メディアグランプリ

うちの「おんじ」と「都市型ヨーゼフ」


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記事:米村 彩加(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
みなさんは「アルプスの少女ハイジ」をご存じだろうか?
 
ざっくり言えば、両親を亡くした主人公ハイジが、アルプスの山にいる祖父に預けられ、途中様々な出来事や人に出会い、成長しながらも大自然のもとで生活し、まわりの人の心を元気にしていく話である。
たとえアニメを見たことがなくても、某有名塾のCMにもシリーズ化して使われたことから、キャラクター達は多少わかるのではないだろうか。
 
その「アルプスの少女ハイジ」を愛する人物がいた。
私の夫である。
小さいころからハイジを見て育ち、あのほっこり感が好きだといっていた。
だからといってグッズを集めているわけでも、毎晩アニメを見るわけでもなく、家で主題歌を口ずさむ、その程度だった。
 
ほっこりするハイジが好きなこととはうらはらに、夫はせっかちで、勝気な性格だ。
毎日遅くまで仕事をして、休日も意識高めの本を読み、「もっとお金を稼ぎたい」と野心を燃やし、本などで得た知識を私に披露したり、アドバイスをくれたりと、基本よく喋る。
そんな夫に変化が訪れたのは、外資系企業に転職して少し経った頃だった。
 
いつもと同じくらいの時間に仕事を終えて帰ってきた夫が、Huluという動画配信サービスで「アルプスの少女ハイジ」を見始めた。
 
その日を境に、我が家のテレビに映るのはNEWS ZEROの村尾さんやワールドビジネスサテライトの大江アナからハイジになった。
 
そして週末、朝から「出かけよう」と言われ、ついて行くと、夫は2~3時間車を走らせた。
 
たどり着いたのは日本のアルプスが見える長野県だった。
「ハイジの影響? 気分転換?」位に軽い気持ちで、山のドライブと長野のおいしいごはんを楽しんだ。
 
しかし、翌週も、その翌週も同じように平日のハイジ、週末の山というルーティンは繰り返された。
 
たしかに自然は気持ちがよく、ドライブは楽しかったし、長野のごはんを食べられるのもうれしかった。
 
ただ、繰り返すほどに「なんで毎週?」と不安になったが、何週間か経ち、気づいたことがあった。
 
平日、夫はまるでハイジが預けられていた祖父「おんじ」のように、気難しく、あまり仕事の話をしなくなっていた。
そして、休日も意識高めな本を読むことから離れ、自然の中に飛び込み、静かに山を眺めていた。
仕事から帰ると、慣れない環境に適応できず、辛そうだったが、山に行くことで、気持ちをリセットし、バランスを保っているかのようだった。
 
だから、私は一緒に平日のハイジ、週末の山のルーティンに付き合い、見守った。
 
そんな日々の中、我が家の愛犬も半ば強制的ではあるが、そのルーティンに付き合うことになっていた。
 
週末、「おんじ」のようになった夫とともに、我が家の愛犬も「おんじ」の愛犬ヨーゼフのように山で過ごすようになった。
しかし、決定的な違いがあった。
ヨーゼフは、セント・バーナードという、人間の大人ほど体重があり、犬の中でも最上級の大型犬、それに比べて我が家の愛犬は、小型犬のティーカッププードル。
ヨーゼフは自然の中を駆け回り、山でも頼もしい存在だが、うちの愛犬は、散歩がそこまで得意ではなく、自ら歩くより抱っこが好きで、虫さえも怖がる。
 
そう、自然派なヨーゼフとは異なり、どちらかといえば都市型だ。
 
そんな都市型の愛犬を自然になれさせようとする夫。
 
何回目かの週末の山から、夫の目的が、ただのリフレッシュから変化したように感じた。
 
愛犬も山に連れていかれ、圧倒的な自然を前に最初こそ怖がっていたが、少しずつしっぽを上げるようになり、自然の楽しみ方を覚え始めた。
山の寒さは小型犬には厳しいので、靴を履き、洋服は着ていたが、少しだけヨーゼフに近づいていった。
 
愛犬のヨーゼフ化が進むにつれ、夫も少しずつだが、以前のように仕事の話をしてくれるようになり、意識高めの本も再び読むようになった。
そしていつの間にか我が家のテレビを独占していた平日のハイジは、52話の最終回を迎えた。
 
夫は、初めての転職で、日経企業と外資系企業の働き方や考え方のGAPに戸惑い、「おんじ」のように山に引きこもりたかったのかもしれない。
しかし、平日のハイジで「おんじ」が他人への不信感を乗り越え、少しずつ人とのつながりに心を開いていく様子を見ることで、さらに週末に山を訪れ、「おんじ」気分を味わうことで、同じように少しずつ新しい環境に心を開いていったのかもしれない。
 
リフレッシュの仕方は人それぞれだが、夫の場合は「アルプスの少女ハイジ」の「おんじ」体験だったのだ。
 
今では家のテレビをハイジが独占することはなくなった。
しかし、毎週でこそなくなったが、今でも仕事に打ち込む日々が続くと、車を走らせ山に向かう。
きっかけは夫の「おんじ」体験だったが、今では家族で心から山や自然を愛し、すっかりアウトドアにはまり、「山に行こう」が我が家のリフレッシュの合言葉になったのだった。
 
今週、私はライティングゼミの課題に追われ、夫も日付が変わりそうだというのに、まだ仕事に追われている。
だからきっと今週も「山に行こう」と合言葉を言って、私はうちの「おんじ」と「都市型ヨーゼフ」とともに山に向かうのだろう。
そう確信している。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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