メディアグランプリ

3分10万円の投資が自分にもたらしたもの


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:木内文昭(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「3分10万円でプレゼンする時間を買ったということか……」
仲間と会社を共同創業してから1年が経とうとしていた。
メンバーはアルバイトも含めて10名になったものの、その頃僕たちの事業はまだ赤字続きで苦しい状態が続いていた。
 
創業してから約1年、僕はWebサイトの開発やビジネスの経理やカスタマーサポートなど、
営業と広報以外のビジネスを回していく上で必要なビジネス運用面全般を担当していた。
 
サービスを開始してから少しずつビジネスが回り始めていたものの、目標とする事業計画には程遠く苦戦が続いていた。
役員陣の経営合宿で出した結論としては、集中する領域を改めて絞り経営陣の責任分掌を変えて再スタートすることだった。
 
その日を境に僕はそれまでのビジネス運用面担当から最前線の営業責任者になった。
それは、サッカーで例えるとゴールキーパーからいきなり点を獲るフォワードになるようなものだった。
 
僕たちのサービスはまだまだ知名度が低く、先行する企業何社かの後塵を排していた。
ビジネス市場全体としては時折メディアに取り上げられるなど徐々に注目は集めていたものの、
自社を知ってもらう活動を熱心にしていかなければ生き残れない、そんな状況だった。
 
営業責任者として、自社サービスを広める機会を自ら作り出さなければならない。
会社全体としてメディアに取り上げられるための広報PR活動をしていくことに加えて、
様々なところで行われている「ベンチャービジネス向けイベント」などの場で
自社を広く知ってもらう機会を増やすことが必要だった。
 
僕自身のキャリアとしてはどちらかというと地味な法人相手のビジネス経験がほとんどで、
大勢の人の前でプレゼンをしたりすることはほとんど行ったことがなく、正直言って苦手意識があった。
 
今までほとんど経験のない苦手なことではあったけれども、
営業責任者として自社サービスを広め、ビジネスに繋げることができなければ会社は倒産する。
そんな危機感を胸に、やるしかないと自らを奮起させた。
 
するとある日、知人から紹介したい大阪市役所の担当者がいると連絡をもらった。
大阪市役所の人と繋がれると、何かビジネスチャンスが広がるかもしれない。
指定されたのは休日のランチだったけれど僕は行くことにした。
 
Sさんは非常にトークが面白く的をついていて、公務員とは思えないほどビジネスセンスが際立っていた。
市役所員と聞いていなかったら敏腕商社マンか何かと思っただろう。(実際、数年後に自分で起業された)。
楽しいランチミーティングが終わろうとしたそのとき、急にSさんの表情が変わった。
 
「一つご提案があります」
 
大阪市主催のベンチャー向けイベントの懇親会で10万円を協賛してくれないかとのお願いだ。
その引き換えに自社の告知ができるプレゼン時間を提供します、とのこと。
 
底抜けに明るいSさんから「今回は3社限定なんですが、貴社みたいな先端サービスを多くの大阪の人に知って頂く機会を是非とも作らせてください!」と熱心にお願いされた。
 
直前の会話で大阪市を一緒に盛り上げましょう! と盛り上がったことと、
Sさんの関西ノリの軽妙なトークからの流れで断りきれない雰囲気になってしまった。
僕は苦笑いしながらも「良いですよ」とSさんに答えた。
 
そのイベントでは約100人の人が集まり、その後の懇親会で3分プレゼンができる。
つまり、3分のプレゼンが出来る機会を10万円で買ったということだ。
 
参加者に対し、どんな内容を、どんなトーンで、どの様にプレゼンするか。
その後、聞いてくれた人にどの様に行動して欲しいか。
10万円をいかに「活きた投資」にするかを必死で考えた。
 
当日まで一人でプレゼンの練習をする日々が続いた。
懇親会の場がざわざわ騒がしいことを想定して、
スピーカーでインパクトある曲を流して聴衆を引きつけてから
プレゼンを開始するという作戦を思いついた。
 
プレゼンが決まってからというもの、50回は練習しただろうか。
前の日に大阪に移動し、移動中の新幹線で、宿泊先のホテルで、
追加で何回か練習して当日を迎えた。
 
大阪市にとっては懇親会前のベンチャーイベントがその日のメインだったが、
僕にとっては懇親会のプレゼンこそが、メインイベントだった。
 
そしてしばらくして自分の出番となりプレゼンを始めようとしたその時、
あり得ないことが起きた。
 
スマホとの接続が上手くいかず、スピーカーから音が出ない。
曲を流してから話をし始めるタイミングを細かく決めていたので、
頭が真っ白になった。
 
ざわざわしていた会場がしんと静まり返った。
焦る自分に視線が集まり、沈黙が数分の様に感じられた。
 
結局最後までスピーカーから音は流れなかったけれど、
ふと「聴衆の関心を惹きつけられている」ことに気付いた。
なんとか気持ちを立て直し、説明をし始める。
 
たくさん練習したおかげでプレゼン内容自体はしっかりと、話すことができた。
そして、あっという間に持ち時間の3分が終わった。
 
その後いくつかビジネスに発展しそうな何名かとの繋がりができた。
なんとか本来のビジネスのタネを作るという目的は達成することができたものの、
最初のプレゼンデビューはほろ苦いものになってしまった。
 
準備は大事だけれども、機材トラブルなどアクシデントは起こる。
その場その場の状況に合わせた「場慣れ」が大事だと痛感した。
 
その翌日から、少しでも人前でプレゼンする機会を得るべく、
仕事に関係しそうなイベントはくまなくチェックし、できる限り足を運んだ。
 
1分でも自社のことをプレゼンできる機会があれば申し込み、
飛び込みでもプレゼンできる機会があれば手を上げた。
 
数をこなしだんだんと慣れてくる中で、知り合った人の会社で
少し長めのプレゼンや勉強会をさせてもらうことも増えていった。
 
プレゼン前に「聞き手の関心事は何か?」ということを書き出して整理し、
またプレゼンごとに最低でも1枚は新しいスライドを追加作成し、
必ず新しい要素を入れるというルールを自分に課した。
 
勉強会の後、実施できるときは必ずアンケートをお願いし、感想を読み込んだ。
時に、自分のプレゼンを録音して後で聴き直して改善を繰り返した。
 
それから数年後。
最初のほろ苦い体験からその後、何度プレゼンをさせてもらっただろうか。
 
おかげさまで自社のビジネスは立ち上がり、
数百人規模を対象に1時間以上話す講演や大企業でフィーを頂いて行う登壇機会も増えた。
 
あの最初の強烈な体験のおかげで、事前準備を入念に行い、自分に課したルールを守っている。
未だに緊張することはよくあるけれど、数をこなすことで「場慣れ」はしたと思う。
 
苦手だと思うことでも、その実施機会を増やす努力を積み重ね、きちんと準備することで
必要なスキルを習得できるということは自分の大きな自信になった。
 
あの時「3分10万円」でプレゼン機会を買ったことは、十分お釣りが来る程の投資となった。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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