福岡醤油のあまーいお話。

【福岡醤油のあまーいお話。】探索03.製造方法の機械化が進んでも、ずっと変わらないものとは?《マルヨシ醤油株式会社》


2021/11/08/公開
記事:中川 文香(READING LIFE公認ライター)
 
 
お醤油屋さんと言うと “創業百何十年” とか “製法は代々引き継がれている” といったように、 “昔から変わらずあるもの” というイメージが大きいだろう。もちろん、古くから存在する調味料だということは事実なのだが、その製造方法は時を経て徐々に機械化が進み、温度管理や品質管理に人の手だけでなく機械の力が入ることで、より良いお醤油を作るために様々な変化が起こってきた。変化したことはたくさんある。でも、変わらないものもあるというのも、また事実のようだ。

 

 

 


 
福岡県宗像市ふくおかけんむなかたし鐘崎港かねざきこう近く、海まで歩いて5分ほどの場所にある『マルヨシ醤油』の代表取締役、吉村佐智子よしむらさちこさん、専務取締役の吉村一彦よしむらかずひこさんにお話を伺った。
 

マルヨシ醤油は醤油業界の中では新参者で、創業は昭和23年です。祖父が初代になるのですが、その祖父が戦時中に韓国に渡り、終戦後に無一文状態で日本に帰ってきた時に最初に始めたのが塩炊き、お塩の商売です。その後、塩の専売公社が設立されたために「何か別の商売を」ということで始めたのがお醤油屋さんだったそうです。でも、まったく知識がないところからのスタートだったので、最初の頃は品質の統一も出来ていなくて。それで、うちの父は大分のお醤油屋さんに修行に出て、他にも福岡県内の色々なお醤油屋さんに教えていただきながら、次第にうちの醤油というのが出来上がっていきました。

 
戦後の物資の乏しい時代、調味料もあまり無かった時に始めた塩炊きの商売で、その製造途中に醤油の代用品のようなものが出来た。それを欲しがる人が増えてきたため「醤油屋を始めてみようか?」ということで創業に至ったそうだ。
試行錯誤を繰り返してたどり着いた味の中には、手間ひまのかかる製法で作られているものも存在するという。
 

うちは福岡県醤油醸造協同組合に加盟しており、生揚げ醤油きあげしょうゆ(醤油の素のようなもの)を配送してもらって製造をしています。また、それとは別で一から自社で仕込むものもあります。
お醤油の作り方の種類として “本醸造” 、 “混合” 、 “混合醸造” というものがあります。その違いはアミノ酸液という旨味の凝縮された液体を入れるかどうか・いつ入れるのかによるものです。アミノ酸液を入れないものが “本醸造” 、もろ味(蒸した大豆と炒った小麦に麹を混ぜて熟成させ、さらに塩水を加えたもの)にアミノ酸液を加え、熟成させるものが “混合醸造” 、搾った醤油とアミノ酸液をブレンドさせるのが “混合” です。この製法の違いはラベルに記載があるので、ご自宅のお醤油のラベルを見てみてください。
“混合” や “混合醸造” は旨味を多く含み、九州の方の嗜好に合っているため九州地方ではよく見られます。その中でも、アミノ酸液を加えた後にさらに熟成させるという “混合醸造” は手間もかかり、この製法をとっているところは少ないのですが、うちは混合醸造の醤油を主に製造しています。さらに、混合醸造に使用するアミノ酸液は購入ではなく自社製造のものを使っています。

 
アミノ酸液は大豆由来のもの、トウモロコシ由来のものが代表的だそうだが、マルヨシ醤油では大豆を原料としたアミノ酸液を製造しているそうだ。広い工場の中はそれぞれアミノ酸液の製造場所、麹を作る場所、もろ味の熟成場所など区分けされ、様々な機械が動いている。
 


 

昔と比べれば機械化も進み、手間は減ったかもしれません。でも、醤油づくりには必ず人の手が必要なんです。
例えば、麹を作る段階(製麹)の温度管理は重要で、機械がデータを測って適温を超えるとお知らせする、という仕組みが出来上がりました。
製麹は、初め38℃くらいからスタートし、徐々に27℃くらいまで温度を落とすんですね。それで27℃をそのままキープ出来れば良いのですが、何もしないでいると45℃くらいまで一気に温度が上がってしまう。そうならないように温度管理を徹底して、上がったら空調で調節したり窓を開けたりして熱を逃がすんです。
何故かというと、温度が上がりすぎると醤油の麹菌が死滅し、納豆菌が繁殖してしまうこともあるからなんです。納豆菌は醤油の麹菌よりも生存力が高く、一度育ってしまうとその麹全体をすべて破棄して最初からやり直しです。さらに、ムロという麹を作る部屋に納豆菌が付着してしまうことになり、そうなると清掃に余分な時間を費やしてしまいます。また、その逆で温度が低くても麹は上手く育ちません。醤油の麹菌は生き物なので、やはり、何かイレギュラーな事態にも柔軟に対応出来るよう、人の手が必要なんです。

 

 
こうした丁寧な管理をすることによって、醤油のあの繊細な香りが生まれるのだ。熟成によって生まれる香りも、蔵に住みつく麹菌が異なることによってお醤油屋さん独自のものに変化していくというのだから不思議だ。生き物だからこそなせる業なのだろうか。
 

福岡県のお醤油屋さんは「共に学んで、福岡の醤油をより良いものにしよう!」という気質があるみたいで、うちも加盟している福岡県醤油工業協同組合では組合員同士の学び合いや交流が盛んです。
最近では高齢化だったり、後継者問題だったりでお醤油屋さんをたたむところも出てきてはいるのですが、その時には県内の違うお醤油屋さんにお願いして作り方をお伝えし、引き続き同じお醤油を製造してもらう、という対応をとるところもあったりします。
やはり、いつも使っているお醤油が無くなると困るお客様がいらっしゃるじゃないですか。お醤油は地域に根付いているものなので、そこはお客様に迷惑をかけないよう、お醤油屋さん同士で協力することもあるんです。
ただ、同じ材料比で同じ作り方をしても、本当に微妙ですが、香りが違ったりする。それはやはり “蔵付きの菌” や、そのお醤油屋さんの建っている場所の空気や水といった違いから生まれるものだと思います。完全に同じものってきっと出来ないのでしょうね。

 
その場所で作るからこそ、生み出せる味や香りというものが存在するのかもしれない。マルヨシ醤油は漁港の近くに建っているが、そのことによる違いはあるのだろうか。
 

一般的に海辺の近くに行くほど甘いものを好み、山の方に行くほど醤油はしょっぱくなる、というのは言われています。けれど、うちの醤油は県内の中でどうかと聞かれると、そこまで甘いわけではないと思います。平均的な甘さですね。今は福岡市内や北九州市内の飲食店さんにも卸していますが、お客さんの声を反映させていったり、そういった積み重ねで今の味があるということです。
ただ、漁港近くの特徴としてあるのは、昔は遠洋漁業で漁師さんたちは一週間とか二週間とか沖に出ていらっしゃったそうなんです。その時、水ってすごく貴重なものじゃないですか。だから、魚の煮つけを作ったりする時に大切な水をあまり使わないように、お醤油に甘味を付けてそれだけで煮炊きが出来るように、ということで醤油が甘くなっていったというのはあるみたいです。

 
魚が豊富に獲れる漁港の近くでは、煮炊き用や刺身用として魚に合わせて醤油が変化していった。
九州の刺身は、比較的分厚く切ってコリコリした歯ごたえを楽しむことが多い。宗像ではイカやアジ、フグなど新鮮な魚が水揚げされる。こういった刺身に絡みやすいように甘さととろみのついたお醤油も進化していった。
 

 
最後に、マルヨシ醤油の商品を紹介していただいた。
 

うちでコンスタントに出ていてお勧めなのは “甘露かんろ” です。こちらのお醤油は “再仕込み醤油” と言って、一度出来上がった生醤油に再び麹を入れてもう一度仕込む方法で作っています。出来上がるまでに時間と手間のかかるお醤油で、その分、深い香りと、濃厚な中に残るほのかな甘みが特徴です。 “甘露” は毎年開催されている全国醤油品評会に何度も入賞したことのある商品ですので、「良い品質のものを変わらず作り続けて来られたのだ」と自信をもってお届けできます。
それから、冬場になるとよく出るのが “味付けぽんず” です。お酢屋さんが作るポン酢は酢が強めなものが多いように感じますが、醤油屋さんが作ったポン酢なので醤油や旨味を強くし、酢の量は控えめです。九州のポン酢なので、やはり甘めに仕上げています。
他に変わった商品として、『大豆プロジェクト』という取り組みで作った醤油があります。耕作放棄地を活用して育てた大豆で醤油を作る、というもので、宗像市役所の有志の方と興味を持っていただいた地域事業者の方やボランティアの方々が集まったプロジェクトです。赤ワインやバジルを加えた洋風の “イタバジ” 、カレー風味の醤油 “カレーじゃん” 、など変わった商品を作りましたね。

 

 
他にも、自宅で味噌を仕込む方へ向けて販売していた米麹を甘酒に加工し、さらに手を加え、付近の農家の規格外のイチゴを使って作る “あまおう甘酒” や、大島おおしまという宗像の離島の名物である甘夏柑を使った甘酒など、地元の方々と協力したその土地ならではの商品開発に数多く携わっている。さらに2017年に世界遺産登録された、神宿る島 宗像・沖ノ島関連遺産群を応援するために作られたという、湖池屋の『JAPANプライドポテト 焼のり醤油』への醤油の提供元としても選定された。「地域の様々な取り組みに参加してきたけれど、それまでの人と人との繋がりから、また新しい人との出会いや商品が生み出されていく。すべて線でつながっていくのだ」とお二人は微笑む。
 

 

でも、うちが特別ということではなくて、どのお醤油屋さんも地域に根差した活動をされていると思います。その土地に支えられた商売ですから。
だからこそ、地場のお醤油屋さんの醤油を是非、手に取って欲しいですね。皆さんそれぞれこだわりを持って作っていらっしゃるので、気軽に試して自分好みの醤油を探して欲しいです。

 
福岡のお醤油の魅力を尋ねると「選べる楽しさ」という答えが返ってきた。日本一お醤油屋さんが多いからこそ、その違いを探求する楽しみもたくさんあるはずだ。
「お客様に喜んでいただきたい」その一心で、変わらない味を届けるために、手間がかかってもアミノ酸液の自社製造や、混合醸造製法は続けていきたいと話す。過去から今へバトンをつなぎ、さらに未来へ託していこうという思いがあったからこそ、様々な技術が受け継がれてきた。この先どんなに機械が導入されようと、人の手の入るお醤油づくりを守っていく姿勢と地元の中に息づく取り組みは、きっと変わらないのだろう。

 

 

 

探索を始めて改めて、お醤油はこんなに身近な調味料であるのに、知らないことがたくさんあるということに驚かされる。
まだまだ、お醤油の世界に深くはまって行ってしまいそうだ。
 
 

【マルヨシ醤油株式会社】
http://www.maruyoshi-syoyu.co.jp/

□ライターズプロフィール
中川 文香(READING LIFE公認ライター)

鹿児島県出身、福岡県在住。天狼院READING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。会社員時代に九州各地を出張してまわり、山と海に囲まれ育まれた各地の豊かな食文化に触れる。

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2021-11-08 | Posted in 福岡醤油のあまーいお話。

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