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老舗料亭3代目が伝える 50までに覚えておきたい味

第34章 世界一の料理を味わう体験〜ノーマ(NOMA)《老舗料亭3代目が伝える50までに覚えておきたい味》


2023/5/29/公開
記事:ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
「こういう食事、苦手なんだよね」
 
と、もし相方が言おうものなら、いらっとすることないですか。
人が食べるものに対して好き、嫌いを持つのは当たり前だし、それはそれで仕方なく、責めるものでもないと頭ではわかっているものの、いざご飯を食べるという時になり、一緒に食べる相手があれがいや、これはダメ、を連発すると、心底嫌な気持ちになります。
 
我が子が偏食で食べない、というのも食と子育てにまつわる大きな悩みの一つですが、子どもであれば、100歩譲って付き合えます。しかし大人が同じように好き嫌いを振りかざすのは、子どもっぽいし、また配慮がない。人生を半世紀も生きてきているのなら、どんなものでも美味しく味わい、愉しめる度量ぐらい、身につけておきたいものです。
 
つまり、あれやこれやとこだわるよりも、何でも美味しく楽しめるほうが人生は豊かです。最高級レストランから場末のB級グルメまで、いろいろな食事を全て楽しみ、慈しむことができるほうが、明らかに人生は楽しくなります。こだわりの銘店を知っているよりも、何でも分け隔てなく味わい楽しめる、そんな食べ方ができることが、歳を重ねてきた大人の食べ方なのではないかと思うのです。
 
 

世界一のレストランとは


せっかくなのであれば、世界一と言われる料理も体験しておきたい。果たして世界一といっても、一体誰がどのようにそれを、世界一とランキングするのかは議論の余地がありますが、今日は”世界一のレストラン”と言われるノーマ(NOMA)の食体験をご紹介したい。果たして世界一のレストランとは、一体どんなレストランなのでしょう。
 
デンマークはコペンハーゲンにあるノーマは、2003年創業、当時25歳だった料理人レネ・レゼピと実業家のクラウス・マイヤーによって誕生しました。開業以来20年の間に、世界のベストレストラン50において、5度の世界一を獲得、またミシュランも三つ星に輝くなど輝かしい経歴を誇る、名実ともに世界一の料理が食べられるレストランです。
 
「ノーマのおかげでデンマークへの観光客が10%増えた」と言われるぐらい、その社会的影響、経済的影響は大きく、その革新的な料理は瞬く間に有名になり、世界中からお客様が押し寄せ、当代一の人気レストランとしてその名を馳せています。
 
そんな話題多きノーマ、2023年4月にはデンマークの本拠地をクローズし、本拠地はテストキッチンとラボとして機能させながら、「シーズン」と呼ばれる移動式の期間限定営業を行い、世界各地でノーマの料理が食べられる機会を生み出しています。
 
 

世界一が京都で食べられる〜エースホテル京都にて


そんなノーマが今年3月から約2ヶ月の間、京都に滞在して営業することとなりました。場所はエースホテル京都。ここは以前に巨大なファッションモールだったところが全面改築されて、ゆったりとした贅沢なスペースが心地良いアート系のデザインホテルとして生まれ変わったばかりの場所です。この中のダイニングスペースにて、内装も全てがノーマスタイルに整えられた上で、約2ヶ月に渡り料理を提供しました。
 
前回の来日は2016年。当時の私はノーマの存在すら知らず、そのような機会があったことにも気づいていませんでした。のちにこのことを知り、とても悔しい思いをしたのですが、それからずっと情報を追いかけ、次の来日の機会を待ち続けていたのです。
そしてそこから約7年、ようやく日本への再訪が決まり、私も無事に席を確保することができたというわけです。
 
予約開始から10分で全ての席は完売。うっかり予約を入れそびれてしまったものの、キャンセル待ちで無事に滑り込み、なんとか夜の時間でテーブルを確保、そこから数ヶ月の間、世界一の料理が食べられることを指折り数えて楽しみにしていました。しかも京都は自分自身の出身地であり、かつ日本の食文化、和食の中心地と言っても過言ではない場所です。日本一の美味しさが集まる場所、京都にて、一体ノーマがどのような料理を繰り広げてくれるのか、期待に胸がふくらみまくります。
 
 

見たことのない、触れたことのない、食べたことのない味


ノーマの料理は、とにかく革新的、前衛的と言ってもいいかもしれません。それもそのはず、ノーマ自信が伝説のレストラン、エル・ブジにて修行した経験をもち、これまでの食の常識をぶち破る料理を作り続けてきたからです。
 
「自然との調和」を大切にし、北方で寒さが厳しく、食材に限りがあるデンマークでは、その土地で取れる野菜や山菜、色とりどりの花を使い、繊細で美しく、また滋養に満ち溢れた美しい料理を作ります。そのアイデアや革新的な姿勢が、世界中の人たちを驚かせることとなりました。
 
今回2度目の来日となったノーマは、日本で出会った食材、例えば海藻、山菜、たけのこなどを使い、多くの日本人が食べたことのない味覚体験を作り出しました。わかめを昆布の出汁でしゃぶしゃぶにし、酸味が強めのつけ汁につけていただくわかめのしゃぶしゃぶだったり、たけのこを蒸してソテーし、バターのソースに合わせたり、およそ普通の日本人が考えつかないような組み合わせや味付けを、独特のひらめきとセンスで生み出していきました。
 
また発酵への思い入れも深く、麹や味噌、梅干しなどの発酵食品をうまく取り入れ、味に深みや奥行きを生みだしました。このように食材は明らかに日本のものでありながら、私たちの誰もが食べたことのない味を表現していきます。そこには彼らの食、食材に対する深い愛情や料理に対する熱、そして料理や味覚の世界を探求し続けたいと願う好奇心、そしてまた美味しいものを食べさせたいと願う想いの強さがありました。多くの日本人にとって全ての料理が、とても刺激的な料理だったのではないかと思います。
 
 

世界中からファンが集まる


この味を味わったのは、日本人だけではありません。
ふと周りを見渡すと、ほとんど全てのテーブルには外国人の姿があります。たまたまその日だけ外国人が多かったのかもしれませんが、それにしても多すぎます。よく見ていると、彼らはシェフと親しげに会話したり、また異なるテーブル同士で挨拶をしていたりと、何気に皆顔見知りのように見えるのです。推測するに彼らは、ノーマの料理を追いかけて、世界各地を共に巡るコアファンなのではないでしょうか。「ああ、久しぶり」なんていう挨拶の声がちらほら聞こえてきます。話している言葉を聞くと、英語だけでなくいろいろで、いかにノーマが世界中から愛されているかを、日本にいながらでも感じることができるのでした。
 
世界中のグルメがノーマの料理を食べたいと願い、世界旅行を共にする。
 
それほどまでに人を動かす料理とは、一体どのようなものなのでしょう。ノーマの料理は、決して安いものではありません。本国でも一人6万円、今回の京都では一人12万円を超えています。そのような高額な料理にも関わらず、それを食べるためにさらに飛行機代、宿泊費までをも払って全国を旅させる、それぐらいパワフルで、かつ愛される料理です。
 
しかし、もし料理を味だけで考えると、それを順位で評価するのは本当に難しい。なぜなら味の違いはただ、味の違いであって、その優劣ではないからです。美味しいものは、ただただ美味しい。それをどれが美味しいか、どちらがより美味しいかと評価することにはあまり意味がなく、ある一定以上のクオリティを達成しているものであれば、それ以上の美味しい、美味しくないの基準は単純に、体験したことがある、とないとの差ではないかと思うのです。
 
その点、ノーマでは確実に、これまで体験したことのない味を体験させてくれます。
「どこかで食べたことある味」ではあまり感動が生まれず、「初めて食べる味」にはより多くの感動が集まります。まだ体験したことのないことを体験させてくれること、これがつまり世界一であるが故の、大きな理由の一つになっているような気がするのです。
 
それぐらい人は、これまでに体験したことのない感覚を体験させてくれるものが好きで、そこに魅力を見出してしまう生き物なのでしょう。
 
 

料理が美味しいかそうでないかは、世界一の直接的な理由ではありません


しかし果たしてそれだけで、世界中からファンが押しかけ、そのような大金を支払うのでしょうか。
 
私はノーマの魅力は、そのチームワークと”伝えたい想い”にあるような気がしてなりません。
 
ディナーの席では1テーブルあたり、4、5人のスタッフが料理を提供し サービスをしてくれます。 通常のレストランのように 1テーブルあたり1人のスタッフがサービスをするのではありません。 なぜそのようにしているのかは分かりませんが、 変わる変わる自分のテーブルに訪れるスタッフはそれぞれに、個性豊かに料理の説明をしたり、ドリンクの説明をしてくれます。デンマーク本国から総勢109名(家族、子どもも含む)で渡航してきているスタッフのチームは、とにかくその一人一人が、いかに料理が好きで、料理の美味しさ、楽しさ、食材の美味しさ、豊かさ、そして何より面白さを伝えたいのか、ということが、彼らのサービスする姿勢からひしひしと伝わってきます。ニコニコと笑顔を絶やさず、食や食材に対する愛が溢れまくっているので、その愛そのものが彼らの言葉と行動から伝わってきます。
このエネルギーに触れたら、楽しくならざるを得ない。楽しい気持ち、心地よい気持ちになるしかありません。笑顔は、料理を美味しくしてくれます。どんなに美味しく作られた料理でも、顰めっ面をして苦しい表情でいただいていたら、その美味しさは微塵も感じることができませんが、逆に顔に笑顔を浮かべ、心から楽しい状態で料理を味わうと、その料理は確実に美味しくなるしかないのです。
 
世界一美味しい料理の秘密は、食材と料理のスキル以上に、シェフはじめ、調理、サービスに関わる全スタッフたちの、あくなき探求心と愛情に尽きるのではないかと思います。
 
これはなんだか、お袋の味が最高に美味しいと感じる心理に、どことなく似ている気がしてなりません。
 
ミシュランの星付きレストランの料理だろうと、小さな屋台の庶民的な料理だろうと、愛があるか、ないかでその味には雲泥の差が生まれます。とにかく、愛情がこもったものは、なんだって美味しい。なぜなら人は、人からの愛情を感じることで、最高に幸せになれる生き物だからです。また反対に、誰からも愛されていないと感じることは、世界一その人を不幸にすることとイコールなのです。
 
溢れる愛で人を最高に幸せに導く、これこそがノーマを世界一に至らしめる、最大の要素なのではないか、と思います。
 
 

人は幸せになりたい生き物


なんどもお伝えしているかと思うのですが、ただ美味しいから食べる、とかではなく、心の底から、根底から、自分を元気にする食べ物を食べることを選択したいのです。単なるグルメに走ったり、また反対にこれぐらいでいいか、と、ジャンクなものに走ったりするのは、飢えを凌いだり、虚栄心を満たすことはできるかもしれませんが、芯から心を満たすことはできません。
 
食べることは、空腹をしのぎ、生き続けるために絶対に必要な行為ですが、それをただ食べるだけに止めておいては、他の動物とかわりません。
しかしそこに愛を感じ、さらなる幸せ感を見出せたとしたら、それこそが私たち、人として豊かな人生を過ごすための、必要不可欠な食べ方なのではないでしょうか。
 
世界一のレストランは、ただのグルメや美味しさ自慢なのではなく、食べるだけで人を幸せ感で包んでくれる、そんな体験の真骨頂を生み出す場です。味覚のみならず視覚、聴覚、触覚をも刺激し、まだ体験したことのない世界へ、笑顔と共に連れて行ってくれる。そういう体験こそが、人には必要な体験です。
 
人生50年も生きているのであれば、そろそろそんな愛される体験や、愛に飲み込まれる体験の一つや二つ、味わっておきたい。
またそれを体験するためには、安くないお代が必要となります。しっかり稼いでしっかりと支払う。それができるのがやはり、いくばくかの経済力を手に入れたアラフィフの力なのかもしれません。
 
世界一の料理、果たして次はいつ、どこで食べることができるのでしょう。
人は愛されたいし、愛したい。
そんな愛を、食べることから感じることができたら、それこそが至福の体験であること、どうか忘れないでください。
 
 
《第36章につづく》
 
 

□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

READING LIFE編集部公認ライター、経営軍師、食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。一般社団法人食べるトレーニングキッズアカデミー協会の創始者。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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