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キモいと言われた息子に自信をくれたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岡田ゆり子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「髪型がキモいって女子に言われた」
 
夕食時、十二歳の息子がぼそっとそう言うと、目に涙を貯めて俯いた。
 
本人の希望で少し髪は長めではあるが、毎日シャンプーしているし、不潔だとか気持ち悪いほどではないと思う。アメリカの子どもたちは、日本よりも外見を気にし始めるのが早いようで、息子が言うにはワックスなどで髪の毛をセットしている、おしゃれに気を使う男子も多いのだとか。
 
子供に辛い思いをさせたくないと、いろいろ調べて、評判の良いおしゃれなヘアサロンに息子を連れて行って、すっきりカットしてもらった。自宅でできる髪の毛のセットの方法やおすすめのワックスも美容師さんから伝授してもらい、それ以降ヘアスタイルの事でキモイと言われることはなくなった。
 
私の息子は父親がアメリカ人、母親が日本人のいわゆる「ハーフ」だ。
 
二、三年前から息子は、「僕が半分日本人だから、友達ができないし、話しかけても、みんな無視してどこかにいってしまんだ」と、友達が少ないことを日本人だからと理由付けするようになった。
 
アメリカは人種のるつぼと言われているが、我が家が住む町は少し都市部から離れていることもあり、白人が大多数の環境だ。見かけが違うマイノリティということで、仲間はずれの対象になりうる可能性は否定できなかった。
 
髪型や服装なら変えられる。でも自分の半分が日本人だというルーツは変えられない。日本人の私としては、日本人であることを卑屈に思わないで、誇りに思ってほしいし、外見や人種で差別されるべきではないということを息子にわかってほしかった。だから私は息子に提案した。
 
「日本人という理由で、話しかけても無視されるんだったら、人種差別になるから学校の先生に相談しよう」
 
「そういう奴らは先生の前ではいい子ぶっているんだ。だから学校に言ったって何も変わらない」
 
と、息子は学校に相談することを拒んだ。親がしゃしゃりでて、事態を悪化させるのは良くない。彼の意見を尊重して、私は暫く事態を見守ることにした。
 
それでも息子は「日本人だからみんなが相手にしてくれないんだ」ということを時々口にした。彼なりに、自分から話しかけたり、努力しているようだったが、なかなか気の合う仲間が見つからず、孤独で辛かったのだろうと思う。友達作りが苦手な私は、痛いほど彼の気持ちがわかった。
 
「友達なんて、数が多いのがいいわけじゃない。 本当に信頼できる友達が少しいればそれでいい」
 
「中学時代なんて、市立だったら同じ市の子どもたちだけの狭い世界で、大学や社会人になればもっといろいろな価値観の人と出会えるし、さらに気の合う仲間に出会えるチャンスがある」
 
と慰めの言葉を掛ける。しかし、まだ十二歳の彼にとって、大事なのは「今」で、数年先の事を言ってみても現実味がなく、私の言うことに納得できないようだった。
 
私は「ハーフ」ではない。育った環境も異なる。息子と全く同じ立場に立って共感したくても限界があった。私と夫は彼に、どんな事があっても、いつでも彼の味方だということを伝えて、見守ることしかできなかった。
 
そんな事が続いたある日、息子が、「明日は学校に居残る」と言う。放課後、同じ学校のマイケルに日本語を教えることになったらしいのだ。彼は日本のアニメにはまって、日本に興味が湧き、日本語を話せるようになりたいと、日英バイリンガルの息子に日本語を教えてほしいと頼んできたそうなのだ。
 
それ以来、同じ学校で日本のアニメが好きな男子が芋づる式に見つかった。以前は、アニメはオタクの趣味だからと、アニメに一線をおいていた息子だったが、友達の影響で「NARUTO」や「進撃の巨人」等を観るようになり、アニメの主題歌も聞くようになった。アニメを通じて、少しづつ気の合う仲間が増えて、以前のように、日本人だからとくよくよすることが減って、いろいろな事に自信がついたようだった。
 
今年、六月末から始まるアメリカの夏休みを利用して、日本の中学校に行ってみたいと息子が言い出した。ちょうどハーフのお子さんが虐めにあったり、それが原因で引きこもったりするという日本の社会問題の記事を読んだばかりだった。心配だったが、本人の意思を尊重し、私の母校に受け入れてもらう手続きを取った。放課後は陸上部にも参加することになった。
 
初日、部活を終えて帰宅した息子に、学校がどうだったか聞いた。
 
「楽しかった」
 
その一言でホッとした。朝一番の自己紹介で、日本のアニメが好きだと言ったら、その話題で一気に友達と打ち解けられたのだそうだ。
 
日本を代表する近代文化の一つ、アニメは大阪のおばちゃんがカバンに常備している飴ちゃんのようだと私は思った。大阪のおばちゃんが、電車で隣り合わせた見ず知らずの人に飴を差し出すと、そこから打ち解けて会話が始まる。それと同じように、日本のアニメは、人種や文化を超えて、コミュニケーションを深めるための一つのきっかけになるのだと。
 
三週間の日本での充実した中学校生活を終えて、アメリカに帰国した。その翌日、日本の中学で知り合った二人の女子から、「付き合ってほしい」と息子にラインが送られてきた。恥ずかしそうに私に相談してきた息子は、
 
「遠距離恋愛は難しいよ」
 
と言いながら突然やってきたモテ期にまんざらでもなさそうだった。
 
 
 
 

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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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