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小さな財布とブラックホール


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記事:toko(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
小さな財布を買った。
香川県の職人が作ったと言う、ノーブランド・天然牛革のベージュの財布だ。
 
その小さな財布は紙幣を三つ折りにするサイズで、手のひらにすっぽりと収まる。
小さな小銭入れ部分と、カードが5枚ほど入る容量だ。
内側は温かみのある、赤と茶とオレンジの中間のような色。小銭を探すときに暗い色だと見辛いと思い、この色のものを選んだ。
 
小さな財布は、ここ数年、私にとって憧れだった。
世の中ではミニマリストという、必要最低限の選び抜かれたものだけを手元に置く生活スタイルが流行っていたし、様々な電子マネーが普及し、買い物もスマホ一つあれば済ませられるように変わっていた。
その変化に従って、財布も次々と小ぶりですっきりとしたデザインのものが販売されるようになった。小ぶりなものは、理屈抜きで愛おしい。いつか手元に迎えたいと密かに思っていた。
 
そんな、ものを極力持たないシンプルな生活には憧れるものの、狭い1Kにはものが溢れ、ミニマリストには程遠い生活をしている私は、各種電子マネーの比較検討という手間をかけることができず、カードも紙幣もレシートもたくさん入る長財布をずっと使っていた。
愛用していた、というよりも、他に使いたいと思う財布がなく、かつて気に入って買ったその長財布を汚れてもほつれても使い続けていたのだ。
 
そんな私がついに買った、ベージュの小さな三つ折りの財布。
スマホで見かけ、入荷まで3ヶ月ほど待ち、入荷連絡のメールが届いた瞬間に買った財布だ。
 
この財布を使えば、私のお金周りはすっきりと整い、月ごとの収支が把握でき、無駄な買い物を控え、果てには家も綺麗に片付く……。
とまで思っていたわけではないが、小さな財布を買えば身軽になれるとなんとなく思っていた。
 
そして、当たり前だがそんな魔法はかからない。
 
小さな財布を買ったって、私の手元には入り切らないポイントカードや、経費精算しなければならない領収書、後で家計簿につけたいレシートの束が残るのだ。
そしてもちろん、家だってありとあらゆるもので溢れている。
 
改めて、自分の持ち物の多さに気づかされる。
そして、なかなかそれを手放せないでいることにも。
 
私は小さくため息をつく。
長年の憧れである、自分の持ち物を把握したすっきりとした生活は、私にはまだ遠い。
持ち物を把握しきれていないということは、自分の中に小さなブラックホールを抱えているような状態だ。
クローゼットの中に、シンク下に、本棚の中に、何が入っているのかわからない。
わからないが、とにかく沢山入っていることは確かだ。
わからないというからには使う頻度の低い、だいたいは必要ないものなのだろうが、それを全部ゴミ袋にひっくり返して闇雲に詰め込むのも、何を捨ててしまうのかわからなくて恐ろしい。
 
そして、そのようなブラックホールは財布や家だけではなく、私の心の中にだって存在している。
私が今本当にやりたいことは何なのか、やっていることはどんな意味があることなのか。これから誰とどのような暮らしを送りたいのか。
今も未来も、様々な粒度の「わからないこと」だらけだ。
普段は決して覗き込まない、私の心の中の小さなブラックホール。
 
把握しきれないものに埋もれ、小さなブラックホールたちに囲まれた私の生活は、それでも居心地の悪いものではないのだけれど、「私はこれでいい」と自信をくれ、満足できるものではない。
ブラックホールの真ん中で、考える。
 
30代になり、昔からの友達も皆それぞれの人生を歩いていく中で、私はこの「私はこれでいい」と思える自信が欲しかったのだ。
自分の現在や未来に対して、きちんと自分で考えて選んでいるのだという感覚。
自信を持って、今自分がどうしたいのかを主張できる安定感。
その自信を得るために、自分の持ち物や考えを整理し、取捨選択して、ときには断捨離して、一つの答えを出したかったのだ。
 
カードやレシートが収まり切らない小さな財布を見つめて、そんなことを考える。
 
結婚も子育てもせず、一般的な30代の幸せにはまらない自分。
それでも、周りの目より自分の居心地の良さに正直でいたい。
そのためには、そもそも自分にとって居心地の良いもの、好きなものが何なのかを知ることが必要だった。
 
そんな自分の「本質」とも呼べるような芯を知るために、ブラックホールを覗き込み、一つずつ中のものを手にとって必要か考えて、あるものは棚に戻しあるものはゴミ袋に入れていくうちに、私の「私はこれでいい」に近づいていくことができるのではないだろうか。
 
家の中にある、ありとあらゆるものを把握できるようになれば、私の頭の中も今よりはすっきりするはず。
その時はきっと、この小さな財布で事足りているだろう。
 
その日が来ることを信じて、私はひとまず、電子マネーアプリに自分の銀行口座を連携した。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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