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私の「本能寺の変」~敵方の味方になることを決めた日

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:匿名(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「あなたには悪いけど裁判にさせてもらおうと思う」
「そうですね、それがいいと思います。いろいろご迷惑をおかけしましたが、そうしてください」
 
ライターになって約30年。長いお付き合いの某新聞社が訴えられようとしている。発端は私の書いた記事だ。
もう20年以上担当してきた医者紹介コーナーを巡ってそのトラブルは起きた。
そのコーナーでは、医師を取材し、医療に対するポリシーや得意とする治療、得意分野に関する知見などを聞き、プロフィールと一緒に紹介する。
医療関係の記事は神経を使う。言葉の使い方ひとつで大きな誤解を読者に与えるかもしれない。余分なトラブルを避ける意味でも、掲載前に原稿をチェックしてもらうことは習慣になっていた。つまり、掲載される時点で、その記事の内容について取材を受けた本人も内容を把握していることになる。
 
問題の記事が掲載された当日の朝「プロフィールが違う」と当の医師本人から私に電話が入った。
慌てて紙面を確認したら、確かに変わっている。
掲載前に、本人と何度もメールのやり取りをして、納得を得たうえで記事を新聞社に入稿した。
入稿後に私の原稿を勝手に変えた「犯人」は私の担当をしているH氏以外にあり得なかった。
 
それからのやり取りは私をかなり疲弊させた。医師の「掲載されたプロフィールが違う。これでは私は経歴詐称したと言われてしまう」というもっともな訴えに対し、当のH氏は「お前の取材先なんだから、お前がケツ拭けよ」というばかり。訂正記事の掲載を求める医師の言葉にもH氏は首を縦に振らない(これは、訂正記事を載せるのを嫌がる新聞社なりの強い抵抗だろう)。
実らないやり取りに、とうとう医師が発したのが冒頭の一言だ。同時に社員ではなく外部記者である私の立場を考え「あなたはもうこの件から離れなさい。あなたが一生懸命やってくれたことはわかっているから、これ以上立場が悪くならないほうがいい」とも言ってくれた。
万一裁判になると、やり取りしたメールも提出することになる。医師と私のやり取りを見れば、誰がどの段階で記事の内容を変えたのかが明らかになる。新聞社にとって有利な展開になるはずがない。
私はあくまでもその新聞社から仕事をもらっている一ライターの身。原則に照らせば、裁判だけは勘弁してくださいと医師を説得しなければならない立場なのだろうが、非を認めず、責任も取らず、私をなじるだけのH氏の対応に疲れ、半ばやけくそに「裁判上等!」と叫びたい気持ちで医師の言葉にうなずいた。
このトラブルが原因でクビになるならそれもまた仕方ない。腹をくくった私は、本能寺に討ち入る侍の援軍となることにした。
言うまでもないが、新聞社にとって裁判というのはマイナス要因以外の何物でもない。結果が勝訴だろうと、裁判になったという事実そのものが、社の信用に大きくかかわるのだ。
その新聞の別コーナーを担当しているわが社の社長に事情を話し、迷惑をかけることになると思うと謝った。
そこの仕事を切られるかもしれない。それだけでなく、もう会社にいられないかもしれない。
様々な可能性が一度に頭を駆け巡る。社長から特に言葉はなかったが、その新聞社からもらう仕事はわが社の業務でかなりのウェイトを占めていたので、内心は穏やかではなかったと思う。
 
その後どんなやり取りがなされたのかは分からない。
いつまでたっても裁判の知らせは来ず、H氏が異動した。
誰も私には何も言わず、その件はなかったかのように振る舞っている。
後日、医師から電話で「いろいろ厄介をかけたけど、終わったから。ありがとう」と言われた。
どう終わったのかはわからないが、裁判沙汰は避けられたようだ。
そしてそのコーナーは打ち切りになることもなく、続いている。
もちろん、その他のコーナーにも何も影響はない。
 
一般論から言えば、新聞社側の立場の私だが、新聞社を訴えるという医師の言い分に分があることは明らかだ。メールのやり取りが残っている以上、私のせいにするわけにもいかないはずで、最終的に組織の信頼問題になることは、然るべき人物が見れば分かったことだろう。
 
H氏の異動先は知らない。もともと彼とは相性の悪さを感じていたので、離れることができてむしろラッキーと思えるくらいだ。
社長の顔も曇らせずに済んだ。これは本当に良かったと思う。
今となっては残念なことが1つ。その騒動のころ、体重が激減した。1ヶ月で8キロほどやせて、周りからは病気じゃないかと心配もされたが、事態が落ち着くにつれて体重も元に戻ってしまった。トラブルダイエットは成功しないという教訓だけが残された。
 
 
 
 
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2019-12-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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