オトナのための中学校数学

13.触れるグラフ〜放物線〜《オトナのための中学数学〜世のためになっているのか調べてみた〜》


2021/03/09/公開
記事:吉田健介(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
世の中を見渡してみると、思いもしなかったものに数学が使われていたりする。数学と言っても、高校や大学で出てくるような難しい、たくさんの記号が軒を連ねるような数学ではない。連立方程式や平方根、円周角といった、私たちが中学生だった頃に教わった、馴染みのある顔ぶれ。あの頃、確かに教わった数学の諸々が、案外生活の中で使われているのだ。私たちは、当たり前になり過ぎているせいか、彼らの存在に気づきもせず、毎日を過ごしている。
「連立方程式? 使わないよ」
中学生の頃、1度は口にしたことのあるセリフ。
「別に生活に困ることないもんね」
そう、確かに生活に困ることはない。中学校の数学を知らずとも、仕事でコピーを取ることはできるし、スーパーやコンビニで買い物をすることだってできる。何か特別に不自由することはない。「数学を習っていないから」という理由で、鮭おにぎりを変えないわけではない。数学を忘れてしまったからといって、自分にだけ雨が強く降りつけたり、自転車で転びやすくなるなんてこともない。むしろ、それ以外に私たちは考えるべきことがあり、行うべきことがあるわけで「ここに数学が使われている」なんてことを気にする余裕はないのかもしれない。
でもなぜだろう、きっとどこかには使われているんだろうな、と思ってしまう自分もいる。誰か専門的な人が、私たちの生活を便利にするために、数学の考えを使って世の中を便利にしてくれているはず。そんな想像をどこかでしている自分もいる。
そして「いや、実はA4用紙には平方根が入っているんだよ」「GPSには連立方程式が使われているんだよ」という話を聞くと、不思議と興味をそそられる。「へーそうなんだ」と知的好奇心をツンツンされる。その理由は、私たちが中学生だったあの頃に、確かに教壇に立つ先生から教わったことのあるものだから。高校や大学で使われる数式とは違って、距離間が近いせいもあるだろう。
「この問題を解きなさい」という指令のもと、愚直に問題を解き、その問題を解決するために使っていた数学の公式やグラフが、以外にも私たちが普段使っているものに応用されている、活用されていると知ると、知り合いが「実は有名なユーチューバーなんです」とカミングアウトされた並に、見え方が変わるかもしれない。
そして、もしその数式やグラフが、手に取って確認できるくらい具現化されていた場合、その驚きは絶大かもしれない。
 
二次関数
 
そのグラフは放物線という名の曲線になる。
放物線といえば、ボールを投げたり、バスケットボールのシュートだったり、ホースから水を出した時だったり、その形はかなり身近な所で確認することができる。しかし、この放物線、もし触れるとしたら…… つまり、手で触って確認することができるくらいの「形」として目の前に現れたら「これが放物線かあ」と関心してしまうかもしれない。
 

 
放物線の特徴は、物を放り投げたときに現れるだけではない。放物線そのものに物をぶつけると、跳ね返ったものは必ず同じ場所を通過する。どの場所からぶつけても結果は同じ。まるで打ち合わせをしていたかのごとく、決まった1点を通過する。
 
この特徴を使ったのがアンテナだ。
パラボラアンテナ、と聞くとその名前くらいは聞いたことのある人いるだろう。
パラボラとは放物線を意味する言葉。
家の屋根やベランダに、白くて丸いアンテナが設置されているのを目にしたことはないだろうか。近くの窓から外をのぞいてみても、白いアンテナを視認できる確率はかなり高いはず。あのアンテナは、放物線の形をしている。つまり、流れてくる電波を皿の部分にぶつけて、1点にかき集めているのだ。よく見ると、アンテナの前にマイクのようなものが付いているのを確認できるはずだ。そこが、ぶつかった後に必ず通過する1点ということになる。あそこで、キャッチした電波を電気信号に変えているという仕組みだ。
パラボラアンテナは、宇宙からの微弱な電波をキャッチするのにも使用されている。家庭用のパラボラアンテナを超巨大化させたものが宇宙観測所に設置されている。興味のある人はネットで検索してみると、そのでかさを実感してもらえるはずだ。
パラボラアンテナは、放物線の特徴を活かしたアイテムであり、教科書に印刷されたグラフがまさに具現化したものであると言える。
 
ここで、1つユニークなアイテムがある。
放物線の特徴を使った調理器具が存在するのをご存じだろうか。
太陽からの光を1点に集め、その集めた光から熱エネルギーをゲット。お湯を沸かしたり、目玉焼きを作ったりすることができる凄いアイテムがある。その名も「ソーラークッカー」
小学校の時、虫眼鏡で太陽光を1点に集め、紙を燃やした実験をした人もいるはずだ。それと原理は同じ。あの熱を調理器具にしてしまったものだ。電気やガスは必要ない。晴れてさえいれば料理をすることができる。キャンプに持って行った日には注目の的間違いなし。それで焼きそばでも振る舞ってみるのもわるくない。「これはだね、放物線を使っているんだよ」なんて言いながら。
 
ビジュアルはエリマキトカゲみたいだが、ソーラークッカーでご飯を炊いたり、中にはピザを使ったりする強者がいるくらいだから、あながち馬鹿にはできない。しかも、段ボールとアルミホイルがあれば、自分でも作ることができるのだから、数学を体感するにはもってこいの道具と言える。
 
「やってみなくちゃわからない」というテーマのもと、昔NHKで『大化学実験』という番組があった。科学や物理法則を実際に試してみよう、それも大人級に、という番組。今は放送されていないが、ネットでアーカイブを見ることができるので、興味のある方は視聴してみることをおすすめする。その中で「みんなここに集まってくる」という回があった。まさに放物線を扱った回だ。放物線の形をした巨大な皿を用意し、上からボールを落としている。これが気持ちのいいほどに、跳ね返ったボールが1点に集まっていることが分かる映像。集まる場所に鈴を設置しているので「わ、本当に1点に集まるんだ」と思ってしまう。まさに大化学実験。
 
数学が手に取る形で物に生まれ変わると、そのインパクトはかなり大きい。数学を知らなくても食うに困ることはないかもしれない。だが、「あ、これ放物線なんだ」という腑に落ちる納得感。それは中学校の頃に誰もが教わったことのある言葉だからかもしれない。より身近に感じることで、数学そのものに親しみを感じてもらえれば幸いである。
 
 
 
 

❏ライタープロフィール
吉田 健介(READING LIFE 編集部公認ライター)

現役の中学校教師。教師が一方的に話をするのではなく、生徒同士が話し合いながら課題を解決していく対話型の授業を行なっている。様々な研究授業で自らの授業を公開。生徒が能動的に学習できるような授業づくりを目指している。

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2021-03-09 | Posted in オトナのための中学校数学

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