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メディアグランプリ

押し殺していた、心の声を聴け《週刊READING LIFE Vol.65 「あなたのために」》


記事:平野謙治(チーム天狼院)

 
 
朝、目覚めるちょっと前から、何かが聴こえる。
 
最初は、耳をすませば聴こえるほどの大きさ。
だけどその声は、気づけば大きくなっていって、すぐに頭を支配する。
 
目をつぶってはいられなくなって、思わず身体を起こす。
快いとは言えない目覚め。一体何度、繰り返したことだろう。
 
自分の声で、目を覚ます。
そんな経験をしたことはないだろうか。
 
声と言っても、何も本当に発声しているわけではない。
言うならば、声にならない声だ。
 
「今日起きたら〜しないと」
「〜を終わらせて、それからあれをやって、それから……」
 
そんな頭の中の声が、寝ている間も響き続けている。眠りが浅くなるのに比例して、音量が上がっていき、ハッとして目を覚ます。
焦って掴んだ時計。短針はまだ4の数字を指していて、安堵と呆れが入り混じったため息を吐く。嗚呼、また起きてしまったな………
 
マルチタスクを抱える社会人には、よく起きると言われるこの覚醒現象。一時期、僕も悩まされていた。
自分が忙しいだなんて、言うつもりはない。もっと凄まじい量をこなしている人は、いくらでもいるから。
ただ、「やるべきこと」が、自分のコントロールできるキャパシティを超えた日から、プレッシャーとの闘いは始まった。それこそ、眠りを妨げるほどに。
 
そんな状況になれば当然、二度寝を試みる。だけど一度覚醒した頭は、そう簡単には休んではくれない。
抱えている不安は声となり、疲れているはずの身体を揺すり続ける。
本当はもっと、眠っていたいのにな。目をつぶってみても、眠れないまま朝になっていた。
 
そんな日が続けば、疲労は当然のように降り積もっていった。
だけど幸か不幸か、それでも身体は動いた。寝坊するようなことも、決してなく。
最短で身支度を済ませ、職場へと向かい続けた。
 
そこに意志など、なかったように思える。ただ与えられた役割を、全うするために。
楽しみなどはそこに存在せず、やるべきことを、やり続ける。義務感だけが、身体を突き動かしていた。

 

 

 

そうしてなんとか、駆け抜けた繁忙期。ようやく迎えた、休日。さて、何をしてやろうか。
 
身体が疲れているから、とりあえず寝てみる。だけどやっぱり、長く寝ることはできなくて。
 
どうせ寝れないなら、何か趣味に時間を使うか。そう思ったけれど、特に何かしたいことも思いつかなかった。
 
おもむろに、ゲームの電源をつけてみた。10分ちょっと、プレイしてみる。
だけど、何が面白いのかさっぱりわからなくて、すぐにコントローラーを置いた。昔はあんなに楽しかったのにな。
 
ちらっと時計に目をやる。さっきから、全然動いていない長針。
あれ、待ち望んでいたはずの休日なのにな……
 
やりたいことなど、そこには何一つなく、虚しさだけが部屋を埋め尽くしていた。
やるべきこと。そればかりを考えていたら、やりたいことが見えなくなってしまった。
気づけば食事ひとつとっても、自分がどうしたいのか、何を食べたいのか、わからなくなっていたことに気付いた。
 
進まない時に耐えかねて、結局僕はパソコンを開いて仕事を始めた。
「やるべきこと」を、やる。それ以外の時間の使い方が、わからなくなっていた。
 
翌日は、忙しい一日だった。なんとか諸々済ませ、終電に乗り込んだ。
駅から家まで歩く気力など既になく、タクシーを捕まえる。運転手は、優しげなおじいさん。なんとなく、会話が始まった。
 
「お兄さん、年末年始はどのくらい休めるの?」
 
「いや、僕サービス業なので、休めるかわからないです」
 
「それは大変だねぇ!」
 
驚いたように、声をあげるおじいさん。
 
「でも好きな仕事なので、なんとかやれてます」
 
フォローするように、口から出た言葉。
声にしてはじめて、疑問に思った。
 
好きな仕事? 確かに、好きで始めた仕事だ。
事実数ヶ月前までは、楽しんでいた。誰かに貢献する喜びに、溢れていた。
だけど最近は? 本当に好きで、しているのか?
やりたいことが、できているのか?
 
違う。そうじゃない。
答えは、明白だった。「やるべきこと」を、ただこなすだけの自分に、とっくに気づいていたから。
 
「でも、たまには……立ち止まりたいなって思う時もあります」
 
しばしの間を挟み、僕の口から出たその言葉は、久しぶりに漏れ出た、心の底からの声だった。
気づけば、涙が流れていた。止めどなく、溢れ出すように。
 
「そうか……
お兄さんは頑張りすぎちゃったんだね。時には、自分の心の声を聴くことも大切だよ」
 
優しく声をかけ続ける、おじいさん。僕はもう、何も答えることが出来ず、ただ涙を流し続けていた。滲んだ視界に写る、対向車のヘッドライトが、やたらと眩しく感じられた。
 
ようやく涙が止まったのは、家に着いた時。最後までエールをくれ続けたおじいさんに、お礼を言ってタクシーを後にした。
 
自分の、心の声を聴くこと。
おじいさんがくれたその言葉が、頭に残り続けていた。
確かに最近の自分は、心の声を聴こうとしてこなかった。「やるべきこと」ばかりに意識をとられ、「やりたいこと」は諦めていた。
そうしているうちに、知らず知らずのうちに追い詰められていたのだ。ようやく、それに気づけた。
 
もっと、「心の声」を聴いてやらないと。
他でもない自分が、可哀想だ。
 
その日から、僕の意識は変わった。
 
勤務先が書店なのは、幸いだった。僕は本に、答えを求めた。
ビジネス書専門店、天狼院書店「STYLE for Biz」。その中から、タイトルに惹かれた本を手に取った。
 
大平信孝先生の、『本気で変わりたい人の行動イノベーション』。
現状を変えたい僕には、ピッタリの一冊だった。
 
仕事を終え、山手線に乗り込む。家まで待てず、僕は本を開いた。
そうして読み始めて、すぐに納得させられたことがある。
 
それは、人間には、「頭の声」、「体の声」、「心の声」の3つの声があるということ。
そして、忙しく働く義務感の強い日本人は、「頭の声」ばかりを聴きがちだと言うこと。
 
「あの仕事を終わらせないと」
「どうせ時間がないから」
 
そんな頭の声が、
「本当は疲れてるし、ゆっくり休みたい」という体の声や、
「ギター弾いたり、趣味の時間も大切にしたい」という心の声を、掻き消していく。
 
そうしているうちに、「頭の声」だけが自分の声と思い込み、「体の声」も、「心の声」も、聴こえなくなってしまう。
 
読んだ時、ドキッとさせられた。まさに自分のことだと、感じた。
この本のメソッドに倣って、心の声を聴いてみることにした。
 
「本当は、自分は何がしたいのか?」
 
それだけを、愚直に問い続ける。
 
「時間もお金もないし」
「何かやって疲れたら、明日の仕事に影響が出る」
「そんなことやっても仕方ない」
 
最初はそんな、頭の声ばかりが聴こえた。
だけど諦めず、問い続ける。「本当の心の声」を、聴くために。
深く、潜り続けた。
 
「身体を動かしたい。久しぶりに思いっきり
、身体を動かしてみたい」
 
微かな、声が聴こえた。それはほんの小さな、欲望。だけど確かな、心の声だった。
 
僕はすぐに、友人に連絡した。深夜にも関わらず、クルマを出してもらい、24時間営業のバッティングセンターへと向かった。
 
翌日も仕事だ。でもとりあえず、そんなことは忘れろ。
今だけは、漏れ出た心の声を無視したくない。強く、そう思った。
 
100球以上、打ち続けた。思い切りスイングして、精一杯打球を飛ばす。
気づけば腕はパンパンで、ヘトヘトになっていた。
しかし、ただそれだけのことで、僕は充実感を得た。「心の声」を聴くって、そういうことか。
 
ほんの小さな、成功体験。
その気づきが、僕を救った。
 
「心の声」を、やりたいことを、
諦める理由なんて、何一つない。
確かにそう思うことが、できたから。

 

 

 

忙しく生きていると、無意識のうちにいろいろなことを諦めてしまう。
 
時間がないから。お金がないから。疲れているから。明日も仕事だから。やらなきゃいけないことがたくさんあるから。
 
確かに、事実なのかもしれない。だけどそのいずれもが、あなたが「やりたいこと」を諦める理由には値しない。
 
「頭の声」だけてなく、「体の声」、「心の声」も含めて、あなたなのだから。
他でもない、あなた自身のために。そのすべてを、無視してはいけない。
 
だけど、それでもダメだ、「頭の声」しか聴こえない。「心の声」が、聴こえなくなってしまった。
そう思うのであれば、ぜひこの本を一度、手にとってみてほしい。
 
大平信孝『本気で変わりたい人の行動イノベーション』
秀和システム
 
 
 
 

◽︎平野謙治(チーム天狼院)
東京天狼院スタッフ。
1995年生まれ24歳。千葉県出身。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに転身。
2019年2月開講のライティング・ゼミを受講。16週間で15作品がメディアグランプリに掲載される。
『母親の死が教えてくれた』、『苦しんでいるあなたは、ひとりじゃない。』の2作品でメディアグランプリ1位を獲得する。
6月から、 READING LIFE編集部ライターズ倶楽部所属。
初回投稿作品『退屈という毒に対する特効薬』で、週刊READING LIFEデビューを果たす。

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