メディアグランプリ

収納上手は誉められたものではない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田澤恭平(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
それは山だった。
幾重にも積み重ねてある段ボールを目の前に一瞬怯んだ。
段ボール山には木々は生えておらず、代わりに色とりどりの洋服がひっかかっていた。
洋服山もいくつかあったが、それ以外にも和服山、本山、食器山などの山が連なっていた。
こう書くとそれぞれが綺麗に分けられているように感じるだろうが、実際の山に様々な植物や動物や虫が生息しているように、連なっている山々も渾然一体としていた。
「これを3日間で片付けるのか」
怯んだからこそ気合が入った。
 
その家は友人の父が購入したものらしい。別宅として家具をそろえたが、事情が変わり、ほとんど住むことなく40年が経った。
この40年の内に友人の母が自分のものや家族のものをせっせと運び込み、いつしか倉庫として使われていた。
友人の家系は多趣味のようで、華道に茶道、フラメンコに洋裁、美術品収集、編み物、囲碁、読書など人生をどれだけ楽しんでいるのかと問いかけたくなるほどだ。
この趣味それぞれに必要なもの、つくったものが所狭しと仕舞われている。
そこに友人が独り暮らしから地元に戻り、1度実家に住むことになった。
独り暮らしの家のものをこの家に運び込んだ。
ここにあげたもの全てが山の正体だ。
 
友人は狼狽えていた。
目の前のものを片付けなきゃいけないことは分かっている。しかし、1人でどうしたらいいのか分からない。どこから手を付ければ良いのか分からない。
自分が必要なものだけを残せば良い。だからいらないものを捨てれば良い。
こんなことは頭で分かっているのだ。
だが、目の前にあるものは自分と共に歩んできたものであり、父母や祖母などの思い出・歴史なのだ。気軽に捨てられるようなものではない。
だから廃品回収業者を呼んで全部総ざらいで片付けて貰う訳にもいかない。
自分がこれからどう生きていきたいのか? それに必要なものを考えようともした。けれども目の前にあるものが気になってそれも考えつかない。
こういうのを袋小路というのだろうか。それとも思考のスパイラルだろうか。はたまた思考の停止か。
どういうことばが適切かも分からない程、友人は茫然自失としていたのだ。
 
そこに何の縁か、僕自身が片付けを手伝うことになった。
ホテルを予約し、新幹線に乗った。
3日間、朝から夜まで冷房のない家で人様の家庭の足跡を辿る。
山の頂に手を伸ばし、そこにある宝箱を開け歴史を感じるのだ。
山はやがて低山となり、いつしか元々の平地へと戻る。
そう、これは歴史という山と開墾し、現在というスタート地点に立つための旅なのだ。
3日後、友人は新たなスタート地点に立ち、自らの人生を新たな気持ちで歩み始める。
友にとって人生の岐路である。門出である。
そうなるために、僕は目の前の古ぼけた箱に手を伸ばした。
 
自分の気持ちを雰囲気重視で書くとこんなんだが、現実は違う。
目の前のものを次々とゴミ袋に放り込む作業の連続である。
いる、いらない、いる、いらない。
ドンドン判断していかないと終わらない。
自分のものを自分だけで判断しているのなら楽だが、今回は違う。
友人にとっているかいらないかである。
他人から見たらゴミのようなものでも、本人にとって大切なものがある。
それを僕の勝手な判断で処分していいわけではない。
なので基本は、友人に聞く。
物量が多いので判断する時間は短い方が良い。時間をかけると3日で終わらない。
思考停止している友人にものを突きつけて即断即決を求めるのだ。
残酷な気もするが家一軒を片付けるには仕方がない。
 
傘なんて2本あれば良いでしょう。
10数本の傘を目の前に僕はそうおもうが、友人は半分にするのにも一苦労している。
どれに対しても思い入れがあるのだろう。
「目標は残すもの3割」
そう僕は友人に言っておいた。
とはいえ、現実的には半分になれば凄いとおもっていた。
若しかすると6割くらいでもゴールかもしれない。
9割残るようでは意味がないが、友人が「片付いた」と感じることが大切なのだ。
「片付ける」というのは物量であり、想いでもある。
3日間という限られた中で片付けるには作業的になる部分が必要だが、僕らは感情があるので簡単に捨てられない。思い出の品が出てきたらその時のことを思い出し、味わいたくなるのだ。味わわずに捨てるように急き立ててしまうと後悔だけが残ってしまい、次の人生に踏み出せなくなってしまう。
僕の役割は牧羊犬のようなものだ。急き立てることなくゴールへと誘導する。
先回りをし、片付け導線の確保から時間管理、明らかに不要であるものを取り去る。
書いてて、自分を誉めてあげたくなってきた。
むっちゃ仕事してるやん! エライよ! すごいよ、恭平!
自画自賛はさておき、僕の役割の中で大変だったのは、片付け導線の確保である。
足の踏み場という意味もあるが、どの順番で友人にやってもらうかだ。
様々なものが入り混じっているのだから順番にやるしかないのだが、ありとあらゆるところからものが出てくるので友人の頭がショート寸前になるのだ。
 
友人の家系は多趣味だというのは先程書いた。その多趣味を成り立たせていたものが「収納上手」である。
箱に隙間があればそこにはまるものを見つけ出す。整理されているといえば聞こえは良いが、際限無くものが出てくるのだ。
収納上手と聞けばプラスのイメージが湧きやすい。しかし片付けにおいてはマイナスである。
ものを大切にすることは良いことだとおもう。
しかし、なんでもかんでも仕舞えば良いというものでもない。
収納上手でスペースが埋まっていることよりも、空間に空きがある方が余裕を感じる。
これは押入れでも頭の中でも同じだ。
詰め込まれていると身動きが取れない。スペースがある方が余裕を感じられて建設的に考えられる。
 
3日間かけて、家は片付いた。
後は廃棄するものを業者に引き取ってもらうだけだ。
これで友人に余裕が生まれて、新たな1歩を踏み出せることを願う。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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