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オトナのための中学校数学

14.知らない世界にカメラを向ける 〜相似〜《オトナのための中学数学〜世のためになっているのか調べてみた〜》


2021/04/12/公開
記事:吉田健介(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
いつも通る通勤路に大きなお盆の上を走っているようなコースがある。
 
4km程伸びる道路。周りは山に囲まれ、一面の田んぼには、季節ごとでその表情を変える。あるときは一体が水鏡となり、ある時はフサフサの緑のカーペットが敷かれ、ある時は金の絨毯となり、ある時は、ゴッホの絵のような、どこか寂しく、寒々しい土色の地面が広がり、カラスたちが群れをなして何かを突いている光景を目にする。
 
霧がよく発生する。季節によっては、数メートル先しか見えないこともある。時には、ちぎり絵の途中のように、霧と霧のない世界との境界線を目にすることもある。夢と現実。過去と現在。異世界と現世。そんな境目を彷彿とさせる。
気温のせいだろうか、雲を地面におろしたような霧がかかることもある。細長く白い帯が、走らせる車と平行して、伸びる。そこに朝の光がほんのりと霧を染める。夜から朝の境目に現れる光の現象、マジックアワー。そのマジックアワーとタイミングが重なると、いつもの風景がいつもとは違う風景となる。
 
僕は思わず車を止める。canonの6Dmark2を取り出し、何かに取り憑かれたように、車から弾きでる。レンズは単焦点しか持っていない。35mmと50mmと90mmの3種類。35mmは、最近登場しない。今は90mmで風景を撮っている。つまり、自分の目で見た世界よりも、ファインダー越しには狭く、そして拡大された状態で映る。35mmではどこか広すぎる気がするし、50mmもどこか違和感が残る。本当はズームレンズを購入し、自分が見た視界と相談しながら撮ったらよいのだろうが、お財布の事情もあるので、「画質優先!」と題してこの3本スタイルで写真を楽しんでいる。
 
「ファインダーの中で考えてはいけない」
カメラを初めて2年ほど経つ。中尾 歓都己先生から教わる一言一言が、僕のシャッター欲を程よく冷静にしてくれる。
 
「見て」から「撮る」
 
学生だった頃、デッサンを教えてくれた師匠が教えてくれた。
「描くために見るのではない。観るために描くのだよ」
 
デッサンや油絵と同様、写真の世界でもそのスタンスは同じのようだ。
「撮るために見るのではなく、観るために撮る」
 
カシャッ
 
キャノン機特有のシャッター音が朝の大地で鳴る。
時折通る車の音がやけに大きい。
それ以外は何も聞こえない。肌に冷気が染みる春の朝。大地と細い霧と、山とマジックアワー。
 
絞りは 5.6 〜8 くらいだろうか。
最近は値を上げて、全体がしっかり写るように撮っている。後でレタッチする時に、全体的にカリッと仕上げたいから。ただ、今目の前に広がる風景は、山のシルエットと、広がる大地と、オレンジ色の空。まるで水墨画のように、濃淡な世界。色数は少ない。だからこの場合は、絞りをもっと開放気味にして、光を取り込んだ方がいいのだろうか…… 正直、そのあたりの匙加減は掴めていない。絞りを調整することで、画面にどのような影響が出るのか、そしてそれが自分の撮りたい絵とイコールなのかどうか。まだまだ分からないことだらけだ。
 
「車の運転みたいなものだよ」中尾 歓都己先生の言葉がまた耳に届く。
シャッターを押すのは誰でもできるが、その先は撮る人次第。細かい操作や、その操作によってどんな結果が起こるかは、スキルの世界となる。
写真を始めてからオートではなく、マニュアル操作で撮影してきたが、まだまだ「絞り」については分かっていないのが正直な所だ。刻一刻と変わる光の量に、どの数値で設定すれば最適なのか。今度、ネットや雑誌で、風景を撮っている人の写真をまた見ておくことにしよう。僕はまだまだ写真が掴めていない。操作もよく分かっていない。何も理解していない。だからこそ面白い。やるべきことはたくさんある。
 
「絞り」は、光をかき集める役割をしてくれる。
設定を変えると、かき集める量は2倍ずつ増えたり減ったりする。
暗い所では、光の量をたくさんかき集める必要がある。そうしないと暗すぎてカメラに写らないから。
明るい所では、十分に外の光は担保されているので、カメラに取り込む光を制限してあげる。
そんな加減をしながら、最適な写り具合を探り、自分が見た世界と近づける。または、理想とする画面を作り上げる。
 
猫の目を想像すると分かりやすい。
猫の黒目。暗い所では、黒目がまんまるとした形になる。思わず手を伸ばして撫でたくなる欲望に駆られるのは僕だけではないはず。どこか可愛さ溢れる印象となる。黒目を大きくすることで、光をたくさん取り込もうとしている。そのためのまんまる黒目。
一方、明るい場所だと、黒目部分は縦長にキュッと絞られ、なんだか鋭い印象となる。入ってくる光の量を制限しているのだ。
 
あの黒目部分は、つまりカメラの「絞り」と同じだ。外に広がる光の量と、目に取り込む光の量を調整している。カメラみたいに2倍設定で調整しているわけではないが、同じように私たちの目は、普段から絞りを随時調整しながら生活をしている。
 
下の図1を見てほしい。これは面積を2倍ずつ増やしていった正方形だ。カメラや動物の目は正方形ではないが、同じようなイメージで大きくしたり小さくしたりして光をかき集めている。
 

 
ここで、正方形の1辺の長さに注目する。(図2)
 

 
面積を倍にしようとする場合、1辺の長さも倍に…… というわけにはいかない。
この場合、きれいな整数で表すことができない。なので、図のように を使う必要が出てくる。
 
なぜなのか。
それは「相似比」と「面積比」の関係からきている。
相似とは、「形は同じでも大きさが違うもの」を指す。スーパーマリオの初期状態とキノコを食べた状態みたいなものだ。
相似な図形A、Bがあったとする。その大きさの関係が2:3だった場合、面積の比率は : となる。つまり相似比2:3をそれぞれ2乗したものが面積比となる。(図3)
 

 
先程の正方形に が登場した理由は、この相似比と面積比との関係からきている。
ようするに、面積を2倍ずつ増やしたいなら、1辺は倍ずつ増やしていけばOKということ。
 

 
ではここで、を大体の小数で表してみる。 は1.41421356…… と無限に続く小数。ここでは1.4としよう。また、 なので、 が2つあることになる。つまり2.8 と表される。そして、1辺の長さだけを取り出して眺めてみる。
 

 
さてこの数値、写真をやっている方ならピンとくるかもしれない。
これは、写真の「絞り」の数値と同じなのだ。
 
実は、カメラの絞りは「1.4、2、2.8、4 ……」という表記になっている。「1、2、3……」のように、分かりやすい数値にはなっていない。僕も初めて見たとき、なぜこんな中途半端な小数になっているのだろう…… と不思議に思ったものだ。
これは絞りの仕組みが光の面積を倍ずつ減らしたり増やしたりしていることからきている。
倍ずつ変化していく辺の長さが、そのままカメラの絞りとして表記されていることになる。
実際には正方形ではなく、円になっているのだが、仕組みは同じだ。
また、カメラ自体は、2.8や3.2といった、上に挙がっていない数字も登場する。その理由は、面積の1/3倍や1.5倍のように、2倍の間を取っているからだ。
 
ちなみに、なぜか絞り1.4と絞り4とでは、数値の小さい方が光をたくさん取り込む設定となっている。つまり図4のように、数値が小さいほど、正方形が大きくなり、たくさん光をかき集める表記になっている。
 

 
その日の夜、撮影した風景を少しレタッチし、僕のインスタグラムにアップをした。
すると数分後に海外の方から反応をいただいた。
「どういうセッティングで撮影したの!?」
「僕は何もしていない。ただ、シャッターを押しただけさ」
そう、正解はいつも周りに広がっている。僕はただ自分の目を通して世界を切り取っているだけ。借りてきているようなものだ。ただ、その世界に反応するかどうかは自分次第なのかもしれない。まだまだ知らない世界を探りながら、また新しい世界にカメラを向けていくことにしよう。
 
 
 
 
*写真はインスタグラムで公開中!(kensuke__yoshida)

❏ライタープロフィール
吉田 健介(READING LIFE 編集部公認ライター)

現役の中学校教師。教師が一方的に話をするのではなく、生徒同士が話し合いながら課題を解決していく対話型の授業を行なっている。様々な研究授業で自らの授業を公開。生徒が能動的に学習できるような授業づくりを目指している。

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2021-04-12 | Posted in オトナのための中学校数学

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