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歩く姿勢は、生きる姿勢


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:水野雅浩(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「おばあちゃんが、病院に運ばれたのよ」
 
去年の秋だった。
電話の向こうの母の声は、少し震えていた。
聞くと、老人ホームにいる祖母がベッドの角に足を引っかけてしまったという。
大腿骨頸部骨折だった。
 
祖母の転倒。
しかも太ももの骨折の知らせを聞いて「とうとう来たか……」
祖母の姿を思い浮かべた。
 
元気な時分、祖母は凛とした姿勢でシャキシャキ歩き、最後まで身の回りのことをこなした。厳しさもあるがいつも暖かく迎えてくれる祖母を私は大好きだった。私は小さい頃、不慮の事故で右腕から背中にかけて大きなやけどをし、病院通いや療養生活が長かった。その頃、子供ながらに一番きつい時期を、一番時間をかけて、一番愛情を注いでくれたのが、私の面倒を見てくれたのは祖母だった。私は生粋のおばあちゃん子なのだ。
 
その影響があるのだろうか、私は新卒から介護サービスの会社で働いた。10年間、在宅介護、有料老人ホーム、グループホーム、デイサービス……。 あらゆるシーンでのべ7,000人を超える高齢者の方々に会ってきた。そしてその過程で、高齢者が寝たきりのきっかけとなるシーンにも少なからず立ち会ってきた。それが、転倒だ。
 
転倒の中でも、大腿骨骨折。人間の骨の中でも最も太い、太ももの骨。
ここを折ってしまうと、寝たきりになる確率が、高かった。
そして、寝たきりのまま死に至る確率も、高かった。
 
週末、福岡から祖母が入院する病院にお見舞いに行くと、祖母は寝ていた。ふっくらしていた祖母は随分と痩せ、枯れた落ち葉を連想させた。それでも、不思議なもので「おばあちゃん」 と声をかけると、目をバチリと開けた。 私の顔を見ると、「まあちゃん、ごめんね、ごめんね……」 と涙をボロボロこぼしながら謝った。
 
祖母が謝ることは、一つもない。
ただ、祖母も、「転んだら終わり」ということをどこかで感じ取っていたのだ。
祖母は、その年の冬に静かに息を引き取った。
97歳だった。
 
私は介護の仕事をしていたからか、祖母の転倒をきっかけにしてか(きっとその両方なのだろう)、老若男女の「歩く姿」を気にするようになった。
 
まず、気になるのは、「すり足」歩きの人だ。
 
靴を履いていても、足を上げずに小股でスリッパ歩きのように歩く。こういう歩き方をしている人は概して女性が多い。足を持ち上げていないので、筋肉が少なく太ももが極端に細い。気をつけなくてはならないのは、すり足の人は、下半身の筋肉が少なく、体のバランスが保てずに転んでけがをすることが多いことだ。
 
次に気になるのは、「猫背歩き」の人だ。
 
今は、スマホを片手に歩く人が多いので、猫背の人が増えたな、と思う。高齢者にも猫背の人が多かった。首が前に倒れ、体の重心が前にあるため、ちょっとした段差でつんのめって前に転倒し、手首などを骨折していた。現代人のビジネスパーソンは、まだ、転倒しないまでも、猫背の状態が長くなることで、肺や内蔵が圧迫されて酸素と血液のめぐりが悪くなり慢性的な、肩こり、胃痛、便秘に悩まされているだろう。
 
最後に、気になるのは「重役歩き」をしている人だ。
 
これは50代の男性に多い。お腹を突き出して胸を張って歩いている。目線は上を向き、頭は背中から落ちてしまいそうだ。重心が後ろにあるので背中や腰が悪くなるだろう。
 
この3タイプに共通しているのは「歩くのが遅い」ということだ。
 
2010年のハーバード大学准教授らが発表した興味深い報告がある。40~65歳の女性13,535人の歩行を調べたところ、70歳になった時の、がん、や糖尿病、脳疾患、心疾患認知症上にならずに済む割合は、遅い人を1とすると、早い人は2.68倍も高くなっていた。
 
すり足歩きであれ、猫背歩きであれ、重役歩きであれ、
歩くのが遅くていいことは一つもない。
 
若い頃は歩き方には無防備だった。
それを補って有り余る、若さのオーラがあったのだ。
 
しかし、40半ばになった今、ショーウインドウに移る姿がだらりと筋肉が弛緩しきっている自分の姿を見て、はっとする。実年齢と体年齢のギャップは、思いのほか開いている。知らないうちに、歩幅が狭くなり、歩行速度は遅くなっていたのだろう。
 
どんな歩き方の人を目指したいのかを意識の底に置くと、
どんな生き方を選択するのか、そのものの選択のように思えてくる。
 
歩き方は、自分でコントロールできる。
自分で、かじ取りができるのだ。
 
私は、どうせなら、若々しく風を切って歩きたい。
 
歩くときは、顔を前に向けて、背中をまっすぐに。
足のスライドを大きく。
 
街中を歩く時は、自分の前を歩く人を抜かしていこう。
きっと、歩くスピードも上がっているはずだ。
 
私たちは、明日の仕事のアウトプットの量と質を高めつつ、あと50年後のことも同じ熱量で視野に入れながら、今日の行動を決めることが求められる人生100年世代だ。
 
どう歩くかは、どう生きるかだ。
 
自分の人生を舵取りするがごとく、まずは、目線を遠くに、大股歩きで前の人を追い抜いていくことから始めよう。今日を力強く生きるために、50年後も力強く生きるために。
 
 
 
 
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2019-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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