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メディアグランプリ

母と絵本の物語


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:HIDE(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「やっと本当にやりたいことが見つかった気がする。
これから図書館にマメに通って、絵本をたくさん読もうと思うのよ……」と、76歳の母が言った。
 
商売をやめてから約25年間、母は、「自分のやりたいこと探し」を続けてきた。
カメラ、一人旅、水泳、話し方教室、生け花、編み物、コーラス、ノルディックウォーキングなどなど、興味のあることにいくつかチャレンジしてきたのだが、数年するとそのブームは去ってしまい、その度に、「私のやりたいことってなんだろう……」「なんか熱中できないのよ」と、言っていた。
 
「自分のやりたいことがわからない」なんて、やりたいことがたくさんある人には、「なぜ?」と不思議に思うかもしれないが、本当にやりたいことがわらかない人は、少なくないように思う。
「〇〇であるべき」「□□しなければならない」という価値観がたくさんある人ほど、自分の願望をみつけることが難しいからだ。
 
どんな環境で、どんな言葉をかけられて育ったのか、という影響が大きいが、私は昭和という時代の影響も大きいと感じている。戦後の高度成長期には「普通」や「人並」に生きることが大切にされた。「村八分」という日本独特の考え方もまた、「みんな同じが善」という風潮を広めていったのだろう。
 
どんな時代であっても、「個」としての自分を大切に考え、「自分らしさ」を育み、それを発揮して生きた人はいるだろうし、集団の価値観と、「個」としての自分をうまく使い分けて生きる人々はたくさんいるし、いたのだと思う。
しかし、妾腹で妹たちとは違う扱いをされて育った母には、「みんな一緒」が大事で、公平、平等で、憧れでもあったのだろう。そのため、私は母からいつも、「なぜお姉ちゃんたちと同じにできないの?」「あんなだけ、どうして違う考え方をするの?」と、さまざまな「違い」を指摘された。
「私のために……」という親心だったのだろうが、私にしたら、「同じができないあんたはダメな子」といつも言われているに感じていた。
 
「違う」という日本語には、「different」という異なるという意味と、「wrong」という間違えという意味が含まれている。だから、「あなたと私は違う」という意味の「違う」は悪いことではない。
しかし、日本人は、「違うよ!」と言われると、心がザワザワしたり、イラっとしたりするようだ。
それに、「あなたと私は異なるからこそ人生は面白い」と、私は、これまでの人生で学ぶことができた。
今は、姉たちとの「違い」があったからこそ得られた豊さだと本心から感謝しているが、私に「違うことは善くないこと」と教えていた母にとっては、「人と違うこと」は悪いことであったのだ。
だから、「個」としての判断をしないで生きることや、「自分より強い誰か」の意思決定に従うことが、自分を守る最良の選択していた。そして、その結果、「自分のやりたいこと」「心が欲すること」「大好きなこと」がわからないで老女になってしまったそうだ。
 
そんな母から発せられた「本当にやりたいことが見つかった」という言葉は、本当にやりたいことなのか、「やってるといい感じにみえるから」的な人目を意識したものなのかは私にはわからない。
しかし、私達母子と同居してから、自分の本心と向き合う努力をしてくれている母には、彼女が熱中できることが見つかってほしいと……と私は切望している。
 
また、こんなことも聞いた。
「初孫が生まれてた時に絵本セットを送ったのは、自分が絵本を読んであげられなかったからなんだよね……。あんたたちが赤ちゃんだったころは、絵本を買ってあげられるお金も、読み聞かせしてあげる時間もなかったからさ」と、姉の子に送った絵本のことを話はじめたのだ。
 
25年前の母からは、「あの絵本セットは高かった!」とか、「お父さんがいなくたって、やるべきことはしなきゃね!」といった話しか聞いてなかったのに、そんな気持ちがあったとは……。
ものすごい驚いた。
そして、ポロリとこぼれでた「母の想い」に、ちょっと泣いた。
言葉からでてくる愛情を、素直に嬉しいな…とも思った。
 
もしかしたら、当時の私は、母の言葉に含まれる気持ちをキャッチし損なっていただけかもしれない。
その頃の母の言葉にも、少なからず「絵本に対する思い」が含まれていたのかもしれないが、当時の私には、その思いを、感じることも、見ることも、受け取ることも出来なかった。
母の方も、「自分の本音」に目を向けることをしなかったせいで、自分の気持ちを相手に伝えることができなかったのだと思う。
 
未だに、〇〇すべき! ▽▽に決まってるでしょ! 等々の常識や、マイルールのたくさんある母との生活は、私や子どもたちの感情をしばしば波立たせてくれる。
大波が起こるたびに、母や私たちの価値観が露呈する。
その度に、自分たちを振り返る機会になっているが、誰しもが自分の欲求や感情を大切にしながら生きるって必要だ! ということを、同居を始めてからの母の言動に教えられている。
我慢も、自責も、結果的に、妙な緊張感や、対立を悪化させるだけだ。
だから、感情的な意見交換であっても、本当の気持ちをキャッチしあえる母子になりたいと思う。
 
そして、80歳近くになっても、「やり直し」しようとする母ってスゴイな! と思ったりもする。
孫たちとの生活で、致し方なく……、切羽詰まって……という感じも多々あるが、それでも、自分のスタイルを変えてみようするのは、頭が下がる。
私も母も、「お里が知れるね~」とお互いにケナしあうほど上品さに縁はないが、「踏まれても踏まれても立ち上がる雑草のような強さ」は、この母からもらったらしい。
ちょっとだけ誇らしくなる。
 
もし、願が叶うなら、22年前に私に伝えたい……。
「あんた、今は、お母さんに絵本を買ってもらうのよ!」と。
 
長男出産祝いに、自分が欲しかった「木のおもちゃセット」を買ってもちゃってごめんね、お母さん。
今、反省しているよ。
 
 
 
 
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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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