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メディアグランプリ

ハトの野郎、無茶しやがって


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:郡山秀太(天狼院ライティング・ゼミ特講)
 
 
ハトが嫌いだ。
 
仙台市へ引越しして、現在10階建てマンションの8階に住んでいる。築40年で経年劣化した無人ビルのようなマンションだったが、最近外壁塗装が行われ、小綺麗なレトロマンションになった。
 
季節は春。さわやかな季候とフレッシュな気持ちとともにベランダにあいつらがやってきた。
 
ハトだ。
 
前の部屋は2階だったから知らなかったが、ハトって高いところに住むらしい。朝、どこからともなくバサバサ飛んできて人のベランダを「なにか?」という顔でうろうろするようになった。
 
毎朝、ハトの鳴き声で起こされる。
 
文字にするとさわやかな感じだが、動物の鳴き声はわずらわしい。不機嫌な私がハトを睨んでいる。
 
「クルックー」
 
挑発的な鳴き声だ。一旦追い払っても、顔を洗って戻ってくるとまたそこにいる。
 
マンションは昨年の終わりから今年の2月にかけて外壁塗装が行われ、錆びだらけだったベランダも新築のように塗り替えられた。誰も住んでなさそうなマンションはピカピカのアイボリー色に変身。
だが、ハトはそんなのお構いなし。彼らとってはベランダが家でトイレだ。
綺麗だったベランダには点々と彼らのアレがいるようになり、週末まとめて掃除するという仕事が増えてしまった。彼らのアレを見るのは本当に気が滅入るので奮起し綺麗にすることを続けていた。
 
もちろん、なんとかしようと努力した。
ハト対策として売られていたギザギザのプラスチックフィルムをベランダの手すりにつけてみた。はじめはハトも警戒していたが単なるギザギザした置物だとわかると普通にその上を歩く。
 
ベランダ全体をネットで覆うことも考えた。プロに頼むと10万以上かかるというがそこまでやるのも癪だし、自分でやると地上8階からダイブしてしまいそうだったので諦めた。
 
そもそも、有り余る時間をもった野生の動物に、毎日仕事に行きベランダを明け渡してしまう人間が勝てるはずがない。
空き巣に狙われた警備が手薄な家は、留守中、犯人のやりたい放題なのだ。
 
私は、こう思うことにした。
彼らは風景の一部。気にしない。
それが重要だと自分に言い聞かせ、無視することに決めた。
 
そんな悟りを開き、数ヶ月がたったある日、いつものように不機嫌な顔で
ベランダを確認すると、いつもとは違う雰囲気で隅の方に一匹、ひっそりと座っているハトがいた。周りには枝が敷き詰めてあり、巣が作られている。
しばらく観察していると、じっとそこを動かない。近付いてもチラッとこっちを見るだけで逃げようとしない。なにかを守っているかのように感じた。
 
やられた。
このハトは母ハトで、たぶん卵を温めている。
 
この野郎。
 
公共放送のテレビ番組だったらここは感動的なBGMが流れ、ハトの顔にゆっくりズームインなのだろう。
いかんせん。いままでのハト達への所業のせいで心が狭くなっていた。
だから、この野郎だ。
 
この野郎とクチにした理由はもうひとつある。ハト対策を調べるなかで「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」という環境省が定めた、ありがたい法律があることを知った。卵やヒナがいる場合、勝手に巣を撤去する場合は法律違反にあたるのだ。撤去する場合は市町村の許可まで必要とのこと。
もう自分だけではどうしようもないのだ。
 
母ハトを発見したのは10月頭。数日たっても相変わらず、じっと卵を温めている。
 
そんなとき、あの台風19号が発生。
関東で猛威を振るい、その勢力はそのまま仙台へ。
 
バタバタバタ! ドドド!
正体不明の轟音。
叩きつけるような豪雨。
台風は何度も経験しているが、これはかなり強力だ。
 
そんな時、ふと、ベランダの母ハトは? と思った。
普段、近づいても逃げず、卵を守っていた母ハト。
バタバタバタ! ドドド! 外は変わりない。
もう逃げているだろうと思い、窓越しにベランダを確認した。
 
「マジかよ」
 
この台風のなか、母ハトは相変わらず、そこに座っていた。
鎮座。鎮座ドープネス。
この台風なのに。
卵を温めて続けている。
卵を守り続けている。
はからずも、グッときた。
 
暴れん坊台風が去った。
外に出ようと1階に下りるとエントランスが泥だらけ。我がマンションも浸水していた。テレビのニュースはずっと台風被害の内容を流し続けている。
台風19号は大きな傷跡を残した。
 
しかし、台風のおかげで、ハトへの印象は大きく変わった。
あの健気な姿を見て、母ハトを応援するようになった。
ベランダを見ては「今日も頑張ってるな」と毎日安心した。
 
母ハトの件があってから他のハトにも寛容になった。
ハトがなに食わぬ顔でベランダにいても睨む私はもういない。
ベランダをトイレ代わりにされても「しょうがないなぁ」と昔ほどイライラしない。
 
むしろ、可愛い。
 
あの台風がなかったら私はハトを嫌い、毎日ストレスを感じ生きていた。
そんなハトにも共感できるところがあれば、可愛く見えてくる。
最初は嫌いだった人を後から好きになってしまうストーリーがハトと私にあったのだ。
 
齢33歳、小動物へ寛容になるという、ひとつ大人の階段をあがった。
 
今ならどんな動物も愛せる気がする。
 
 
 
 
***
 
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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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