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初体験の農作業は「動の瞑想」だった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:白銀肇(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
自分が本当に好きなことは何ですか?
のめり込んで夢中になるものって何ですか?
 
この問いに直面すると、決まって「これです!」という答えが素直にポンと出てこない。
 
「私は今これに夢中です、こんなことが大好きです」
そんなことを素直に言える方が本当に羨ましく思う。
 
いま、本当に自分が好きなものはなんなのか?
自分は何をしたら心が躍るのだろうか?
セカンドキャリア、今後の生き方を考えていくなかで、いまこのことをずっと自分に問いかけている。
でも明快な答えがなかなか見つからない。
 
いつのまにか、何かが生み出されたり、評価される結果がでないと時間をかけることがもったいない、そんな感覚になっていた。
時間を忘れて自分のことだけに没頭する、ということにまったく不慣れになってしまっている。
だから、何か趣味を始めようとしても長続きしない。
覚めていってしまうのだ。
 
そんな私でも、昔は時間を忘れて夢中で取り組んだものがあったことを思い出した。
 
「今度の土曜日、地元神社の草引きをします。ご一緒にどうですか?」
7月下旬、大阪北部に能勢という古民家を使ったサロンを運営している知り合いからショートメールが届いた。
彼はまだ30歳前後の青年で、地元人や同世代の仲間と連携してそこのサロンを運営している。
その場所は、いま住んでいるところから車を45分ほど走らせた山間部で、ときどき家内とそこにくつろぎに行ったりしている。
 
「お手伝いすることがあれば、いつでもなんでもするよ」と彼には言っていた。
私は、家の事情、今後の自分の生き方などの思いから希望退職に応募して6月末に会社を辞めた。
時間はある。
そして何よりも、そこでの体験で何か自分が刺激を受けることがあるかもしれない、という思いがあって、彼にはそのように伝えていたのだ。
だから、彼から声がかかった時は、もう二つ返事だった。
 
当日は、昼前から草引きに参加。
昼食をとって作業を再開して、小一時間経ってそろそろ終わりかな、という時に「今度は、宮司さんの畑で農作業をします」と彼のひとこと。
 
これはまったく予期していないことだった。
農作業なんて体験したことない。
だけど、そんなやったことない体験で果たしてどんな刺激を受けるだろうか? と、そちらのほうにすぐ気が行った。
 
そこは2、3年休眠させていた田畑だったが、それを再開させようとして、生い茂っていた草を刈り、その刈られて散乱している草を集めて、小山にして、燃やして整地しているという。
この日の作業は、その刈られて散らばっている草を集めて、所々に燃やすための小山を作っていくというものであった。
 
長かった梅雨がようやく明けたところで、午後の陽射しが激しさを増している。
もちろん日陰なんて一切ない。
 
草をかき集める鋤を手にして作業開始。
一分もたたないうちに汗が一気に吹き出てくる。
動くたびに汗が周囲に飛び散る。
 
やったことのない作業。
最初は不慣れだったけど、少しコツを覚えると動きに無駄がなくなり、だんだんと楽しくなってくる。
枯れ草に鋤を突き刺したときの「ザクッ」という音とともに手に伝わる感触が心地よい。
もっともっと良い手応えを感じたくなり、どんどんのめり込んでいく。
見えているのは、目の前の枯れ草だけ。
周りは見えない。
吹き流れる汗すら気にならない。
時間を忘れている。
 
一心不乱に作業しているときに、ふっと思いがよぎった。
いま、自分は何も考えず体を動かすことだけに夢中になっている。
こんなふうに夢中になったのは、どんなことだっただろうか?
 
子供の頃は電車が好きだった。
鉄道の専門誌、時刻表、旅の本、飽きることなく読みあさっていた。
そんな本を読んで、乗ったことのない電車への思いを馳せたり、知らない路線を旅することを妄想したりしていた。
 
年頃になってきてからは絵に夢中になった。
好きだった電車の絵から始まり、大きくなるにつれて好きなマンガやアニメを真似ては描き、やがて自分でイラストとかを描くようになっていった。
 
このときって何よりも時間を忘れて夢中になっていた。
ただ「好き」ということだけでなく、「これが自分なんだ」と言わんばかりに夢中になっていた。
少しでも電車の新しいことを知りたい、少しでもイラストが上手になりたい。
 
やがて、高校から大学、そして会社へと進路を歩むにつれて人と関わりが増え、範囲も広がった。
そんななか、時間の費やし方は自分の好きなことに没頭することより、人とのつながりの中で自分がどうみられているか思われているか、ということにいつの間にかウェイトが置かれていったように思う。
人によく思われたいモードに意識がいき、そんな意識が自分を押し殺し、やがては自分の好きなことにフタをしていった。
だから、夢中なものが何なのか素直に「自分の言葉」でポンと答えられなくなってしまっているのではないだろうか。
 
体は黙々とただひたすら目の前の草を刺しつ積み上げつつ、頭の中ではもくもくとこんなような思いが湧き出ていった。
作業が終わるまでこれはやむことがなく、ただただひたすら目の前のことに集中し、夢中になった作業体験は、そのまま自分との対話になっていったのだ。
どうやらこの日の体験は、何か刺激を与えてくれるもの、というよりまず自分のことを知る「動の瞑想」だったようだ。
 
自分で自分をないがしろにしていたこと、そしてそれが周りの目を気にしていたことによるものだった。
そんなことに気がつけた体験だった。
 
まだ時間はある。
いままでのように自分を押さえつけることをまずやめて、気なることに素直に手を出して、夢中になれるものを焦らずに探していこうか。
そして、「自分のことに時間を使うこと」
このことにも少しずつ慣れていこう。
 
 
 
 
***

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2020-08-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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