メディアグランプリ

55×91の中に込められた思い

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:京オさとみ(ライティング・ゼミ特講)
 
 
55×91
この数字は何を表しているのか分かるだろうか。
 
女性の手のひらにのるほどの小さくて、
風が吹いたら飛んでしまうほど薄っぺらい。
それでもって、忘れん坊の人にとっては時には救世主になるモノ。
 
または、おじさん達の形式ばった挨拶を仲介し、
打ち合わせのテーブルに整列させる厳しく順序が定められており、
出会った人の数だけ、机の中を侵食していく。
そして、捨てるタイミングに困るモノでもある。
 
もう、お分かりだろう。
 
それは、名刺だ。
 
新人の頃は、これによく泣かされた。
 
広告代理店に就職した私は、デザイナーが仕上げた、何十枚の名刺のデザインを
一つ一つ、文字の間違いがないかをチェックするのが私の仕事だった。
一枚一枚ではなく、一文字一文字だから、なかなか作業が進まないし、
何よりも、つまらない。
そして、社員が100人以上の企業名刺の場合は、
部屋番号が8とか9とか違うだけだから、間違いを見落としてしまうこともあった。
 
今みたいに、コピペもできない。
 
「名刺を作るのって、つまらんわー」と、ずっと思っていた。
 
それなのに、よく名刺のデザインを頼まれるのだ。
なんとも皮肉なことである。
 
そんな思いを抱えながら、また名刺のデザインの打ち合わせをしていた。
「名刺ってだいたい同じデザインになるし、小さい仕事ですよね」
という私に、当時仲良くしていた先輩デザイナーから
こんな話を聞かされた。
 
デザイナーは、小さな子供を見るような表情でクスッと笑い
「ねえ、名刺って4種類あるって知っとる?」
 
私は、「紙の種類?」「大きさ?」
「わかった!色の種類!」と、当時のありったけの知識で答えた。
 
スケッチブックを広げながら
「どれも間違いじゃないけど、正解でもない。」
 
彼が言うには
名刺には、大きく4種類のものがあるらしい
①名紙(メイシ)
名前、住所、連絡先といった、相手に情報を伝えるだけのもの。
大きな企業には、このタイプが好まれる。
何故なら、個人の特色を出す必要がないからだ。
 
②名刺(メイシ)
名紙に加えて、目に止まる仕掛けがほどされ、写真やイラストを使い
印象に残すようにデザインされているものだ。
記憶に刺さると言う意味での名刺だ。
 
そして
③名志(メイシ)
個人で動かれる人が多く望むタイプで、
仕事に対する姿勢や、自分のまっすぐな想い、何故この仕事をやっているのか
どんな人の役に立てるのかが、細かく設計され言葉とデザインに落とし込まれているものらしい。
名紙と名刺との大きな違いは、もち主の「情熱と思い、願い」いわゆる「志」が込もっているかだと言う。
 
そして
こう付け加えた
「メイシには、それぞれ持ち主にとっての目的と役割があるから
それを、しっかりと聞いて カタチにしていくことが大事。
だから、今のあなたが作っているのものは 名死(メイシ)だね」と。
 
この時に受けた衝撃は、今でも忘れられない。
ピノキオの長く伸びた鼻を目にも止まらぬ速さで折られたようなものだ。
 
目だけをパチクリ パチクリさせて無言になっている私に
「まあ、僕も最初はそうだったから、
今度は、あなたが誰かにそれを伝えるのが仕事だからね」
 
①食べるため、家族のために働く人。
②自分の夢に近づくために働く人。
③誰かの役に立ちたいと思って働く人。
 
どれも正しくて、間違っていない。
だから、自分は、どんな働き方をしたいかを考えて
どんな人のメイシを作っていきたいかを考えるといい。
そうすると、55×91センチの紙が小さいものには見えてこない
別のものに見えてくるからと。
 
「そして、もう一つ、とても大事なことを教えてあげる」
また、無知な子供を見るような眼差しで言った。
 
「メイシはミラクルカードなんだよ。」
 
あまりにも、不思議ちゃんな事を言うので
私は、目を細めて固まってしまった。
 
「ミラクルカードという理由はね」
 
初めてあった人に、同じ紙なのにチラシを渡すとどんな反応になるかという事たっだ、
だいたいの人は、無意識で「売り込まれる」と警戒心が湧くので
拒絶をする。
それが、メイシだったら?
多くの人は、立場を超えて受け取る。
それ自体が、とてもミラクルな事なのだと。
そして、中心に自分の名前があるものって、身の周りにどれだけあるだろうか
探してみるといいとも言われた。
ざっと見渡す限り、カバンの中にあるメイシくらいだ。
 
名刺と名付けられた
55×91センチの手のひらサイズの紙の深さを教えてもらった。
 
どれだけの人が、名刺について考えて作っているかは
正直わからない。
もしかしたら、昔の私のように知らないだけかもしれない。
だからこそ、名刺の依頼があったときには、
先輩デザイナーから教えてもらったことを伝えるようにしている。
 
「あなたが作りたいのは、名刺ですか名志ですか?」と
 
キョトンとされる、依頼者の表情にももう慣れてしまった。
そして、一通りの説明をすると依頼者は「出来上がるのが楽しみだ」と言う。
私は、こうして名刺と名付けられた依頼者の相棒を作り続けている。
 
そして、もう一つ。
大事にしていることがある。
「メイシの中心にあるものって 何?」
と、先輩デザイナーが質問し、答えた。
 
「それは、依頼者の氏名(シメイ)。
だから、メイシはその方の使命(シメイ)を表現するものでなければならない」と。
 
 
 
 
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2019-12-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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