メディアグランプリ

親の臨機応変の対応が、子どもにとってマイナスになるとき


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記事:yocca.(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
自宅の前にある、信号のある小さな交差点。通勤通学の時間帯はそれなりに交通量があるので信号機が大活躍するのだが、日中は車通りも少なく、信号機だけがただ淡々と色を変えている。
 
皆さんの周りにも、これに似た道路や交差点はあると思う。
そのような道を歩いて通りかかるとき、「歩行者用信号は赤だけど、道路に車は一台も走っていないから、ささっと渡っちゃおう……」と思ってしまうことはないだろうか?
 
私もよくやってしまうことなのだが、幼い息子と一緒にこの道路を渡ったとき、とても考えさせられる出来事があった。
 
息子は当時7歳。小学校や絵本でいろいろなルールを学んでいるときだったと思う。
ある日の買い物からの帰り道、息子はトイレを我慢していたらしく小走りに走っていた。そして家まであと少しというところで、例の交差点の歩行者用信号が、無情にも赤に変わってしまったのである。
 
息子の我慢も限界に近づいていて、じっと待っていられない。目に涙を浮かべながらランニングのアイドリング状態のように、その場で激しくモジモジとしていた。
ここで我慢できなかったら大変なことになる……、と私は大いに焦った。「洋服が汚れれば洗うのが大変だし、本人も嫌な思いするだろう。とにかくトイレに間に合わせなければ!」と。
 
私はしびれを切らして
「車が一台も走ってないから、ささっと渡っちゃおう!」
と提案した。しかし、息子は
「信号が赤だもん! 渡っちゃだめだよ!」
と、叫んだ。自身の緊急事態にも関わらず道路を渡ることを拒否し、その場から一歩も動かなかったのだ。
 
その態度に私は「え~!? 待って間に合わなかったらどうするのよ?」とイライラしながらも、信号が青になるまで待ち、ゆっくりと横断歩道を渡った。そして渡りきると勢いよく走り帰宅し、寸前のところで事なきを得た。
 
あまりのギリギリの行動に、私は声を荒げて「なんで律義に信号が変わるのを待つのよ!?」と息子にあたってしまいそうになったが、それは違うかもしれない、と立ち止まった。
 
大人の私としては、「トイレに間に合わない」という緊急事態で臨機応変に対応しようと、道路に車が一台もいないことを確認した上で赤信号でも横断歩道を渡ろうとした。しかし交通ルール上それはルール違反。息子の方が100%正しいのだ。
 
結局「お母さんが間違っていたね。苦しくても交通ルールを守れて偉かったね!」と褒めるしかなかった。
 
このとき、何かで「親の行動が一貫していないと子どもが混乱する」という子育てコラム読んだことを思い出した。
それには「親が時と場合によってルールを変えて行動してしまうと、基本ルールが身についておらず状況判断も未熟な子どもには、何が正しい行動か理解できず、混乱する恐れがある」というようなことが書かれていた。
 
私たちのこのケースは、まさにそれに当てはまっているではないか!
「交通ルールは必ず守る」と学んだ息子にとっては、ルールを逸脱する私の提案はむしろ害になってしまうものだったのだ。
 
中には、「息子が強情すぎる」と思う方もいるかもしれない。しかし、ルールを律義に守って悪いことはあるだろうか? このケースに限らず、ルールに忠実でいることで、周りから信頼を得ることにつながるかもしれない。一方で簡単にルールから逸脱すると、トラブルが増えて信頼関係を失うことだってあるだろう。
 
そもそも「臨機応変な対応」というのは、基本的なルールがしっかり身についてはじめてできる対応である。また、その場の状況を的確に判断できなければできないことでもある。
そして、臨機応変な対応は、親が教えるというよりも、子どもが成長していく中で社会と関わりながら身に着けていくことだと思う。たとえそれが身につかずに不器用な生き方になってしまっても、社会のルールを守る能力さえ身についていれば、子どもはちゃんと生きていけるはずである。
 
そのように考えれば、子どもに「臨機応変に、柔軟に生きてほしい」と思うなら、子どもが状況をある程度判断できるようになるまでは、基本的な社会のルールを教えるだけでなく、自分もそのルールを守る姿勢を見せ続けることが、何より大事なのではないかと思う。
 
幼い子に対して、大人が社会のルールを教えるのは極めて大切なこと。挨拶をするのは自分以外の人と良好な関係を築くため。交通ルールを守るのは自分や周りの人の命を守るため。大人がルールを守っているから子どもも守ろうと思える、という視点を忘れてはいけない。子どもが「?」と思うような行動は、できる限り慎みたいものである。
 
この一件以降、私はたとえ車が走っていなくても、歩行者用信号を遵守するようにした。急いでいるときなど正直たまに苦痛に思ってしまうこともあるけれど、それがきっと将来の息子のためであり、たまたますれ違う子どもたちのためにもなるはずだ。そんなことを考えながら、今日も家の前の交差点で淡々と変わる信号を見つめるのだった。
 
 
 
 
***

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2020-08-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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