メディアグランプリ

日本語がわからない外国人が、ボカロでJ-POPを作った


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:本間佳奈子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
人間には2種類しかいない。創作する人間と、創作しない人間だ。
友人のシンガポール人アイバンは、日本語の読み書きが全くできない非日本人=外国人だ。
 
彼の趣味は音楽。ギターやパソコンで一人で作曲することもあれば、同じ趣味を持つ仲間と一緒に曲を作ることもある。作曲した音源をまとめて、たまにインターネットで「アルバム」を発表している。この文章は、そんな外国人による、日本語アルバム作成にまつわる話だ。
 
ある日、アイバンからFacebookメッセージが入った。
 
「ヤマハ製のボーカロイドソフトを購入した。日本語の歌を作って、このボーカロイドに歌わせたい」
 
という。つまり、ボカロ曲を作りたいという。しかし彼は、日本語がわからない。
 
そこで彼は、日本人である私に依頼があるという。作詞を頼みたいわけではない。歌わせたい歌詞は、彼が英語で書いたものが既にある。彼が書いた英語の歌詞をグーグル翻訳で日本語化し、ボーカロイドのカオリに歌わせた録音も既にある。しかし、と彼はいう。
 
「私には日本語がわからないので、表現のこまやかな部分におかしいところが含まれていてもわからない。日本語ネイティブとして歌詞を読んで、歌を聞いて、変なところがないかチェックしてほしい」
 
彼は最近、YouTube などで日本の民謡を聴くのにはまっていた。その独特の響きが気に入って「さくらさくら」など、いくつかの日本語民謡のカバー曲を作った。それでは飽き足らず、自分でも日本語の歌を作ってみたくなったのだという。
 
私も音楽は好きで、ピアノやギターを習ったことはある。しかし楽譜に書いてあるとおりに弾くだけで満足して、自分で作曲しようなどとは夢にも思わなかった。だから「作曲が趣味だ」という友人のことを「すごいやつだな」と思っていたが、「日本民謡にインスパイアされて、自分でも日本語の歌を作りたくなった」というのは私の想像の斜め上をいく創作意欲で、めちゃめちゃ驚いた。
 
さらに自分が日本語ができないからとあきらめず、日本語を歌えるボーカロイドを入手し、機械翻訳の力を借りて日本語の歌詞を作り、さらにネイティブの日本人に声をかけて完成度を高めようとは……驚愕した。
 
彼が作詞作曲し、ボーカロイドのカオリが歌った「さようなら、星(Good bye, Star)」という曲は無事に完成し、YouTubeにも上がっている。まさか日本語がわからない人間が作ったとは思えないクオリティなので、気になる人は探してみてほしい。
 
しかし、アイバンが最近作った楽曲は、ボカロ曲だけではない。ボカロプロジェクトとは別に、彼は別のシンガポール人友人をボーカルに招いて、10曲程度のアルバムを録音する取り組みをしている。
 
そのアルバムの中の一曲が「さくらさくら」のカバーだった。その歌ははじめ、アルバム全体のボーカルを担当する女性が歌う予定で準備を進めていた。しかし問題は、彼女もやはり日本語がわからないことだった。ある日、アイバンからのメールが来た。ローマ字で歌詞を入手してボーカルが歌った録音があるので、聞いてみてほしいという。
 
「それから、正しい日本語の発音を確認したいので、もしよければ「さくらさくら」の歌詞を朗読して、録音ファイルを送ってくれないか?」
 
日本人である私にとって、「さくらさくら 野山も里も〜」という、小学生のころ歌った民謡の歌詞を読み上げるのは、まったく大したことのないことだった。懐かしい歌詞の全文をネットで見つけ、スマホを使ってパパッと録音したものを送ったところ、アイバンはそれを大絶賛。外国人が聴いてもわかりやすいように、簡単な節をつけたのも、良かったらしい。その録音をもとに私の声をボーカルにして、カバー曲がひとつ出来上がった。スマホで録音した自分の声も、彼の手にかかると立派な楽曲になっていた。こちらもびっくりな出来事だった。
 
彼の作曲プロジェクトに関わってみて、創作活動は、花火みたいなものだと感じた。
 
打ち上げ花火でも手持ち花火でも、美しい花火を咲かすには火薬という爆発力がないと、始まらない。創作活動の始まりは、いつでも創作者の持つ表現欲という火薬なのだろう。でも花火は、1人でするよりも誰か共にしたほうが、楽しい。特に手持ち花火だと、人を巻き込めば巻き込むほど、楽しくなる。
 
私は、創作者は孤独なものだと思っていた。それはおそらく間違っていない。
 
しかし、創作活動というのは孤独なだけではなく、人を巻き込むことによって広がりと楽しさを生み出す花火のような側面があるのだ。ひとりきりで何かを作り出そうとして自分の不足を嘆くくらいなら、自分の想いという火種の可能性を広げるために周りの人を仲間にする努力をしてみればいいじゃないか。あきらめることはない。そこに作りたい・伝えたい想いがあるのなら。
 
そんなことを教わった、夏の出来事だった。
 
 
 
 
***
 
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/zemi/97290
 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事