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メディアグランプリ

観察が80%


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高橋将史 (ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「では、これから皆さんには、目の前にある絵の一部を描いてもらいます」
背の高い、きれいなグレーの目をした男は、こう呼びかけた。
 
迂闊だった。
会議室くらいの大きさの部屋には椅子が何脚かと、壁に掛けられた水墨画があるだけで、ぼく以外に日本人は一人もいない。左隣に座っている中年の白人女性はどうやら専門的な教育を受けているらしく、これまた講師と思われる男性と、絵画の技法に関する議論を繰り広げている。
おそらく気分が高揚していたのだろう。初めてのハワイ旅行で、その日は一緒に来ていた家族とは別行動ができる日だった。気の向くままにホノルルの街を散策できる、開放感から完全にハイになっていたに違いない。
ぼくは一人で訪れたホノルル美術館で、ほんの好奇心から、館内の一室で開催されていたワークショップに飛び入りで参加することにしたのだ。
もともと美術作品を見るのは好きだし、英会話だって観光地でのコミュニケーションくらいなら支障なく行える。
しかし、そこで行われていたのはネイティブ同士の会話、通訳なんて親切なものは当然あるはずもない。そもそもぼくは美術に関して全くの素人だ。アート関連のワークショップだなんて日本語でも理解できるかどうか分からないのに、いわんや英語で理解しろだなんて到底無理な話だ。しかもいきなり絵を描けだなんて、無茶ぶりもいいとこだ。デッサンなんて当然中学の授業以来やったことがない。せいぜいノートの端の落書きくらいだ。
とはいえ、自分から飛び入り参加した以上、途中で退出するのはあまりにバツが悪い。
それに、講師の話を聞く講義形式の時間から、おのおので絵を描く個人ワークの時間になったことで、ようやく思考も冷静に働いてきた。
「待てよ、ぼくは観光客だぞ。たとえ絵の出来栄えがお粗末だったところで、ここにいる人たちと再び会うことはまずないのだ。何を恥じらうことがあるか。それに、せっかく海外に来たのだ、日本ではまずやらないような経験をしてやろうじゃないか」
ポジティブなのかネガティブなのか、よくわからない思考回路のおかげで、ぼくは腹をくくることができた。
この難局、勢いで乗り切ってみせる。
 
悪戦苦闘の末、なんとか見られる形までアウトプットを完成させることができた。絵を描き上げたのは、参加者の6人の中で一番遅かった。
 
ワークショップが終わった後、ぼくは講師の男性と話す機会があった。彼の名前はデイビッドといった。
「やあ、実際に絵を描いてみて、感想はどうだった?」
海外のTVショーの司会者のような爽やかな笑顔とともに、デイビッドは問いかけた。
ぼくはこう答えた。
「普段あまり絵を描くことがないので大変でした。ですが、じっくりと絵を観ていると、なんだかとても深い意味があるように思えてきました」
 
実際に絵画を模写してみるとよくわかるのだが、いざ絵を描こうとなると、筆を動かす前に描く対象をじっくりと観察しなければいけない。
ぼくは課題の水墨画の中の一部分、洞窟の中に流れる滝を描いた。はじめは単なる滝と湖、鍾乳石のアーチにしか見えなかったものが、見つめているうちにだんだんと奥行きが出てきて、さらには流れる水やごつごつとした岩肌の質感までもがリアルに感じられるようになった。果てには、作者は洞窟のようすを描くことで何かしらの哲学的なメッセージを観る人に伝えたかったのではないかとさえ思えてきた。
ものすごく濃密な時間だった。初めて芸術を本当の意味で鑑賞できたような気がした。
「岩の表面は墨が何層も重ねて塗り込まれているのに対し、滝や湖面の部分は敢えて何も描かないことで水があることを表現している。これはとても長い時間をかけて今の形を作り上げた岩石と、絶えず移り変わる水の流れとの対比を表しているように思えたんです」
自分の持っているボキャブラリーを総動員させて、ぼくは先ほどのアート体験で得ることができた感動を、ぎこちない英語でデイビッドに伝えた。
一通りぼくの話を聞き終わったのちに、デイビッドはこう語ってくれた。
「いいところに気が付いたね。アートの80%は観察なんだ。
観察することに比べたら、絵のうまさや技法なんてものは、実はそこまで重要じゃない」
 
“80% of art is observation.”
 
中学生でも理解できるような、わずか5ワードの言葉は、深い含蓄がこめられているようにぼくの耳に届いた。
アートに限らず、何かをアウトプットするときには“Observation”、つまりその対象をじっくりと見つめることが大事なんじゃないだろうか。
ただ見ればいいというわけじゃない。対象となるものごとと真剣に向き合い、自分の想像力をフル回転させながら、気づいたことや頭の中に浮かんだイメージを具体的な形で表現する。アウトプットを前提とした、本気の観察だ。
するとどうなるか。それまで自分にとって無意味としか思えなかった日常の些細なものごとが、何か意味のある物事であるかのように思えてくる。
「普段使っている電車の車両番号には、どんな意味があるんだろう」
「ここ数年の間に、地元でインド人のカレー屋さんが増えたのはどうしてだろう」
「何でこの本は売れているのだろう」
観察することによって、世界は今よりもずっと好奇心を刺激する、エキサイティングな場所になる。
 
さらに自分にとって幸運だったのは、観察することの面白さに気づけたのが、ハワイという非日常的な場所だったということだ。
何かを見つけたり新しいことに気づくためには、自分にとって未知のものごとに思い切って飛び込んでみることが、観察すること以上に重要なのだから。
 
 
 
 
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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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