メディアグランプリ

もし「ドラえもん」がそばにいてくれたら

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:塚井綾(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ママ、最近太ったんじゃない」
という長男の一言に
「……たしかに」
とうなずく私。
このご時世で運動不足なのだ。
このままではまずいな、と思いつつ「ドラえもんを目指しているんだから、まぁいいか」と思う自分もいた。
 
コロナで家にいることが増えて、子どもたちは毎日のようにドラえもんを見ている。
「何本見たの?」と聞いてみると
「テレビでやるような話は数えられないくらい。昔のドラえもん映画は、18本くらいかな」という回答が返ってきた。
 
さらに昨日は、映画館に行こうとねだられて「ドラえもん のび太の新恐竜」を見に行った。
上映時間は2時間。つまらなかったら途中で寝てしまうかも……と思ったが、そんな心配は必要なかった。
ここでは詳細を語ることはしないが、今回も期待を裏切らないストーリーで、「助けてくれた恐竜は、もしや……」と過去の映画とリンクするような場面もあり、クライマックスは大人でも前のめりになってしまうような展開だった。
まだ見ていない方はぜひ、見に行っていただきたい!
 
もう気付いてしまったかもしれないが、実は私も、子どもに負けず劣らずドラえもんが大好きだ。
小学校1年生のとき、はじめて父に買ってもらった本はドラえもんの3巻。
実家には100冊を超えるドラえもんのマンガがある。
最近は山手線ゲームのお題を「ドラえもんのひみつ道具」にして子どもたちと遊んでいる。
 
ドラえもんにハマったきっかけは、小学校4年生の春だった。
朝起きて台所へ行くと、いつもいるはずの母が居なかった。
父が昨晩遅くに帰宅したとき、母は布団の上で意識がなく、嘔吐や痙攣もあったため救急車で病院へ搬送されたという。
そんなまさか、と思った。だって昨日の夜、いつもどおり夕飯を食べて、いつもどおり「おやすみなさい」と言ったのに。
 
父に連れられて、車で病院へ向かった。どうやら母は昏睡状態で意識が戻らないらしい。とりあえずその日は家に戻り、翌朝また病院へ向かった。
母の心臓は止まっていた。
病院の先生たちが心臓に電気ショック与え、ベッドの周りでは父方、母方それぞれの祖父母と父が、心配そうに見守っている。
9歳の私と4歳の弟は、部屋の外で待たされていたのだと思う。母の病室の様子を遠目に見ている風景など、この日は断片的にしか記憶がない。
結局、母の心臓が再び動くことはなかった。享年36歳だった。
 
それから我が家では、父方の祖父母、父、私、弟の5人で暮らすことになった。
もともと私は、自分で言うのもなんだが好奇心旺盛な子どもだったが、次第に「あんなことをやってみたい、こんなことをやってみたい」と口にしなくなっていった。
なぜなら祖父母や父から
「うちには母親がいないんだから、他の家のようにはできない」
「なんでも一人でできるようにならないとダメだ」
と口を酸っぱくして言われたからだ。
 
「英語を話せるようになりたいから、海外にホームステイしたい」
思い切って祖父に打ち明けたこともあった。
「家のことも満足にできないのに、ホームステイなんかできるはずない。まずは家のことを手伝え」
これが祖父の回答だった。
掃除や食事の支度など自分なりに頑張ったが、結局ホームステイに行かせてくれることはなかった。
 
当時、祖父母は自営で働いていたし父はサラリーマン、弟はまだ4歳で手がかかる。
みんな精一杯だったのだろう。大人になった今ではわかるが、当時の私はまだ10歳足らずだ。
 
何を言っても一言目には否定をされる。
頑張っても結局は叶わない。
この人達に何を言っても無駄だ。
そんな気持ちで溢れかえっていた。もしドラえもんが側にいてくれたら、どれだけ心が救われただろうか。
 
ドラえもんは、どんなにのび太が甘えたこと、情けないこと、呆れるようなことを言っても、受け入れてくれる。
ただ甘やかしているだけではない。厳しくお仕置きしたりもする。
そしてときには、のび太と同じ目線に立ち一緒に遊んでくれる。
そこには愛を感じるのだ。そんな人が側に居てくれたらどんなに幸せだろう。
そんな思いが強かったからこそ、母になったいま私は、自分の子どもたちにとって「ドラえもん」になりたいと思っている。
 
日曜日の夕方、17時。そろそろ夕飯の支度をはじめないと、と思っていると末っ子の三男が近寄ってきて
「ママ、公園に行こうよ。ぼく、セミをとるのがうまいでしょ。もっともっといっぱいとったら、セミ博士になれるかもしれないんだよ」
と言う。4歳の渾身のプレゼンだ。
「午前中も公園に行って、たくさんセミをとったでしょ。もう夕飯の時間だから今日は行けないよ」というのは大人にとってはもっともな回答、だけど子どもにとっては違う。だから、ぐっと飲み込む。
「そうなんだ。何匹とったらセミ博士になれるの?」
「えっとね、1,2,3……9匹!」
これはまた、中途半端な。そんなところも愛おしい。よし、いっちょ行ってみますか。
「じゃぁ、公園1個だけだよ」
「わーい!」
そうして結局、私もセミとりに夢中になって、公園を3つもはしごしたのだった。
(そして他の家族には「夕飯はまだか!」と怒られることになる)
 
体型が似てしまわないように気をつけつつ、これからも我が子にとって「ドラえもん」であり続けようと思う。
今日も一日、楽しかったね! と一緒に笑っていられるように。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-08-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事