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ドイツの鉄道にはサムライが乗っている。


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記事:かなたあきこ(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
筆者は数年前に夫のドイツ赴任に帯同し、ミュンヘンで暮らしていたことがある。
ドイツと言えばお決まりの「ビール・ソーセージ・じゃがいも」しかイメージがなく、右も左も分からないまま初めての土地に足を踏み入れたわけだが、日々新鮮な発見がありそれはそれは楽しかった。海外生活が初めてだったので、ちょっとした生活習慣の違いにいちいち感心しては、ブログを書き溜める毎日だった。
 
さてそんなドイツ暮らしの中でしばらく慣れなかったのが、「ドイツの鉄道駅には改札がない」という仕組みである。いやもちろん切符は券売機で売っていて、電車に乗る前に必ず買わなければならないのは日本と一緒なのだけど、その切符を通す改札口がない。ではどうするのかと言うと、ホームの手前もしくは電車の車内にある打刻機で、いちいち乗車日時を打刻しないといけないのだ。打刻しない限り、切符はただの紙切れに過ぎず、切符としての有効性を持たない。つまりうっかり打刻を忘れると、その気はなくとも自然と“キセル乗車”になってしまうのである。
 
このシステムについて初めて教わった時は、「なんてオトナな仕組みだろう……!」と感動すら覚えた。
打刻をしなければ切符が有効にならないということは、ヘタすれば永久に使いまわしができるということだ。不正乗車しようとすれば、いくらでもできてしまう。もちろんそうさせないために、ドイツの鉄道車両には日常的に検札係が乗っていて、打刻していない切符が見つかった瞬間に“お縄”となる。キセル乗車は罰金60ユーロ(日本円で約7,000円)が課せられるので、かなりの痛手だ。
しかし検札率は100%ではないため、1~2駅くらいの短い乗車であれば、見つからない確率の方が高くなるだろう。つまり、このシステムは“性善説”に則って作られたもので、「不正乗車なんてする奴はいるわけない」という信頼のもとで成り立っているのだ。事実、このシステムはドイツのみならず、パリやバルセロナなどのヨーロッパ各国の都市で採用されており、ガイドブックでは「信頼乗車方式」と紹介されている。信頼乗車……、ネーミングそのまんまですけどね。
 
日本のようにピピッとハイパー高速処理ができる自動改札で、「なんぴとたりとも不正は許すまじ」とでもいう勢いで切符をチェックされるよりも、「人が人を信じる」という前提で成り立つ社会は美しい。キリスト教の思想も影響しているのだろうけど、ヨーロッパはさすがにオトナな文化だ、と感動したものだ。
 
しかし、やはり悪いことをする人間はどこにでも居るもので。私もミュンヘン在住中に何度か検札係によるチェックを受けたけれど、打刻漏れはおろか、さらに悪質になると切符自体を持っていないというツワモノもいた。一回の検札で必ず1~2人は捕まっている人を見かけた、といった感じだろうか。一台の車両に80人くらい乗っているとして、確率は1/80。これを多いとみるか、少ないと見るか。ただ、私が見た限りでは、キセル乗車で捕まるのは主にヤンチャ盛りの若者か、ルールを今ひとつ理解していないような外国からの移民が多かったような気がする。
 
生粋のドイツ人(らしく見える)の大人の男女や、お年寄りたちは、そんな彼らに無言で冷ややかな目線を向ける。車内検札のたびに、叱責とも軽蔑ともいえない、何ともビミョーな空気が車内に充満するのだった。言うなれば、この美しいルールを壊したことに対する怒りにも近いものかもしれない。この光景を見るたび、私は「恥を知れ」という日本語を思い出した。そう、まさに不正は“恥”であり、ドイツの列車の乗客たちは、恥をかかされるくらいなら自ら切腹を選んだサムライのような凄みがあったのだった。
 
去ること数年、日本に帰ってきた私は、「外国人が驚く日本の習慣」を紹介するテレビ番組を見ていて、ドイツで見たサムライ文化を彷彿させる光景に出くわした。
そこに写っていたのは、田舎で見かける野菜の無人販売機である。外国人からすると「誰も見ていないのにきちんとお金を払う」という風習が奇跡に思えるようで、日本人の高潔さと正直さを褒めたたえる内容だった。そこで起こったデジャヴ感。これはひょっとして、ドイツの鉄道と同じ仕組みではないのか? “信頼商売”の最たるものと言える無人販売のシステムは、まさに「恥を知れ」の文化から生まれたものではないだろうか。お金を入れないで野菜を持ち去ることは容易だが、それはこの美しいルールに唾吐くことになる。誰も見ていないからこそ、自分を恥じないために、あえてサムライになる。
 
ドイツのサムライは、恥を嫌い、切符の打刻をし続ける。
日本のサムライは、恥を嫌い、無人の集金ボックスにお金を投げ入れ続ける。
洋の東西を隔てて、美しいサムライたちはそこかしこに存在する。「天知る、地知る、己知る」ということわざもあることだし、私も襟を正し直し、正直に生きねばという心持ちになった。
 
ちなみにドイツのこの鉄道ルールは、旅行者も問答無用で適用されるので、くれぐれもご注意を。「ドイツ語ワカリマセーン」なんて言い訳はもちろん通用せず、確実に罰金を取られちゃいますよ。2.2ユーロ(300円)の乗車賃をケチって、60ユーロ(7,000円)払うなんて、賢いおサムライさんなら絶対にやりませんよ、ねぇ?
 
 
 
 
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2020-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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