では軟水が手に入らないので、その場合は軟水のミネラルウォーターを買うということになります。
 
 

美味しい紅茶の基本は硬水


料理があまり美味しく仕上がらないのが硬水の難点ですが、実は大きなメリットもあります。それは紅茶を飲む時です。紅茶を作るのであれば軟水よりも硬水が向いていて、なぜなら硬水で作った紅茶ではしっかりと茶葉の味を楽しむことができるからです。
 
世界中で一番飲まれている飲料はお茶ですが、その中でも紅茶を飲むのはイギリスをはじめヨーロッパ諸国です。ヨーロッパの水道水は基本的に日本と比べると硬水で、そのために紅茶だけは日本でいれるよりもヨーロッパでのほうが、はるかに美味しく淹れることができます。
 
なんとも表現しづらいのですが、軟水で入れた紅茶にはコクが足りないような感じがします。そのためミルクティーにすると水っぽくなりすぎて、紅茶の味を楽しみきれません。一方硬水で入れた紅茶はしっかりと濃く紅茶成分を引き出しますので、ミルクをたっぷり入れたミルクティーにしても全くお茶の風味を失わず、濃厚な味わいを楽しむことができます。
 
美味しい紅茶には絶対に硬水、を意識してみていただきたい。
 
 

すっかり定着してきた炭酸水文化


お水をたくさん飲むのがいいと言われることが多くとも、なかなかそんなに大量の水を、喉があまり乾いていないときに飲むのは苦痛だったりします。そこで昨今大人気なのが炭酸水です。
 
私が常飲している飲み物は実は炭酸水で、ペリエやサンペレグリノ、ウィルキンソンなどブランドにはこだわっていないのですが、仕事中など日常のなかで常飲しています。しゅわしゅわとした刺激が心地よく、気分がすっきりするような気がして、ただお水を飲むよりも「飲み物」を楽しむ感触を味わえます。
 
この炭酸の刺激は、脂っこいものや、味が濃いものを食べる時に、そのしつこさをやわらげ、食欲を増進してくれる働きがあります。普通のお水だとなんとなくお腹がちゃぽちゃぽしそうなところでも、炭酸水であればしっかりと体の細胞に行き渡りそうな気がするのです。
 
私が子どものころはまだ、炭酸水の文化はありませんでした。水といえば水、それも水道水で、ミネラルウォーターさえ飲む習慣がありませんでした。しかし今では水といえば、水道水かミネラルウォーターかどうかが選べて、かつガス入りかガスなしかを選べます。普段何気なく飲んでいる水ですが、実はその水を飲む時、自分自身の生き方や在り方が、それに反映されているような気がしてなりません。
 
 

美味しく楽しい水との付き合い方


意識して、選びたいのです。
 
その水をなぜ飲むのか。
ただなんとなく、そこにあるから、ではなく、味が美味しいから、とか、ペットボトルのゴミが気になるから、とか、水道水は塩素が嫌だから、とか、なぜぞれを選ぶのかに、自分の視点を持って欲しいのです。なぜなら水は、私たち自身を構成する大切な要素でもあり、また私たちの体の7割をしめる、私たちそのものでもあるからです。
 
ただなんとなく選んだもので、ただなんとなく自分が作られている、みたいな意識は、さすがに人生50年も生きたのであれば、そろそろ捨てておきたいのです。なぜいま生きていて、なぜいまここにいて、なぜ今これを飲むことができているのかに思いを馳せて、感謝の気持ちを忘れないようにしていたい。
 
私たちが今、ここに、存在すること自体、奇跡的なことです。
さまざまなご縁が繋がったからこそ、私たちの命が存在し、その命同士が出会っていくのであって、そこには偶然は何一つなく、全てが自然界の法則に乗っ取った必然で起こっていることなのです。
 
たかが水、されど水。お水一つとっても、それをどう捉え、どう選ぶかに、その人の個性や人柄、人間性が現れます。適当に選ぶ人はきっと人生を適当に歩んでいく習慣があるのかもしれない。また丁寧に選ぶ人は、自分の人生をも丁寧に捉える人なのかもしれない。
 
ちょっとしたこと、ではあるのですが、そのちょっとしたことの中に、何か大切な、本当に重要な何かが隠されているような気がしてなりません。
 
美味しい水をたくさん飲みたい。
そして美味しい人間でありたいと、心の底から願います。
 
たかが水、されど水。あなどるなかれ。
 
 
《第22章につづく》
 
 

□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

READING LIFE編集部公認ライター、経営軍師、食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。一般社団法人食べるトレーニングキッズアカデミー協会の創始者。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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