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前を向いて歩こう


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:米村 彩加(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
「下向かない! 背筋を伸ばして、前を見る」
 
人見知りを克服したい! その思いから新卒でアパレルの販売員になった。
そこで最初に配属された店舗で先輩方から何度も言われたこの言葉。
それまで意識したことはなかったが、私は下を向いてしまう癖があった。
 
たしかに昔から小銭を拾うことが多かったり、友人とすれ違っても声をかけられるまで気付かなかったり、電柱にぶつかって鼻血をだしたり、道を覚えるのが苦手だった。
思い起こせば、それらは全て下を向いて歩いていたからだったのだと思う。
 
元々自分に自信がなかった私は、授業で突然あてられてみんなの前で発表しなければならなかった体験や、道端で突然知らない人に「ブス」と怒鳴られたトラウマから、下を向いてしまうことが多くなっていたのだ。
 
そうして、新米販売員の私は、人見知りより先に直さなければならない課題に直面した。
 
しかし、無意識に下を向いてしまうため、自分で中々気付く事ができず、何度も何度も注意をされた。
「下を向かない」そんな単純な行動ができない自分に腹が立ち、先輩方には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。なかなか直らない私に、ある先輩がやさしく教えてくれた。
 
「なんで下向いちゃダメだって注意されるかわかる? 売場に下を向いて居られると、それだけで感じが悪いし、お客様が話しかけづらい。しかも、もしお客様が困っていても気づくこともできないよ」
 
そう、それは「周りが全く見えていない」という販売員としてあるまじき姿だ。
当然、入社してから数ヶ月、私は同期の中でも売上が最後の方だった。
 
注意されて、ただ漠然と直さなければと焦っていたが「なんで直すか?」まで考えていなかった。
 
それからは「下を向かない」というよりも、「自分は今話しかけやすいか」「まわりに困っている人はいないか」ということを意識する様になった。
 
話しかけてくださいオーラを出しながら、困っている人や話しかけれそうな人を見つけては自ら話しかける。
それでも何度も人見知りを発動して、変な空気になってしまうことも多かったが、必死に意識して、話しかけてくださいオーラを出しながら話しかけ続けた。
 
すると、少しずつだが売上も上がり、自信がついていくのがわかった。
 
そして、売上が同期のなかで1番になった時、仕事中だけでなくプライベートでも下を向くことが減り、面白い広告や街の変化に気付けるようになり、人に話しかけられることが増えた。
 
そんなある日の仕事帰り、家の近くのコンビニに入ろうとすると、一人の男性に話しかけられた。
 
「すみません。今忙しいですか?」
 
金曜の22時頃だった。
その男性は、ナンパのような雰囲気ではなく、手には名刺入れを持ち、少し困った様子だった。
翌日も仕事だったが、コンビニでごはんを買って帰るだけだったので話を聞いてみた。
 
すると、男性は某有名アーティストが所属する事務所で働いており、近くのスタジオで今度デビューする新人アーティストのレコーディングを行っていると言い、名刺をくれた。
そして、どういうわけか「どうしても曲の最後に女性の笑い声を入れたい」という流れになって、今協力してくれる女性を探しているところだと言った。
 
正直、かなり胡散くさかった。
話しかけてくださいオーラの出しすぎかと少し反省もしたが、今までなら決して話しかけられなかったのではないか? と謎にポジティブにとらえた。
しかもその男性は、胡散くさいだけではなく、とても話が上手で、面白かった。
「私もこんな風に上手にはなせたら、もっと自信が持てるかも!」と、そのコミュニケーションスキルに興味を覚え、そのまま話を聞き続けた。
 
気付くとその胡散くさい男性について行っている自分がいた。
 
そして案内されたのは、狭い階段を降りた先にある小さなドアの前だった。
 
急に我に返り、怖くなったが、もう逃げられない。
 
ドアを開け、中に入るとそこは本当にレコーディングスタジオだった。
あやしい小さなドアからは想像ができないほどたくさんの人と本格的な機材が並んでいた。
そしていかにもプロデューサーという風貌のおじさんやデビューを控えた新人アーティストの方々が代わるがわる挨拶にきて、思わず恐縮するほど感謝された。
 
次に案内されたのは、さらに奥にある、マイクだけがある小さな部屋だった。
ヘッドフォンをつけ中に入ると、耳元からおじさんたちの声が聞こえた。
 
「よくこんなあやしいお願い引き受けてくれましたね。女性スタッフもいないし、こちらもあやしいのは重々承知なので、なかなかお願いもしにくくて……3時間くらい止まっていたのでみんな半ば諦めていたところです。本当にありがとうございます」
 
再びお礼を言われ、世間話が始まった。
話した内容は覚えていないが、最初の男性同様、おじさんも話がとても面白く、私は自然に笑っていた。欲しかった笑い声が録音できたようで、レコーディングは5分ほどで終わった。
 
そしてよくわからない同意書みたいなものにサインと連絡先を記載し、再びの感謝とともに、地上にでた。
 
話しかけられてから30分ほどの出来事だった。
 
もしかしたら男性はだれにでも声をかけていたかもしれない。
でも、前までの下を向いていた自分だったら、話しかけられなかったかもしれないし、こんな体験できなかったかもしれない。そう思った。
 
顔を上げ、まわりを見回せば、日常にはたくさんの「面白い」が隠れていることを実感した。
そして話しかけてくださいオーラは、その「面白い」を引き寄せる魔法のようなものだと思った。
 
だから今日も、私は前を向き、話しかけてくださいオーラ全開で街を歩く。
ほんの少しの危機感と自信を身に着けて。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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