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目には目をトラブルには品性を


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐藤 未希子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
風水師になった友人がいる。
毎朝8時になると彼女からのLINEが届き、今日がどういう日なのか何に注意したらよいか、何をするのに向いている日かなどを解説してくれる。
彼女からのアドバイスをなんとなく心に留めながら1日を過ごし、そのアドバイスが腑に落ちるの1日が終わりそうな時間というのが1年以上続いているだろうか。
 
本当にもったいないことをしている。
ただ、彼女からもらう警告の日は、1日用心するようにしている。
この暦の日は月に1度あるかないかなのだが、トラブルが起きやすい日で、おっちょこちょいな私は朝から、用心に用心を重ねて行動するようにしている。
 
なぜかって?
 
買ったばかりの車のお尻をこすってしまった日も
友達とのランチの日をうっかりすっぽかしてしまった日も
道に迷い、やっとこさたどりついたお役所で、提出するはずの大切な書類を会社のコピー機に挟んだまま忘れてきたことを思い出した日も
空港の搭乗口で搭乗券が見つからなかった日も
息子が大切なIttalaのガラスのお皿を割ってしまった日も
全部この暦の日だった。
 
その日も朝からもらった彼女からの警告に用心に用心を重ねて過ごしていた。
しかもその日は銀行で用事がある、会社のお金で失敗するわけにはいかない。
記入した振込の書類を何度も確認した。
振込先の銀行、支店名、口座種別、金額、振込先相手の名前を何度も読み上げた。
念の為、修正が必要になったらすぐに対応できるように、銀行印も鞄に入れ、鞄を抱きかかえて銀行に向かった。
 
銀行の窓口につくと驚いた。
暦のせいか、ほぼすべての窓口が臨戦態勢で、なんらかのトラブルを処理しているような様子だった。
 
その中の一つの窓口では、グレーヘアーで品のある素敵な老婦人とそのお嬢さんらしき人が困っていた。
詳しいことはわからないが、どうやら、別の日に老婦人が銀行で手続きした内容に間違いがあったからと銀行から呼ばれて手続きの修正に来たものの、実は銀行の方の手続きに誤りがあることが発覚した上にさらにまた別の日に手続きに来て欲しいと言われているようだった。
 
「冗談じゃないわよ!」
お嬢さんの方は声を荒げていた。
 
「誠に大変申し訳ございません。でも、規則ですので……」
と窓口の女性は平謝りだった。
 
「でた、規則ですので……」
私は心の中でつぶやいた。
 
銀行が、伝家の宝刀「規則ですので」を抜いた日は、梃子でも動かないのである。わたしはもうこの「規則ですので」に何度悔しい思いをしてきたことか。
銀行というところは本当に融通が利かないところなんだよね。
老婦人とお嬢さんをそう気の毒に思っていたところ……
 
老婦人は右手でそっとお嬢さんを諫めるような仕草をすると、声を荒げることもなく、ゆっくりと、しっかりとした口調で、
「あなたを責めたいのではないの。あなたが悪いのではないのはわかっています。わたしの方に誤りがあった場合は、わたしが自分の責任で誤りを正します。今日もその為に来ました。でも、今回は、銀行の方に誤りがあったのですから、銀行の方で責任を持って対応してください」
まっすぐ窓口の女性を見つめながらそう言った。
その姿があまりにも凛としていたので、私だけではなく、他の窓口でトラブルに遭っている他のお客さん達も思わず老婦人に見とれてしまった。
 
「申し訳ございません。少しお時間をください」
と女性行員は窓口から離れ、奥に向かっていった。
 
「とはいえ、しばらくするとまた、やっぱり規則だからだめでした。って戻ってくるんだろうな。ちょっと上の人を連れて…… 銀行とはそういうところ」
と思っていた。
 
しばらくすると、その女性行員は戻ってくると言った。
「今回は、私共のミスで……、こちらのお手続きをすると今回のお手続きを完了できることがわかりました」
 
「そう、ありがとう」
老婦人はやさしく微笑んだ。
 
正直、驚いてしまった。
あの融通の利かない銀行で、こんなシーンを目撃する日が来るなんて思いもよらなかった。
 
お客さんがかなり切れて怒鳴りまくっても、後生ですからとすがりついても「規則ですから」と全く動じない銀行を目撃したことは1度や2度ではない。
銀行というところは融通の利かないところ、むしろ融通が利いたら困るところだと思っていた。
 
付き添いをしていたお嬢さんの怒り具合を見ると、おそらく、あの老婦人も心の底でははらわたが煮えくりかえるくらい怒っていたかもしれない。
でも、そんなそぶりを1ミリも見せずに、感情的にならず、自分がどうしてほしいのか筋道を通して相手に伝えたからあの頑固な銀行を動かしたのではないかと思った。
そして、何よりあの老婦人には品性があった。
 
銀行員だって人の子である。
怒鳴られて、怒りをぶつけられたら、思考停止してしまい伝家の宝刀「規則ですから」を抜いてその場をやり過ごしてしまうだろう。
でも、あの老婦人のように対応されたら、どうだろうか?
なんとか、相手の問題を解決したいという気になるだろう。
 
いつも、風水師の友人が警告してくれる暦の日、わたしはトラブルを回避することばかりに心を囚われてしまっていた。
むしろ、その緊張感が彼女の警告にも関わらず今までのドタバタを引き起こしていたかもしれない。
トラブルが起こったら、いかに対応して、解決するのかも大事だとつくづく思った。
なぜなら、トラブルこそ人の品性をあぶりだすものだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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