メディアグランプリ

トイレからの出発


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:古川ひろみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「プロジェクト発足しました」
 
ある日トイレに入り便器に座り、用を足そうと顔を上げるとドアに紙が貼りつけられていた。
また母が何か思いついたらしい。
まるで「冷やし中華はじめました」みたいな口調だ。
もう秋だぞ。
 
母はこうやってよくいろんなことを思いついては私たちを巻き込んでいく。
 
子供のころは夏になるとよくすっぽんぽんでベランダに出されていた。
とりあえずよしずで仕切られているとはいえ恥ずかしかった。
よしずからはみ出せば向かいのマンションからは丸見えなのだ。
子供ながらに羞恥心はあるのである。
 
弟と一緒に秘密のしてはいけないことをしている高揚感と共に
くっつきながらベランダに出たのを覚えている。
 
ではすっぽんぽんの私たち姉弟に母が何をしたのか?
 
ものすごい笑顔でホースで水をかけてきました。
 
今なら虐待で通報されても仕方ないと思う。
 
母の思考はこうだ。
 
夏は暑い。
プールとか水浴び気持ちいいよね。
行くのは面倒だよね。
あ、シャワーあるじゃん。
え?お風呂とかより空見えたほうがプールっぽくない?
ベランダでしたらいいんじゃない?
プールに空気入れるの面倒。
シャワーもホースも同じようなもんだよね。
子供だしすっぽんぽんでいっか。
水着も裸も一緒一緒。
 
からの、ホースで水ぶっかける。
 
雑。
思考が雑である。
 
きっと私たちと遊ぼうとか楽しませようと思ってたんだろうが母も遊ぶ気満々だった。
私たち、で。
 
ものっすごい笑ってたもの。
大人のはずなのに子供みたいに笑っていた。
思いつくことも実行することも5歳くらいの私たちと同レベルで楽しむ。
そんな母。
 
さぁ、今度は何を思いついたのだ?
 
トイレの貼り紙には続きがある。
母の説明はこうだ。
 
Let’s find 100 good points!
 
◇プロジェクト名
いいとこ100個プロジェクト
 
◇目的
自分って素晴らしいを視覚で受け取る
 
◇目標
100個見つける
 
◇実践項目
・家族分の100個シートを作成する
・トイレに貼る
(トイレに座ると勝手に脳が家族のいいところを検索する仕組み)
・嘘を書かない
・ディスらない
・自分でも相手でも書いていい
・書かなくてもいい
・書かれたことに けど だって 言わない
・受け取る
 
そしてエクセルで表を作ってある。
 
You are so wonderful.
I love you as it is.
You are wonderful as you are.
 
あぁ、これは私のためにつくったプロジェクトだ。
 
今夏、父が出て行った。
会社の台湾人と不倫をして母と受験生の私と弟を置いて出て行った。
家族より女がいいと言って出て行った。
どうして俺が我慢しなくてはいけないのかと大声で喧嘩している声を夜中何度も聞いた。
 
母は荒れた。食事ものどを通らず泣くばかりで怖かった。
土台が、足元が、底が抜けたと思った。
いい加減にしてくれとも思った。
受験生だぞ。
自分のことだけ考えたかった。
 
もともとネガティブではあるがますます学校が楽しくなくなった。
薄っぺらく感じた。
学校に行かない日が増えた。
恋愛もうまくいかなくなった。
ふられた。
なんのために生きて、何のために受験するのかわからなくなった。
もともとわかってたか?といわれるとわかってなかったとも思う。
 
父のせいではないことはわかっている。
タピオカを見たらイラッとするのがお門違いだということも。
 
母は私のこんな状態に気付いている。
 
母は泣くのが減った。
父が目の前から消えてイライラするのが減った。
でも無理しているのも知っている。
平気なふりをしようとしている。
私も母の状態に気付いていた。
 
母自身のためでもあるが、これは私のためにつくったプロジェクトだ。
人生を立て直すために母が考えた家族のためのプロジェクト。
 
いいところを100個みつけてみよう。
あなたはとっても素敵。
そんなあなたを愛している。
あなたはあなたで素晴らしい。
 
言い聞かせるようなメッセージ。
トイレに入るたびに目の前に現れる。
 
このプロジェクトが発足してから
少しずつ自分のいいところが増えていく。
最初は面倒くさそうにしていた弟も書いてくれているのを知っている。
そんな風に思ってたんだと知ることは照れ臭くも悪くない。
 
私も弟のいいところを書く。
自分のいいところは見つけづらくても人のいいことは見えやすい。
 
私って素敵じゃん。
いいとこ100個もあるじゃん。
これもいいとこなんだ。
一人じゃない。
 
トイレで一人にやついてしまう。
一人だからバレない。
 
これは愛の手紙だ。
形が変わり不安定になった足元をもう一度再構築するために
母が考えた、家族を巻き込んだプロジェクト。
 
トイレから、さぁ始めよう。
 
 
 
 
***
 
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2019-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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