メディアグランプリ

あなたの不安は、本当にはならない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:谷津智里(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
いろいろな不安が、頭をめぐるご時世である。
当たり前だと思っていたものが急に当たり前でなくなってしまって、
この先どうなるのか分からずに戸惑っている。
あんなに偉そうにしていた人たちはみっともなく右往左往して、一向に元に戻してくれる気配が無い。
一体どうなってしまうんだ。
もうずいぶんと長く、そんなことが続いている。
 
今年は、東日本大震災から10年目の年だ。
状況は違っても、あの時、似たようなことが起こっていた。
もう記憶が遠のいている人も多いかもしれないけれど。
 
震災が起きた時、私は宮城県の内陸部にいた。
津波からは遠い地域だったけれど、電気も水もガスも使えず、5歳の息子と生後10ヶ月の娘を抱え、ぐちゃぐちゃな家の中にいた。それまで当たり前だと思っていたことが何一つできなかったし、次にどうなるのか全くわからなかった。
その夜ワンセグで少しだけ見られたテレビや、翌朝遅れて届いた新聞で津波のことを知っても現実感が無くて、頭の片隅で沿岸部の知人のことを思い浮かべながらも、離乳食期の娘に食べさせられるものが何かあるだろうか、オムツはあと数日は持ちそうだ、お風呂に入れないけれど体を拭けるものがあるか、冷凍庫のものは発泡スチロールに詰めておけば腐らないだろう、など、目の前のことを懸命に考えていた。
 
2日後の3月13日、私たち家族は東京にある私の実家に向かった。
当時乗っていたのがハイブリッド車だったから、小さな子どもを抱えて混乱した被災地にいるよりも、残っていたガソリンで東京を目指した方がいいという判断だった。
とにかく、頼れる人のいる場所へ。
ただそれだけの思いでデコボコの道を走り、深夜に首都圏に入った、その時。
キラキラと輝くビルの明かりに言葉を失った。
それはあまりにも「いつも通りの」風景だった。
電気がついている。信号も動いている。お店も開いている。
ああ、東京は、大丈夫なんだ。
実家で温かいお風呂に入った時、私は自分がそこにいることが不思議でならなかった。
 
そんな東京で、「買い占め」が起こっていた。
ドラッグストアの棚からオムツが消えていた。
ミネラルウオーターも無くなっていた。
私は頭が混乱した。
こんなにも無事な東京で、みんな、何を心配しているのだろう?
 
釈然としなくて、九州にいた友人にその思いをメールで吐露したら、友人はこう言った。
「私も東京にいたら備えると思う」。
 
……ああ、そうか、「備える」のか。
その時、思った。
今が大丈夫だからこそ「怖い」んだ。
危機から離れた場所にいる人の方が「怖い」んだ。
「被災地」にいた時には、怖がっている余裕なんてなかった。
ただ目の前のことに精いっぱいだった。
 
実は震災が起こる前にこそ、私は強烈な不安に囚われていた。
仕事を辞めて夫とともに宮城県の田舎へ移住して、2人目の子どもを出産。
移住する前はきっとうまくやれると思っていたのに、仕事や居場所を思うように作れなくて、とても焦っていた。東京では正社員だったから、収入が無くなってしまったことで自分の存在意義が揺らぐ気がした。夫の家業で充分に食べていけるというのに、東京にいた時の世帯収入よりも少ないとか、自分自身が働けないことが、不安で怖くなっていた。
 
ところが、その時は解決しようがないように思えたその不安は、震災後に消え失せてしまった。
状況は変わっていないどころか悪くなったのかもしれなかったが、普通に暮らせることがただただありがたく、ただただ、目の前のことを一生懸命やるようになったら、不安がっていたことなど忘れてしまった。
それから10年経って、私は今、仕事も居場所も自分の収入もあって、家族と幸せに暮らしている。
10年前に不安に感じていたことは、何一つ本当にはならなかった。
 
仏教では、「不安」とは「妄想」だと考えるのだという。
「ああなったらどうしよう」
「こうなったらどうしよう」
と思うのは、全て自分の頭の中で想像していることであって、現実ではない。
さらに「不安」というのは連鎖して、次から次へと悪い「妄想」を呼び込んでどんどん自分を追い詰めるのだという。
 
これまでと同じ日常が続かないかもしれないと思う時、誰でも不安になる。
それは当然のこと。
けれど、今現在、まだ持っているものはたくさんあるはずだ。できなくなったことばかりが目に付くけれど、できることも山ほどある。
それなら妄想はやめて、事実を整理して、やれることを一つ一つやっていけばいい。
遠い先のことなんてわからなくていい。今日一日をより良く過ごせればそれでいい。
その積み重ねの先にある未来はまだ見えないけれど、今日の自分の行動が未来につながることだけは、わかっている。
 
心配しないための練習は、ごくごく単純だ。
不安に囚われそうになったらこうつぶやく。
「それは私の妄想、起きてはいないこと。不安を感じているうちは、まだ大丈夫」。
そうして次に、今日、自分がやることを考えよう。
今日も私には、寝るところと食べるものがあり、話をできる人がいるのだから。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事