週刊READING LIFE vol.20

「とっておき食材」を「とっておかない」食事術《週刊 READING LIFE vol.20「食のマイルール」》


記事:なつき(READING LIFE 編集部ライターズ俱楽部)
 
 

「ああ、またやってしまった」期限を見てうなだれる。家にあるものだしちょっとくらい過ぎても気にしないのだけれど、大幅に過ぎたり、開けてみて食べるのは止めようと諦める。ごめんなさいと諦める。次は気を付けようと心に思っている。でもまたやってしまった。
 
私は食が大好きだ。近所のスーパーに行き、「美味しそう」「食べてみたい」で買う。物産展に行き「今しか買えない」「美味しそう」「食べてみたい」で買う。家には順番待ちをしている食材や保存食品が結構ある。それでも外で見つけると手に取っている。とっても惹かれている。買う時には期限を見てちゃんと計画も立てている。こういう時に食べようとか、この料理に合わせたらいいかもとか。頭にちゃんと描いている。それでも家に帰ると、順番待ちの食材を先に使わなきゃとか、今日は気分じゃなくなったなどで計画が崩れていく。
 
そうすると買ったはいいけどまた次の機会にと後回しにしてしまう。その繰り返し。上手に買ったものを生かせればいいのだけれど中々うまくいかない。さてどうしようか。このままだと、買っただけで満足している状態だ。読書で言うところの積ん読と同じ状態だ。本も自分にその時必要だから出合ったと思うし、すぐ読むべきだと思う。でも消費期限はない。食材には消費期限があるので厄介だ。先に家にある物をちゃんと消費する方法、何かないだろうか。色々考えてみた。しばらくは買わなきゃいいだけ。その答えしか出なかった。
 
それは必要なもの以外買い物するなと言われているのと同じだ。もちろんそうできれば優秀な主婦だろう。理想だ。でもできない。やってみればいいじゃないか。やってみた。少しずつ物がちゃんと消費されるのは気持ちが良かった。期限内に食べられるので美味しくいただけた。でも楽しくなかった。外の商品を見て、色々考えるのが好きだった。その部分が満たされなかった。更に平日は作る時間があまりとれない。決まったものばかりの消費になる。だんだん飽きてくる。そんな時でもスーパーや物産展には新しい未知の食材があるかもしれない。それを見逃してしまうかもしれない。それが残念だった。そして通りすがりにも興味をそそる食材はある。それを見ないふりして通り過ぎるのが苦しくなった。
 
使いたい!! 食べたい!!
 
欲求が爆発した。爆発したはいいが、また買い込みに走るのか。それはいけない。食材で家を埋めるわけにはいかない。料理をすると言っても夫婦二人の生活。消費する量は限られている。どうしたら家をすっきりさせてかつ買いたい気持ちを満たすことができるのか。
 
ある時物産展で見つけた、密封袋入りの乾燥したサクラエビ。袋の大きさはA5サイズ位だろうか。買った時は半年も期限あるし余裕で使うね、と思っていた。気づいたら期限は数日後に迫っていた。商品に表示されている期限を少しくらい過ぎても、家庭で消費なら自己責任の判断でいいとは思う。でもせっかくなら美味しい期限と謳ってくれているうちに消費した方がいいだろう。この時に見つけたのも使ってと言われている気がした。いつもならもうちょっと大丈夫かと置いているところだ。なぜかその時には使おうと心が決まった。
 
美味しそうなサクラエビ。何に入れようか。サクラエビの旨味を生かしたちゃんとした料理と思ったが面倒になった。野菜を数点買っていたものの、仕事帰りで疲れていた。簡単な野菜炒めでもいいよね。野菜と一緒に炒めることにした。いつもなら勿体ないと少しだけ使う。そうして冷蔵庫で保存し、いつしか忘れられていき古くなってしまう。このサクラエビは期限があと数日。勿体ないけど全部入れてみようか。白菜と人参を炒めたフライパンに、えいやっと袋を開けてサクラエビを豪快に全部入れた。フライパンがみるみるサクラエビで埋まっていく。全部入れてしまった。一回で食べきるものではないだろうに。若干後悔しつつも炒め始めた。サクラエビのいい匂いがしてきた。サクラエビの旨味を生かすために調味料は軽く塩を振るだけで薄味にした。
 
今までにない深みのある野菜炒めになった。素晴らしく美味しかった。サクラエビの漁師さんこんな美味しい素晴らしいものをありがとうと心から思った。勿体ないという気持ちで、少ししか使っていなかったら出せない味だったし、このありがたみはここまで感じなかったかもしれない。そして、サクラエビを買ったから、凝った料理に使わなきゃ、と思わなくてもいいのかもしれないと少し肩の荷が下りた。この形なら日常使いで消費しやすくなる。この日から日常で色々使い始めた。仕事帰りで疲れている時の定番は野菜炒めや煮物が多い。そういった定番にどんどん使うようにしていった。インスタントの味噌汁に小松菜や卵を加えてボリュームある1品にする。飲もうと思って買ったリンゴジュースなどのフルーツジュースはお肉を煮込む用に使うなど。
 
すると、不思議なことが起こった。平日でも家にあるものが使えるようになってきた。外を歩いていても買わなきゃという欲が少し減った。期限が来ちゃったしごめんなさいと後悔しつつも捨ててしまうことで、単なる儀式の様に終わらせていたのかもしれない。謝るのに心を込めたつもりでも、食べないで捨てるとはそういうことだ。そして、時間をかけて作らないといけないと思っていたこだわりが外れたように思う。料理は大好きだが、忙しい時には食材を活用した食事もあっていいのだと思えるようになった。
 
毎年お正月だったりお盆だったり、実家に行くと色々持たせてくれる。美味しいし嬉しいのだがどう使おうか毎年思案していた。使いきれないものもあった。申し訳なく思っていた。それが今年のお正月はもらえることに苦を感じないで済んだ。今年は実家の柚子から取れた柚子ジャムをたくさんもらった。直径7㎝の高さ10㎝の瓶にもらった。柚子ジャムは大好きだ。柚子をたくさんもらった時に自分で作ったこともあるし、紅茶に入れて柚子ティーなんかもいい。それでも家ではあまりパンを食べないので、柚子ジャムの消費量は少ないし限られていた。ではこのたくさんの量どうするか。
 
フルーツソースの掛かった焼肉にしよう。豚肉を用意する。生姜焼き用だったり、薄切り、何でもいい。今回は少し厚めのロースにした。両面に塩を振ってなじませて5分程置く。その時に、ちょっとお酒を振りかけておくとお肉が柔らかく焼けるのでおすすめ。お正月に飲んで残ったお酒があるのではないだろうか、そんなのでいい。ロース肉には筋があるので軽く筋切りをしておく。待っている間に柚子ジャムをフライパンに瓶の量半分くらい豪快に開けた。うわー勿体ない、と思うと同時に山吹色の美味しそうな色が食欲をそそる。火をつけて温めると柚子の香りがふわぁーっと広がる。そこに先ほどの豚肉を入れる。柚子ジャムと豚肉が絡み合う。焼けたお肉をお皿に置き、上に柚子ジャムを乗せる。豚肉と柚子ジャムを一緒に頬張る。甘酸っぱい柚子ジャムと柔らかい豚肉が口いっぱいに広がる。大満足なご飯だった。実家からもらった大事なものだから少しずつ使おうとしていたら、得られない美味しさだった。
 
手間のかかる料理のために取っておくのではなく、忙しいときこそとっておきの食材に頼って、簡単に美味しくいただく。できるだけ消費期限内に、美味しいうちに、時にはたっぷりと使ってその食材を堪能して楽しむ。自分なりの食材の使い方を決めたことで気持ちがすっきりして時間もうまく使えるようになった。

 
 
 

❏ライタープロフィール
なつき(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)
東京都在住。2018年2月から天狼院のライティング・ゼミに通い始める。更にプロフェッショナル・ゼミを経てライターズ倶楽部に参加。書いた記事への「元気になった」「興味を持った」という声が嬉しくて書き続けている。

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2019-02-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.20

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