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「好奇心」が「好奇心」を生んで、思いがけず大きな業績に!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:葉田さつき(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「え! 最初の顕微鏡でしょう!」
「見たい! 行きたい!」
 
まるで子供みたいにはしゃいでしまった私。
 
今年の8月、オランダのライデンで開催された、ある細菌の学術学会の総合受付前でのことであった。
参加者の親睦を深めるため、海外の学会では開催中に小さなイベントが開かれることが多く、この日の3時から行われる小さなツアーもその一つであった。
 
「バスで首都アムステルダムに行き、大きな微生物博物館に行くツアー」、「近くの医学科学史博物館に行くツアー」、「ボートで運河をめぐるツアー」、「街中ウォーキングツアー」が用意されていた。
 
私は、アムステルダムの大きな微生物博物館に行くツアーを申し込んでいた。
 
出発直前、各ツアーの集合場所である総合受付前で、仲良くしている大学の先生が、ニコニコしておっしゃった。
 
「近くの博物館に行くんだ。『レーベンフックの顕微鏡』をぜひ見たいから」
 
微生物に携わっている人だとみんな知っていると思われる『レーベンフックの顕微鏡』。レーベンフックは、自作の顕微鏡で、プランクトンとか精子とか、初めて微生物を見た17世紀の人である。「微生物学の父」ともいわれる、その彼の自作の顕微鏡である。
 
「私も、見たい!」
どうしても、近くの博物館に行きたくなった。
申し込むときは、なぜか大きな微生物博物館の説明文に気を取られてしまった。が、今は、『レーベンフックの顕微鏡』を見たい。
 
恐る恐る総合受付の担当者に変更可能か聞いてみた。
「チケットをすでに購入してあるから、変更は無理です」
あっさりと断られてしまった。
 
あきらめて参加したアムステルダムの大きな微生物博物館もそれなりに面白かった。
「あらゆる場所の微生物を探そう」と、微生物を見つけたらスタンプがもらえるスタンプラリーも楽しかった。いろんなカビや水中生物を見られたのも面白かった。
行き帰りのバスからの風景も楽しめた。
 
でも、『レーベンフックの顕微鏡』が見たかった。気になって仕方がなかった。
 
翌朝、関係のないセッションのところで抜けて、『レーベンフックの顕微鏡』に会いに行くことにした。
 
博物館まで近く、徒歩4分といっても、細い道がいっぱいあって、オランダ語は全く分からず英語も苦手な私は、迷ったら大変。総合受付の優しそうな方に、道を細かく聞いて、持ち歩いている愛用の地図にルートと目印を入れてもらった。受付の方々の優しい表情が忘れられない。
 
くねくねした細い道を通ってたどり着いた博物館は、意外に大きかった。平日の昼なのに人もいっぱい。
 
医学史と科学史の専門博物館だけあって、展示は細かく丁寧。
展示は16世紀のライデン大学の解剖の授業のデモンストレーションから始まった。私の目がきらきらしてきたのがわかった。
望遠鏡等天文学の部屋を通り過ぎて、その次の部屋の、ど真ん中に『レーベンフックの顕微鏡』があった。
 
「これなんだ」
 
意外にというか 当たり前というか、とても小さかった。メインの顕微鏡は、高さ10cmもなく、手のひらに収まるぐらい。ほかにも顕微鏡が展示してあったが、どれも小さい。すべて、全体が見えるように、大切に、ピカピカに磨かれているガラスのケースに入っていた。
 
顕微鏡に使ったレンズもいっぱい展示してあった。とても、とても小さい。ハードコンタクトよりも小さい、直径数ミリメートルぐらいものばかりだ。そんな小さなレンズが数十個、いや百は超えていたのかな、というぐらいたくさん展示してあった。厚みも違うのだろうなと思ったけど、よくわからなかった。しかも裸のガラス玉? のよう。今の顕微鏡レンズはしっかりと周りをプラスチックのカバーで保護してあって、レンズ全体を直接触ることができない。プランクトンや植物の微細構造のスケッチ等もあった。こんな簡単な顕微鏡で、こんなに詳細に観察できていることに驚いた。
 
2時間かけて、最後の現代の科学、医学の展示まで見終わった後、私は再度、『レーベンフックの顕微鏡』を見に行った。彼の功績、偉業を再度確認したかった。
 
「彼の偉業? 何だろう?」
「彼は何をやったのだろう?」
 
私は、『レーベンフックの顕微鏡』の小さいこと、500もの顕微鏡を自作し、その顕微鏡で片っ端からいろんなもの見ていったという「好奇心」に引かれた。
 
レーベンフックは科学者でも医学者でもなく、本職は主として織物商だったという。織物の虫食いや織物に虫の卵がついていたら商品にならないので、ガラス製のレンズで細かくチェックすることを仕事柄やっていたという。そして細かいことを見るのは面白い、細かいものをみるためにはどうすればいいか? という「好奇心」から小さなレンズを作り、磨き、顕微鏡を作り、それで見ると細かなことがわかることに気づき、身の回りのいろんなもの見ていったという。
 
「好奇心が好奇心を刺激」し、さらに顕微鏡を作り、いろんなものを観察していったのだと思った。
 
レーベンフックは学者ではなかったので、この観察を発表する方法を知らなかったし、持っていなかった。ある時、街の有力者が当時の科学的権威であるロンドン王立協会に「レーベンフックの観察した記録」紹介し、評価されたという。
 
彼、レーベンフックの功績とは、「顕微鏡で微生物を初めて発見したこと」もあるが、それよりも、「小さいものや細かい部分を見たいという好奇心を形にしていった」ところではないだろうか?
 
彼は微生物を発見するために顕微鏡を作ったわけではないと思う。顕微鏡を通し、小さいものや細かい部分を見て、新しい世界が見えて面白かったから、さらに顕微鏡に改良を加え、いろんなものを観察していったのだろう。
 
もちろん、レンズを作り、磨いて、顕微鏡にするという技術も必要だ。その技術の元となった織物を細部にわたってチェックする技術だけでは、新しいことを発見することには不十分で、「細部を見たいという好奇心」が不可欠だろう。仕事で培っていた技術を好奇心のためにうまく利用していったのだと思う。
 
「日常のちょっとした好奇心を大事にしていきたい」
 
『レーベンフックの顕微鏡』をみて、強くそう思った。
現在は、ネットという誰でも発信できる情報ツールもある。いろいろな技術、ツール、調べる方法、成し遂げる方法も当時に比べると多くあるだろう。
 
「小さな好奇心を育てよう!」
「好奇心を形にできて、記録になれば、さらに、何かの役にたてれば、なお良し」
 
 
 
 

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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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