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タイムスリップ(READING LIFE)

あの日あの時、一瞬のきらめきは永遠に《週刊READING LIFE「タイムスリップ」》


2021/03/29/公開
記事:青野まみこ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
仕事から帰って一息着いた頃に来た、オタクグループLINEに目を見張った。
 
「原駅ステージAは、2021年3月19日をもって、活動を終了します」
 
なんで、今日いきなりなの……。
Twitterを開いて、メンバーからのメッセージを読み、ようやく現実なんだと思う。
 
推していたグループが、本日をもってなくなってしまうとは。
このコロナ禍、エンターテインメント系はどこも厳しいけど、ついに活動終了になってしまったのか。
 
決して年数長く、ものすごく濃く通い詰めたわけではない。けれど彼女たちのパフォーマンスは他のグループにはない魅力があった。初めて彼女たちを見た時に感じた心の震えだけは、誰かに伝えたい気がしていた。

 

 

 

「ねえ、面白いグループがあるんだけど、興味ある?」
 
2017年の夏、いつものオタク友からMessengerが来た。
 
「なーに?」
「原宿駅前パーティーズっていうんだけど、原宿の駅前に劇場があって、そこで48グループみたく公演やってるんだけど、なんかすごいらしいよ」
「へぇ。すごいって、何がどうすごいのよ?」
「俺もまだそんなに回数行ってないからちゃんと説明できるかわからないけど、いろいろ本格派っぽいパフォーマンスだよ。青野さんたぶん気に入ると思うんだよね」
「ふうん。そこまで言うんなら、1度行ってみますか」
 
その頃私には、48グループの推しメンがいた。東京や横浜の握手会に通ったり、秋葉原の劇場公演に行って実物に会ったりしていた。時には名古屋、大阪、新潟の劇場に遠征もしてみて、オタクの知り合いも広がって、それなりにオタク生活を楽しんではいた。
 
48グループは何と言ってもリリースが多い。TVの歌番組にもこれでもかと露出する。リリースの度に握手会はあるから、推しメンと話す機会も多く認知もされる。
推しがメディアに取り上げられる機会が多いのは嬉しいことだし、直接会って話ができることも多いのは嬉しいけど、私はそんな応援の仕方に少しだけ物足りなさを感じていた。確かに楽しいし、そこそこ満足はしている。でも上手く言えないけど何かが足りていない。そんな時に、別のグループを見に行かないかと誘われた。私の推し方をよく知っている人が「絶対私が気に入ると思う」って断言しているんだから、それなりの根拠があるのかもしれない。まあ冷やかし程度に、他のグループも見学に行ってみようかな。そんな軽い気持ちで私は原宿に行ってみることにした。

 

 

 

真夏の昼下がりの午後、地面から照り返す熱気がさらに蒸し暑さを加速している。
辺りを見回す限り、10代の子どもたちに囲まれて、私は原宿駅の竹下口の改札を出た。
 
中高生と外国人観光客で、改札正面の竹下通り入口は、歩けないほどの人込みだった。
竹下口なんて、一体何十年ぶりに降りたかな。昔、中学の頃よく来ていたけど、それでもここまでの混みようではなかったような気がする。ぼんやりと考えながら、待ち合わせている原宿駅前パーティーズの劇場があるアッシュビルに行く。
 
そしてオタク友と合流してエレベーターを6階まで昇る。ここに原宿駅前パーティーズの劇場がある。
劇場に入る前に、昔懐かしい、ガラポンのような抽選機で座席を決める。あらかじめチケットは抽選で当選した人が買えるが、当日の座席は抽選で決定するので、それまでどの座席になるかわからない。それでもチケットを事前に買っている人は全員ほぼ座れるのはありがたいシステムだった。
 
座席が決まり、本人確認をして金属探知機を通りいよいよ劇場に入る。
原宿駅前パーティーズの劇場はウナギの寝床のように細長かった。通常の、全員が前を向いて眺める四角いステージではなくて、そこから劇場の真ん中を細長くエプロン状にステージが伸びていて、客席はステージを取り囲むようにぐるりと4列に配置されていた。観客は全ての座席から、メンバーのパフォーマンスを間近に見ることができる。最前列に座っている人は、手を伸ばせばメンバーに届くような距離だ。
 
薄暗く、青いレーザーの中にくっきりとステージが浮かび上がり、BGMに流れるのはケイティ・ペリーやアリアナ・グランデ。これは48の昭和っぽい劇場とは相当違う感じだぞ。友達が隣にいてくれるから、初めての現場でも心配ない。
「ふわふわ、原宿乙女、原駅ステージA、ピンクダイヤモンドの4つのチームがあって順番に出てくるよ。モニターもあるから、見えづらいところがあっても大丈夫だし」
「なるほど。なるべく見えるように、すごく考えられているよね」
 
そして場内が暗くなり、ステージが始まった。
 
まばゆいばかりのスポットライトと共に、きらきらとした衣装を身にまとったメンバーが出てくる。最初は、今日出演の4チームのメンバー全員でウォーミングアップと挨拶を兼ねている曲を歌う。とにかく全員がよく見える。かわいい系のメンバー、モデルをやっているようなスタイル抜群のメンバー、いろんなメンバーがいる。
このオープニング曲、”Welcome to the Miracle Land” の作詞・作曲はSPEEDのプロデューサー・伊秩弘将氏なだけあってすごくカッコいい。そして力強さを感じさせるのだ。なんかいいかも。久しぶりにいい予感がする。とにかく見ていたいキラキラ感があった。
 
そこからは各チームのステージになる。
アクロバット系のピンクダイヤモンド、モデル系の原宿乙女、王道アイドルのふわふわと、3チームのステージが続いた。どれもコンセプトに合っていて、きちんと「かわいい」「かっこいい」をこなしていたのがいい。そして基本のパフォーマンスがきちんとしているのは見ていてもよくわかる。原宿駅前パーティーズは基礎をおろそかにしていない、そしてそれをきっちりステージで見せてくれる安定感があった。
 
そしてこの日のトリを務めたのが、ダンス系の原駅ステージAだった。
 
原駅ステージAは6人グループだった。
どのメンバーもダンスが上手いと事前に聞いていたけど、実際リアルで、しかもすごく近くできりっとしたパフォーマンスを見るとほれぼれしてしまうくらいの完成度が高い子たちだった。
 
(すごい……)
 
とにかく、身体の1つ1つのキレがいい。これが「ダンス」なのかと思う。原駅ステージAはダンス&ボーカルグループだけど、メンバー全員に「華」がある。アイドルグループではないけど、ダンスを通じたクールな表情、スピード感がすごく惹きつけるものがあるのだ。
 
(……!)
 
スタイリッシュだけどダークなサウンドに乗せて繰り広げられるダンスステップは軽快そのもので、そこにしなやかさと力強さが加わっている。
そして楽曲のメロディーラインもいい。”Let’s Breakin’ Out”、”レッテル”、”キャノンボール”、どれも特徴のある曲でダンサブル。サウンドは重ためなぶん、ステップの刻みにビートが乗っているところがなんとも心地よさを誘う。そして極めつけは2017年春にリリースされた”青い赤” だ。難易度の高いダンスを寸分狂わず、流れるように踊る彼女たちから目が離せなくなった。
 
全員踊れている。全員ものすごくカッコいい。自己紹介でまだ10代ってみんな言ってたけどダンスの完成度高すぎる。まだ原石なのかもしれないけど、この子たち、このあとどう成長するんだろう。また見てみたいという気持ちがあった。
全チームのパフォーマンスが終わり、ステージのエンディングで再度全員が出てきて歌った、”HARAJUKU❤駅前Stageで逢いましょう!”では、曲に合わせてメンバー全員が観客1人1人と目を合わせて手を振るという、なんとも丁寧なパフォーマンスがあった。これは心をわしづかみにされない方がどうかしている。「私たちはお客さんを大切にしていますよ」というパフォーマンスがよかった。
 
「……原駅、どうだった?」
「うん、すごくよかった。みんなの本気度がすごいよい!」
「だよねえ! 絶対気に入ると思ったんだよね。AKB48と違ってステージとの距離がすごく近いのがいいよね。あとパフォーマンスがみんなきちんとしてるし」
「そうだよね、やっぱり歌もダンスも上手いに越したことないし。また観に行きたいなあ」
 
とりあえずすっかり私は原宿駅前パーティーズが好きになった。そしてとりわけ原駅ステージAが好きになってしまったのだった。

 

 

 

そこからは、毎週土日に行われる原宿駅前パーティーズ公演のチケットを申し込み、抽選で当たったときには公演を見に行った。自分が当たらなくても、誘ってくれたオタク友さんやそのさらに友達からチケットを同伴枠で融通してもらい、可能な限り公演に入った。
 
お目当ての原駅ステージAの中では、1番背の高い染野里奈さんと、リーダーの磯部杏莉さんが「推しメン」になった。私はどちらかというと、「かわいい」よりも「歌が、ダンスがうまい」「かっこいい」人を推す傾向があって、このお2人はそれをぴったり満たしていたのだった。私は原駅ステージAの、パワフルで完璧なダンスパフォーマンスに夢中になった。
 
しばらくは公演を楽しんでいたのだけど、そのうち染野さんがステージを欠席することが多くなっていた。そして翌2018年2月、彼女はグループを抜けてしまったのだ。
 
(もっと見たかったな……)
 
理由はわからないが、染野さんともう1人のメンバーが2月に脱退して、原駅ステージAは4人になってしまった。6人中2人が、それもダンスで大きな役割を担っていた人が抜けるのは大変な痛手で、残った4人はすごく気落ちしているように見えた。リーダーの磯部さんはそんな中、新しい原駅ステージAを作ろうとメンバーを鼓舞して、ダンスの振り付けも4人用に組み替えて、人数は減ってもよりパワーアップしていこうと頑張っていた。
 
流石は私の推しメンだよ。根性あるところも人間としてすごく大事だし。そして磯部さんも果てしなくダンスがうまい人だった。自分もつらいだろうに、みんなを引っ張っていけるバイタリティーがある人って、人として尊敬する。ますます私は磯部さんを推して正解だと思っていた。

 

 

 

そして原宿に通い始めて1年余り、2018年の夏頃、原宿駅前パーティーズの在り方を一旦見直すような発表が事務所からなされた。8月26日に原宿クエストホールで全チームのライブをやったあとに劇場を改装して、公演の方法も見直すとのことだった。
 
大きなホールでのライブは楽しかったけど、そのあとの劇場改装では全席から見えるステージを廃止して、よくありがちな、前の席の人しか見えない平凡なステージに変えてしまった。これでは後ろの席だと何にも見えない。さらに原宿駅前パーティーズの公演も減った。原駅ステージAはすごく好きだけど、チケットを取っても見えない座席になるなら行く意味がない。事務所の都合で観客が不便を強いられるのは嫌だったので、改装後は公演を見に行くことがなくなった。それでも原駅ステージAは応援していたが、新曲のリリースの予定が全くなかったことも心配だった。
そして昨年からのコロナ禍によって、ほぼ全てのエンタメ系のパフォーマンスが途絶えることになり、オンラインや動画のイベントのみになったけど、私はどれも申し込まなかった。やっぱりあの素晴らしいダンスをライブで見てしまったら、オンラインでのイベントはすごく色褪せて見えてしまう。いつの日か復活したら見に行こう。そう思っていた。
 
そんな日々が続いて、すっかり慣れっこになったかのような今年の3月19日を持って、何の前触れもなく原駅ステージAは活動を終了してしまった。
 
無理もないのかもしれない。事務所の意向もあっただろう。先の見えない社会情勢、ライブもできずリリースもできない中、活動を続けることは本人たちも苦しかったと思う。最初に見た時に18歳だった磯部さんも22歳になっている。若い日々を不透明な時間で過ごすよりも、一歩でも前に進んだ方がいいのではないだろうか。私が親ならたぶんそう言うだろう。
 
原駅ステージAは活動を終了した。でも私はあなた方がいたことを、目を奪うような素晴らしいダンスパフォーマンスを絶対に忘れない。あの日私をとりこにした、熱のこもった力強いステージを。いつの日かまた、メンバーがそれぞれの場所で不死鳥のように活躍してくれるかもしれない。そしてみんな幸せな人生を送ってほしいと切に願っている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青野まみこ(あおの まみこ)(READING LIFE編集部公認ライター)

2019年8月天狼院書店ライティング・ゼミに参加、2020年3月同ライターズ倶楽部参加。同年9月READING LIFE編集部公認ライター。ちっちゃな頃から筋金入りのアイドルオタクでした。

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2021-03-29 | Posted in タイムスリップ(READING LIFE)

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