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アラサーが西国三十三所巡りを始めた理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鈴木優紀乃(ライティング・ゼミ特講)
 
 
巷には「御朱印ガール」なる言葉があるらしい。
御朱印帳を手に神社仏閣を廻り、参拝の記念に御朱印をいただく――。
かつては神社仏閣巡りなんて、大人っぽいを通り越して渋いイメージだったが、最近の御朱印集めはかなりポップな文化になってきているように思う。
奈良の興福寺だっただろうか、御朱印をいただく列で、私の前に小学生とおぼしき女子が2人並んでおり、
「ここの御朱印格好良いよなー」
なんて話していた時など、
「すごい時代になったなあ」
という謎の感慨にふけってしまったものである。
確かに、朱色の判子と黒い筆文字のコントラストは美しい。加えて各所様々な「映える」デザインやカラフルなものも増えてきたし、季節限定、中には一日限定の御朱印もあって、老若男女問わずコレクター心をくすぐられるのだろう。
インスタグラムを見ていると、ご年配の方に
「スタンプラリーじゃないんだから……」
と眉を顰められたり、御朱印を書く方に
「神社とお寺の御朱印帳は別々にしなさい!」
と厳しくされたりしながらも、たくましく御朱印集めに邁進している御朱印ガール(勿論ボーイも)がたくさんいるようだ。
 
私も、ガールと名乗るのは少々気が引けるが、御朱印集めを趣味として早5年。
ただ、今力を入れているのは「西国三十三所巡り」である。西国三十三所巡りとは、近畿・東海2府4県にまたがる33ヶ所の観音霊場を参拝する巡礼のことだ。
私の場合は、去年の暮れに祖母が亡くなったため、その菩提供養のために巡礼を始めたのだった。
実は、祖母がいよいよ危ないとなった時、祖父から私に使命が与えられた。
それは「どこにしまい込んだかもわからない笈摺(おいずる)を探すこと」であった。
笈摺とは、着物の上にはおる薄手の白衣。イメージとしては、四国八十八ヶ所巡りのお遍路さんが着ている白い衣に近い。
巡ったところの御朱印が押されて完成するという代物で、実は祖父母は25年ほど前に2人で西国三十三所巡りを完遂していたのだった。完成した笈摺を棺の中に入れると、徳が上乗せされて、亡くなった人の向こうでの待遇が上がるのだとか……。
叔母曰く、笈摺は1枚しか作らなかった、2枚作ればよかった、と祖母は後悔していたらしい。1枚しかないからおじいちゃんの時に使ってほしい、とも言っていたそうだ。
家探ししてもなかなか見つからず途方に暮れた私は
「おじいちゃんは、おばあちゃんに使ってほしい、って言ってるよ」
と念を送ってみた。
それでも笈摺は出てこなかった。
そこで、意を決して
「わかった。おじいちゃんの分は私が廻ってもらってくるから!」
と念じたら、嘘のようにあっさりと見つかったのである。
90代の祖父のために西国三十三所巡りを完遂するとなると、相当なタイムリミットが課されるが、祖母のためならば仕方ない。
しかし、いざ見つかった袋を開けてみると、笈摺はちゃんと2枚入っていたのだった。
思い込みの強い祖母らしいな、と苦笑いしつつも、笈摺を譲り合う2人に愛情の1つの形を見せてもらったような気がした。
 
そんなわけで、急いで廻り切る必要はなくなったものの、結局私は西国三十三所巡りをすることにした。祖父のためではなく、祖母の供養のためである。
それまでは旅先に御朱印帳を持っていき、観光の記念の1つとして御朱印をいただくだけだったが、西国巡りは専ら寺を目的地として出発することになった。
始めてみてわかったことだが、街中にあるお寺は少なく、旅の途中で立ち寄る、という気軽な感じではないのだ。そこを目的地として出発し、軽く山を登ってやっと辿り着く、という所が圧倒的に多い。
加えて、今回は「各札所に写経を納めながら巡る」というルールを自分に課した。
かつては写経を納めると、その印として御朱印がもらえたというが、今はそのことを知らない人も多い。
三十三枚の写経を書き上げるだけでもなかなかの修行である。
 
これを、心が整う、というのだろうか。
写経し、山を登って参拝をすると、何だかとても清々しい気持ちになる。
その上、徳まで積めるらしい。アラサーが向こうでの待遇を心配するのもなんなのだが、いいに越したことはないだろう。
 
西国巡りは少し敷居が高いかもしれない。
まずは、楽しく御朱印を集めてみよう。
ご先祖様や家族のことをちょっとだけ思い出しながら歩いてみる時間は、きっとあなたの人生を豊かにしてくれると思う。
 
 
 
 
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2019-09-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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